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#019 ルルネ様、小動物系女子と出会う

「ダンジョンに行くのじゃ!」


始まりの街、中央区。

私は配信を見ている視聴者さん達に向かって宣言した。


道行く人達が何事かとこちらに振り向くけど、そんなことは全然気にしない。

ふふふ、最初この街に降り立った時は、あまりの視線の多さに戦略的撤退を余儀なくされたけど、今ではどれだけ見られていても余裕だ。

これぞ成長ってやつだね。

自分の成長速度が怖いよ。


それに、ENOにおいて配信者という存在はまだそれほど多くはないけど、プレイヤーの集まるところに行けばたまに目にすることもある程度の数はいる。

一人で喋っていても「あぁ、配信中か」と思ってくれて、それほど気にする人はいないんだろう。

堂々していればいいのだよ。堂々としていれば。


何だか配信をする度に少しずつ、街の人達が生暖かい視線を送ってきているような気がするのは、多分気のせいだと信じてる。


『ダンジョン?』

『そういえばフィールド狩りしかしてきてないよね』

『ダンジョンかぁ』

『この辺りだとどこがいいだろう?』

『ついにダンジョンか』


「んむ、ファンタジーゲームにおいてダンジョンは必須じゃからな!我が真祖としてのカリスマ性を広めるには十分じゃろう!」


昨夜澪音が持っていたダンジョンもののボードゲームでボコボコにされて、「姉さんは迷路とかダンジョンの才能が0ですね」と言われたからでは決してない。


ちなみに改めて説明する必要はないと思うけど、ダンジョンというのはフィールドマップとかに点在している簡易的な戦闘フィールドだ。

迷路だったり、遺跡だったり、洞窟だったり、色々な種類があるんだけど、だいたいは最奥にボスが待ち構えていて、お宝を守っているのは共通している。


ENOにおけるダンジョンは膨大な数が存在するため、未だに未発見のエリアや未発見のダンジョンそのものが見つかったり、このアストニアの歴史に関係する文献が見つかったりと、かなり奥深いと澪音から教えてもらった。

それ故にダンジョン探索をメインに据えたプレイヤーや、自称考古学者のプレイヤーもおり、ENOの人気コンテンツの一つらしい。


「というわけで、我が眷属達よ!オススメダンジョンを教えるのじゃ!」


『オススメかぁ』

『レベル的にはタルタリアの迷宮かなあ』

『ロード遺跡も良い』

『リムロ大橋橫のロード遺跡』

『この辺りじゃザンギス洞穴も楽しいかも』

『ダンジョンもピンキリだからな』

『ロード遺跡は視界が広くて戦いやすいし、ダンジョンの基本が知れる良ダンジョン』

『初めてのダンジョンならロード遺跡かな』


何だかロード遺跡ってところ多そうだねぇ。

めもめも。あとは……。


『愚者の魔術塔』

『↑最前線ダンジョン教えるなww』

『魔術塔はクソムズ未踏破ダンジョンやぞ』

『正直魔術塔でギャン泣きするルルネちゃんは見たい』

『わかる』

『わかる』

『俺も愚者の魔術塔がいいと思う』

『愚者の魔術塔かな』

『愚者の魔術塔一択』

『魔術塔しかない』


「はぁ?我真祖じゃから、生まれてこの方一度も涙を流したこととか無いのじゃが?」


『草』

『うける』

『そうだね』

『わかる』

『wwww』


こやつらぁ……!



「――…あ、あのすみません」



私が眷属どもを教育しようとしていると、突然背後から声がかけられた。


「む?」


「あの、えと……ルルネ、さんでよろしいでしょうか?」


私に話しかけてきたのは黒髪ショートカットの女の子だった。

ぱっと見た感じは私より少しだけ年下に見える。学生さんかな、たぶん。

墨のような汚れの着いた白シャツとズボン、皮でできた作業用のエプロンにはいくつもの金槌やら、くわがた虫の顎みたいなハサミやら、何に使うか分からない道具がたくさんついていた。


顔はすんごく可愛いのに、服装からはそうした部分を活かそうという気がまるで感じられない格好。


製作プレイヤーさんかな?


とんでもなく緊張しているのか、両手を組んでモジモジしている。

私をチラチラ見ているけど、視線を合わすとサッと目を反らすのが可愛い。

家で飼っているハムスターのハム吉を思わせる。


あれじゃな、きっと。我のカリスマ性におののいているに違いない。

クククッ、最近は我を舐めている輩が多いから気分が良いのじゃ!


『かわいい』

『真祖さまの配信はかわいい子を集める』

『あれ、この子どこかで』



「うむ、我こそが真祖にして、闇を統べる吸血姫、ルルネ=フォン=ローゼンマリアⅣ世じゃ!畏敬を込めてルルネ様と呼ぶが良いッ!」

「ひやぃッ!?」


初対面なのに突然の大声で驚かせちゃった……。

いけないいけない、強者としての余裕を見せなきゃ。


「こほん。して何用じゃ?」

「え、えと、私は鍛冶ギルド【きゅくろぷす】の筆頭斧鍛冶師、ヨナといいますっ。その、る、ルルネ様は心核をお持ち、ですよね?」


やだ、この子。

ちゃんとルルネ様って呼んでくれる。

素直かわいいかよ。


「んむ、ガロウの心核を持っているのじゃ」

「や、やっぱり……!よ、よろしければ、私にその心核で、斧を作らせて頂けないでしょうかっ!?」

「ふむ……なるほどのぅ」


まあ斧鍛冶師ってだけで用件はある程度予想がついていたんだけど、製作依頼かぁ。

正直私がガロウを倒してからというものの、配信外で「心核装備を作らせてほしい」という生産プレイヤーさん達からのメッセージはかなりの数来ていた。


討伐報告の殆ど無いネームドモンスターのレアドロップ素材。

生産特化プレイヤーじゃない私でも、その素材で装備を作りたいという気持ちはよく分かる。

本業のプレイヤーからしたら、またとない好機だろうしね。


メッセージをくれたプレイヤーさんの中には、最前線プレイヤーの職人さんも居たんだけど、私はその全てを一度お断りさせてもらっていた。


理由は簡単で、何の装備を作るか決めきれていないから。

心核は説明文によると、武器、防具、アクセサリー、いずれかの装備素材として使用可能らしい。


現状で今一番必要なのは武器だけど、心核の希少度から考えてもそう簡単に決めきれないよね。

防具は【若草装備】が気に入ってるけど、心核装備が特殊な性能になるなら、防具も選択肢に上がる。アクセサリーだって殆ど持ってないから、今すぐ必要なわけじゃないけど、不足しているとも言える。

心核装備の情報なんて殆ど無いから、適当に決めちゃっても良い気もするけど、うーん……。


『【きゅくろぷす】って、鍛冶の最大手ギルドだよね?』

『↑そう』

『最前線プレイヤーが武器製作依頼するときはだいたい【きゅくろぷす】に依頼してる』

『心核装備作ってみたい気持ちは俺もよく分かるわ』


ふむ。

コメントを見た感じは有名ギルドみたいだけど、正直その辺りのことはよく分からないんだよね。


「筆頭斧鍛冶師、というのはよく分からぬが、斧専門の鍛冶師、ということじゃろうか?」

「あ、その、私たちのギルド【きゅくろぷす】は、各武器の種類ごとに、部門が別れているんです、はい。ひ、筆頭というのは、その部門で一番腕の良い職人に与えられる役職で、せ、僭越ながら、私は斧部門の筆頭鍛冶師を、つ、務めさせて頂いてます……」

「む、それは凄いのじゃ!」

「い、いえ!お、斧はその……それほど人気無いので、部門の人数もその……あんまり多くないから、なのですけどね。」


しょんぼりとした表情でヨナちゃんが肩を落とした。

むう、斧とか一番カッコいいのに……!


『【きゅくろぷす】の筆頭であれば、現在のギルド所属中の鍛冶プレイヤーのトップじゃね?』

『これは受けて良いのでは。』

『おどおど系の美少女なのに斧鍛冶師っていうギャップに萌える』

『斧が不人気なのはRPGの宿命』

『斧が最強のゲームって存在しなくね?』


「何を言うかっ。斧こそ至高の武器じゃろうっ」


私がコメントに向けて発言すると、ヨナちゃんの目が一瞬だけ光ったように感じた。


「そうですよねッッ!!!!!!」


「……ほへ?」


「ルルネ様は分かっています!斧こそ至高の武器なのです!美しい見た目!古来から人類と歩んできた武器でもあり、生活の必需品でもある斧!火力に全振りしているから弱い?ノン!武器とは本来、相手にダメージを与えるもの。その能力に特化している斧こそが原初の武器であり、真の武器なのです!攻撃力が高いのだから武器としても最強なのは自明の理ですよね!殴っても良し!切っても良し!投げても良し!あぁ、なんたる純然たる暴力!あぁ、なんたる法悦!」


「……ぴやッ!?」


『ヒエッ』

『!!?』

『こわいこわい』


「そもそも斧が弱いなんていう人間は使いこなせていないだけなのです!隙の多さなんてものは立ち回りでカバーできます!それができない弱者が安直に『弱い』なんて腑抜けたことをのたまうのですよ!この美しさが理解できないなんて憐れみすら覚えますね!そもそも斧は重心が先端に集中しているからこそ、威力が出ますし、独特の衝撃を発生させます!敵に斧をぶつけた刹那、グリップから伝わるインパクトときたらそれは――」


「わ、分かったのじゃ!作って良い!斧作って良いのじゃ!」

「――あ、その、よろしいのですか?あ、ありがとうございますっ」

「う、む」


な、何だか怖い子だった。

私は空中にウィンドウ画面を開くと、逃げるようにそそくさと心核と素材であるガロウの部位アイテムをヨナにトレードした。


「も、申し訳ないのじゃが、実は我お金持ってなくてのぅ。ガロウの素材アイテムを買い取ってくれると助かるのじゃが……」

「な、何をおっしゃいますか。えと、わ、私達職人にとって、心核装備製作なんてまたとない機会なんです。お、お金をいただくなんてできません……!むしろ私がお支払いしたいくらいで……」

「むぅ、よく分からぬが作ってもらえるのに、お金までは受けとれぬのぅ。であればお言葉に甘えさせてもらうのじゃ。……こほん、ではヨナよ、我にふさわしい至高の斧を頼むのじゃ!」

「は、はい、お任せください……!」




―――――

一話で収めようとしていたお話が、おもったより長くなってしまい、2話に分けて投稿させて頂きます。そのため次回の話はすこし短めです。

次話は同日中に投稿します。

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― 新着の感想 ―
[一言] >『斧が不人気なのはRPGの宿命』 >『斧が最強のゲームって存在しなくね?』 ラグナロク(斧)とか普通にあるからなぁ・・・ 後FF11とかは普通に最強格
[一言] 圧が強いwwwまた濃いキャラが来たなぁwww
[一言] 典型的なオタクやんw、可愛い女の子だから微笑ましいけど
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