#010 ルルネ様、初心者装備から脱却する
装備が完成するまでの時間、私はレベル上げ作業に勤しんだ。
RPGにおいて、レベルというのはどのゲームにおいてもだいたい絶対のものだ。
いくらゲームが上手だったり、そのゲームに精通していたとしても、ある程度のレベルが無くては攻撃だって通らないし、勝負にすらならない。
というわけで、私は前に鎧の人がレベル上げに良いとオススメしてくれた東の草原で、黙々とリーフラビットを狩り続けていた。
なんかこのゲームを始めてから、殆どが兎としか戦っていない気がするけど、正直リーフラビット相手であれば、もはや負ける気がしない。
最初のうちは丁寧に「敵の突進→牽制の遠距離攻撃→突進回避→攻撃」っていうふうに戦っていたんだけど、今は目が慣れてきて「牽制の遠距離攻撃」のプロセスも省いて、突進を回避できるようになった。
ふふン!これもレベルが上がったおかげだね。
まあスキルレベル上げのためにも、必要なくてもスキルは使うんだけど、それはそれ。
自分が強くなってるのが実感できるから、レベル上げという作業は嫌いじゃない。
ステータスはSTRとAGIを基本に、少しだけINTにも割り振ってみた。
どうしても近距離戦以外の戦いでは血魔法に頼らざるを得ないし。
以前より更に強くなったステータス画面を確認しながら、一人にまにましていると、目の前にチャットウィンドウが浮かび上がり、通知が表示された。
発信主には【澪音】の名前。
同じ家にいるんだから、直接言えば良いのに。この照れ屋さんめ。
『白玉さんから装備が完成したとの連絡がありました。受け取りにいきましょう』
む!
ついに完成したんだね!
装備発注してから2日という話だったけど、ほぼ1日とちょっとで完成しているのは、流石プロの仕事といったところだろう。
それにしても新装備かぁ。
今装備している初心者用装備の「いかにも初期装備です」みたいな見た目をようやく脱却できる。
やはり真祖は高貴な生き物だからね。
身に纏うものも、それなりの気品が必要なのだよワトソンくん!
はやる気持ちを抑えながら、私は両手斧をインベントリに戻すと、小走りで始まりの街へと踵を返した。
――――――
「お待たせしたね、ルルネ君。依頼の品が完成したよ」
始まりの街の大通りに位置する白玉防具店。
その店主である白玉さんから、トレードを申し込まれる。
「ふふふ、この時をどれ程待ちわびた事か……!じ、じゃが本当に料金はいらんのか?」
「大丈夫。その装備を着けてたくさん配信で戦ってくれるだけで充分だよ」
そう言ってもらえるなら、白玉さんの好意に甘えさせてもらうことにしよう。
ウィンドウに表示されたトレード申請の受理のボタンを押した。
【『若草のドレス』をトレードしました】
【『若草のヒール』をトレードしました】
【『若草のブレスレット』をトレードしました】
【『若草のリボン』をトレードしました】
インベントリに次々と交換されたアイテムが追加された。
若草装備っていうんだ!
名前もなんだか可愛い。
「若草装備のシリーズは一式装備化させてあるからね」
少しだけ得意気に白玉さんが口にした。
よほどこの作品に自信があるのだろう。
それにしても聞きなれない単語が聞こえたけど……、一式装備化?
「一式装備化というのは、複数の装備をひとつの装備扱いにするという機能です。装備というのは本来一つ一つの部位に装備するのですが、一式化された装備はひとつの部位に装備すると、その他の部位に同じシリーズの装備以外をつけられなくなります」
不思議そうにしていた私に同行していた澪音が説明してくれる。
「ふむ、頭に若草装備、服は初心者装備なんてことが出来なくなるということじゃな」
「そうですね。一式化することによって、色々な装備を付け替えて細かいステータス調整をしたりすることはできなくなりますが、その分、装備の性能が上がるというメリットがあります」
「なるほどのぅ」
「今の最前線プレイヤーの殆どの方も一式装備を使っていますね。そのぶん一式装備は作るのが難しいので、製作者の腕やレベルが必要で、レアリティも高いのですが」
「ほほう!至れり尽くせりじゃな!」
具体的な価値は分からないけど、すんごいものを作って貰ったらしい。
これはたくさん宣伝して貢献しなきゃ……!
《若草装備シリーズ》
STR +20
AGI +45
LUK +11
状態:一式化
スキル:兎の幸運
・リーフラビットの素材を織り込んだ、ドレス。その衣は使用者の動きを阻害することなく、羽のように軽い。兎の加護により幸運が微かに増すとか増さないとか。
「自分で言うのもなんだけど、かなりの高性能装備になったと自負しているよ。回避装備なんて作ったこと無かったから、ついつい腕がなってしまってね」
「ほんと感謝するのじゃ!配信でたくさん使わせて貰うぞ!」
「いやいや、僕も打算込みだし、気にしなくても良いからね。その装備を着て戦う君が見られるのを楽しみにしているよ」
―――――
「こんばんはじゃ!けんぞくども!」
『ばんはー』
『まってた!』
『今日もちんまい!』
『初見です』
『かわいい!』
『挨拶できて偉い』
『こんー』
装備を受け取ってから1日。
澪音から「ガロウを発見しました」とのメッセージを受け取った私は、急いで東の草原に向かうと、澪音と合流し、配信を開始した。
「今日はガロウというネームドモンスターと戦うのじゃが、流石の我もソロではきつそうじゃから、助っ人を一人呼んでいるのじゃ!」
『おおー!』
『二人でも無理ゲーなのでは?』
『だれだれ?』
『真祖ちゃん友達居たの?』
『四人でもきついぞ』
「――こんばんは、澪音と申します。この度は姉さんの配信にお邪魔させてもらっています。皆様よろしくお願いします」
カメラの画角に澪音が移り込めば、ペコリと丁寧な挨拶をする。
『え?』
『は?』
『澪音ちゃんじゃん』
『なんでいるの?』
『澪音さんだああぁぁ!』
『マ?』
『姉さん?』
『知り合いだったの?』
『澪音ちゃん!?』
『秋葉神社のギルマスじゃない!?』
む、何だかコメントが騒がしい。
澪音は可愛いから、私もよく「うおぉぉぉ!私の妹可愛いよおぉ!」ってなるけど、どうにもそれだけじゃなさそう。
「澪音よ、お主もしかして有名人なのじゃ?」
「……ん、有名人ではありませんが、配信者としては多少知名度があるかもしれませんね」
『多少どころじゃないぞ』
『ENO配信再生ランキング1位やぞ』
『相変わらず可愛すぎる』
『画面に可愛いがたくさん!』
『可愛いの供給過多なんだが』
『凹凸コンビかわよ』
『最前線ギルドのギルマス』
なるほど。
再生ランキング1位は流石にビックリしたけど、確かにこの可愛さなら納得だ。
コメントが澪音の可愛さで悶えてる。
ふふふ、私の妹は可愛いだろう!
自分のことのように嬉しいや。
『姉さんって、もしかしてお二人は姉妹なんですか?』
「んむ!我と澪音は姉妹じゃな!妹がいつも世話になっているようで嬉しいぞ!」
『マ?』
『美人姉妹すぎない?』
『ルルネちゃん、お姉さん属性もつくの?』
『似てない(体の一部凝視)』
『はえぇぇぇ!!?』
『さすがにびびる』
『ルルネちゃん澪音ちゃんの姉だったんか!』
『俺も弟になりたい』
コメントが荒ぶってる……!
確かに有名配信者の姉が急に出てきたらそうなるかもなぁ。
『澪音ちゃんがいつも言ってる姉ってこの子かぁ』
『噂のお姉さん……』
『この子があの』
『澪音ちゃんの妄想じゃなかったのか』
ん?
何だかコメントの様子が少し変わってきた…?
「……こ……っ……ます」
澪音はそんなコメント群を一別すると、小声で何かを呟いた。
『ひぇ…』
『ナニモイイマセン…』
『ヒッ』
『ごめんなさいごめんなさい』
み、澪音さん?
澪音には私の配信のコメントは見えていないはずなんだけど、何か察したらしい。
何言ったんだろ…?
―――――
「おにゅーの装備御披露目会のお時間じゃあぁぁ!」
『わー!わー!』
『どんどん!』
『ぱふぱふ!』
『待って、まだ俺姉妹という事実についていけてない』
『新装備キタ━(゜∀゜)━!』
『脱初心者装備!』
『↑キター!とかいう死語久しぶりに見たわ』
『どんぱふ!』
インベントリウィンドウを開き、白玉さんの作った若草装備一式を選択する。
私もまだインベントリに入れただけで、装備はしてないから、どんなデザインをしているかも知らない。
お店に飾られていた服を見る限り、デザインの心配は無いけど、私の趣味ってわりと独特だからなぁ……。
期待感と一抹の不安を持ちながら、私は「全身一括装備」のボタンを押した。
すると全身が光のエフェクトにつつまれ、一瞬で装備が初心者用装備から若草装備へと切り替わった。
ENOの視界は一人称視点のため、そのままでは
着替えた自分の姿は見られない。
ステータス画面を開いて、そこから自身の全身図を表示する。
若草装備を一目見て思ったのは「和ゴス」だ。
黒色を基調とした、薄手の着物に近い和装。
大きく開いた袖はさながら蝶を思わせる。
袂は動きを阻害しないためか、膝上のあたりまでばっさりとカットされており、普段はあまり足を見せない服装を着ている私からすると、少しだけ恥ずかしさを感じる。
袖口と袂にはふんだんにフリルがあしらわれており、アクセントになっている。
また、本来であれば帯で止めてあるであろう腰には、大きな赤いリボンが巻き付けられておりその代わりをしていた。
頭には不思議の国のアリスのアリスを思わせるような、黒い大きなリボン。リーフラビットの兎耳が反映されているのかもしれない。
どうしよ。
すっっごくかわいいのですけど。
『かっっっっわ!!』
『まさかの和ゴスか!』
『かっこいい!』
『むりかわいすぎる』
『うおぉぉぉ!
『デザイン神がかってる』
『兎真祖ちゃん!』
『かわいいぃぃ!!』
うん、みんなの反応も中々好評みたい。
その場で半回転してみたり、腕を回してみたりしながら、着心地を確かめてるけど、初心者装備よりもずっと軽くて動きやすい。
「どうじゃ澪音、似合っているかの?」
「……」
「澪音?」
「……っ、失礼しました。とてもよくお似合いかと思います」
「ふふン!そうじゃろうそうじゃろう!さすがは白玉さんデザイン!」
『白玉さん絡んでるのか』
『超絶高級品やんけ』
『なるほど、どうりでデザイン良いと思った』
『相変わらずセンスいいなぁ』
『最前線の製作プレイヤーじゃん』
やっぱり白玉さん、澪音の知り合いってだけあって有名な人だったんだなぁ。
であれば装備の性能とかは数値を見てもあんまりよく分からないけど、かなりの良品なんだろう。宣伝のためにもよけい負けられないよね。
「んむ。それでは澪音よ!ガロウとやらを倒しに行くとするかのう!」
「はい、姉さん」
「――蹂躙の時間じゃ!!」
―――――――
【ルルネ=フォン=ローゼンマリアⅣ世】
Lv : 7→12
種族:【吸血鬼(眷属)】
HP : 63→79
MP : 37→52
STR : 77→102
DEF : 9
INT : 10→20
MND : 8
DEX : 7
AGI : 60→115
LUK : 2→13
【スキル】
血魔法:Lv2→3
魔眼:Lv2→3
吸血:Lv1
両手斧:Lv3 →4
調薬:Lv1
暗視:Lv2
鑑定:Lv1→2
反撃:Lv1
【装備】
E:『初心者用両手斧』
E:『若草のリボン』
E:『若草のドレス』
E:『若草のブレスレット』
E:『若草のヒール』




