40 旅立ち
(暫くの間は、此処ともお別れなのじゃ)
サーシャ達父娘が街へと行った次の日、ヴィーヴルは住処である洞窟の前でそう思っていた。
毎日のようにサーシャの家へと通っていたが、今はそうする必要が無くなった。
今後は、魔道具によるサーシャの呼び掛けに対して答えるだけだから、自分が何処に居ようとも問題とはならない。
たまにサーシャが森の方に遊びに来ることがあるかもしれないが、瞬間移動ができるヴィーヴルにとっては、これも問題ではない。
ヴィーヴルが旅立ちを考えたのは、サーシャ達がこの地を後にしたことが機会になった。
サーシャが居なくなったことにより、ヴィーヴルが独りでいる時間が増えるのは、火を見るより明らかだ。
独りでいるということは、どうしても暇な時間となる。
寝て過ごすのも良いかもしれないが、今は身体を動かしていたい。
加えて、ヴィーヴルも世の中にある、まだ見たことがないものを見てみたくなった。
絵本の中の世界と同じものが、本当にあるのか確かめたくなった。
長い時間を生きることができるヴィーヴルにとっては、飽きるまで彷徨ったとしても一瞬のことでしかない。
興味を持ったときに実行するのが、これまでヴィーヴルが通してきた生き方だし、今回のことも同じことだ。
(居ない間に荒らされるのは、好ましくないのじゃ)
洞窟の入り口を土魔法で封じた。
しかし、明らかに綺麗な土壁だったので、周りとの違和感がある。
(少し、崖崩れを起こさせるのじゃ)
少し上空へと飛び上がり、山を崩して土壁を覆い尽くさせた。
(これで良いのじゃ)
見た目には、ヴィーヴルでさえも洞窟があったことは分からない。
これで、瞬間移動の目印もなかったら、帰ってこられないかもしれない。
(急ぐ旅でもないのじゃ。
ゆっくりと歩いていくとするのじゃ)
龍の姿で飛び回れば、世界中を廻るとしても数日あれば終わるだろう。
それでは、上空から眺めることしかできないし、なにより龍の姿を見られてしまうこともあるだろう。
それだけは避けるように母親である龍の雌から厳命されていたし、逆らうつもりもない。
だから、旅している間は人間の姿への変身魔法を解くつもりはない。
ヴィーヴルは地上へと降り立ち、ある方向へと向けて歩き始めた。
旅立つと決めてから、最初に行こうと決めていた方向へと向けて……




