39 離別
「サーシャちゃん、いよいよなのじゃ」
「うん、そうだね……」
ヴィーヴルとサーシャは、いつもと比べて言葉数が明らかに少なくなっていた。
「途中まで一緒に……良いのじゃ?」
「うん、ありがとね」
サーシャの家の前には、荷物が山のように積み込まれた荷車があった。
「サーシャ、行くぞ」
「うん、わかった。
ヴィーヴルちゃんも途中まで一緒に来るって」
「構わんが、家に帰るのが遅くなるんじゃないのか? 大丈夫なのか?」
「大丈夫なのじゃ」
今、洞窟にはヴィーヴル一人きりだ。
母親である龍の雌は、そこにはいない。
それどころか、この世にも居ないのだが、サーシャの父親はその事を知る由もなかった。
あまり遅くなっては龍の雌が心配するのではないか? と思っての発言だった。
しかし、ヴィーヴルには心配するものがいないということでの、あの返答だった。
「よし、じゃあ、行くぞ」
サーシャの父親が荷車を引いた。
サーシャは荷車を後ろから押していた。
「妾も手伝うのじゃ」
ヴィーヴルは荷車の後ろへと回り込んだ。
「ヴィーヴルちゃん、ありがとね」
「ついでなのじゃ」
ヴィーヴルもサーシャと一緒に荷車を押した。
加減して力を加えたのだが、思いの外勢い良く進んでしまった。
サーシャが思いっきり力を込めて押しているようだったを見て、加減を見誤ってしまった。
ヴィーヴルは、今は外見こそ人間の子供だが、正体は異なる。
筋力や体力だって、人間の子供とは比べ物にならない。
サーシャと同じような力加減では、当然ながら結果が異なってくる。
「ごめんなさいなのじゃ。
つい、力を入れすぎてしまったのじゃ」
「あはは、ヴィーヴルちゃん、すごい」
「もう少し、力を抜いてくれて構わんぞ」
「分かったのじゃ」
その後、荷車は森の中を進んでいった。
「この辺で、一休みするぞ」
「ヴィーヴルちゃん、あっちいこ」
「分かったのじゃ」
「遠くに行くんじゃないぞ」
「はーい」
ヴィーヴルとサーシャは、少し離れた木陰で腰を下ろした。
「ヴィーヴルちゃん、これあげるね」
サーシャは、ストレージから3冊の絵本を取り出した。
「もう、よみあきたかもしれないけど……」
「嬉しいのじゃ。
サーシャちゃん、ありがとうなのじゃ」
「ヴィーヴルちゃんも、たまにはあそびにきてね」
「妾は街へは行けないのじゃ。
サーシャちゃんに来てもらうしかないのじゃ」
「そっか……じゃあ、こっちへきたらいっしょにあそぼうね」
「勿論なのじゃ」
「でも、どうやってれんらくすればいいのかな?」
「声を届ける魔道具があるのじゃ。
あれで伝えてくれれば良いのじゃ」
「そうだね、わかった」
「時間があるときにも、あれで話せば良いのじゃ」
「うん」
その後、ヴィーヴルとサーシャはとりとめのない会話をした。
暫くして、サーシャの父親から出発する旨を伝えられ、荷車のおいてある場所へと駆けていった。
「サーシャ、ヴィーヴルちゃんとはここでお別れだ。
ヴィーヴルちゃんも、もう帰った方が良いだろう」
「分かったのじゃ。
サーシャちゃん、またなのじゃ」
「うん、またね」
「さよならじゃないのか?」
「もう、会えなくなるわけではないのじゃ。
だから、さよならではないのじゃ」
「うん、そうだね」
ヴィーヴルは、2人の姿が見えなくなるまで見送っていた。




