38 失敗
「ヴィーヴルちゃん、もう、あそべなくなるかもしれない……」
いつも通りにサーシャの家へと迎えに行くと、家の出口から出てきたサーシャが最初に発した言葉だった。
「何かあったのじゃ?」
「きのう、おとうさんがけがをしてかえってきたの。
それでね、いまのおしごとをやめて、まちにひっこすかもしれないって」
「街へ行くのじゃ?」
サーシャは、黙って頷いた。
ヴィーヴルは母親である龍の雌から、街へ行くことの無いようにと厳命されていた。
街へ行くと、何らかの拍子で龍であることが分かってしまうかもしれない。
そうすると、捕らえられるかもしれないし、殺されてしまうかもしれない。
武器や防具の素材として考えるのならば、本体の生死は関係ない。
無論、生け捕りにできれば、より多くの素材を得ることができるので、なるべく生け捕りにしようとは考えるだろうが……
サーシャが街に行くと言うことは、それはヴィーヴルとの別れを意味する。
「まだ、決まったわけではないのじゃ?」
「そうだけど、おとうさんはもうかりはできないっていってた」
「妾が狩りをすれば、サーシャちゃん達は引っ越さなくても良いのじゃ」
「う~ん、どうだろ? きいてみる?」
「そうして欲しいのじゃ」
サーシャは家の中に入っていった。
暫くして、ヴィーヴルの下へとあまり良くない表情のままサーシャの父親と共にやってきた。
「ダメだって」
「気持ちは嬉しいが、それはできない。
それに、狩った獲物をどうやって街へ行って売るんだ? ヴィーヴルは街へ行かないんだろ?」
雌の龍はサーシャの父親にも、ヴィーヴルも自分も街へは行かないと伝えていた。
「それは、今までと同じように、サーシャちゃんのお父さんが持っていけば良いのじゃ」
「俺に、子供の稼ぎで暮らせって言うのか? 馬鹿にしないでくれ。
狩りは出来ないかもしれないが、働けなくなった訳じゃない。
それに、ヴィーヴルはいつでも食っていけるだけの狩りが出来る訳じゃないだろ?」
事実、ヴィーヴルが獲物を得るのは、落とし穴の罠に掛かったものだけだった。
それは、不安定という言葉では足りない。
いつ、獲物が掛かるか分からないものだった。
それでも、それを食べるのはヴィーヴルとサーシャだけだったし、もっと言えばヴィーヴルは食べなくても良い。
それでも、ヴィーヴルは食い下がろうとする。
「今までも、魚は渡していたのじゃ」
「あれは、網の代金だろ。
そのつもりでいたぞ」
もう、ヴィーヴルにはどうしようもないことを理解した。
「何時、引っ越すのじゃ?」
「準備もあるからな……2~3日後だと思う」
「それまでは、サーシャちゃんと遊んでも良いのじゃ?」
「あぁ、良いぞ」
「じゃあ、サーシャちゃん、行くのじゃ」
ヴィーヴルはサーシャの手を取って、森の家へと駆けていった。




