29 水切り(1)
「ヴィーヴルちゃん、きょうはみずうみへいこう」
いつもは、「きょうはなにする?」なのに、サーシャから今日の行動について提案があった。
(珍しいこともあるのじゃ。
滅多にないことだから、断ることなぞできないのじゃ)
「分かったのじゃ。
では、早速向かうのじゃ」
ヴィーヴルはサーシャと手を繋いで、瞬間移動を発動させる。
目の前の景色は、一瞬で湖の前のものへと変化する。
「ヴィーヴルちゃん、ありがとうね」
「良いのじゃ。
でも、どうして湖に来ようと思ったのじゃ?」
「うん、ちょっとやりたいことがあったんだ」
そう言って、サーシャはヴィーヴルの前に1冊の絵本を取り出した。
その絵本は、今まで見たことがないものだった。
恐らく、サーシャの父親が新たに買い与えたものなのだろう。
「えっとね……これ、これがやってみたかったの」
そこには、石を湖へと向けて投げている絵が描かれていた。
「石を投げているだけのようなのじゃ?」
「うん、だけど、よくみてみて。
いしがなんかいも、みずうみのうえをはねているみたいなんだ」
ヴィーヴルも絵本の絵を詳しく見てみる。
絵には3回ほど石が水面を跳ねているように描かれていた。
「ほんとうにこんなことができるのか、たしかめてみたかったんだ」
「それならば、川でも良かったのではないのじゃ?」
「だめだよ。
えほんにはみずうみでやってるんだもん。
みずうみじゃないとできないんだよ、きっと」
水面を跳ねさせるだけならば、川でも可能ではある。
ただし、ある程度の川幅が必要なのと、川の流れに左右されないようにする技術は必要になるではあろう。
その事から考えても、湖で行うことは正しいことだった。
絵本に描かれていたことが、今回の場合は正解だったというだけなのだが……
「それじゃあ、サーシャからやってみるね」
サーシャは足元にあった石を拾い上げ、湖へと投げ込んだ。
サーシャの投げた石は、緩やかな放物線を描いて湖の中へとその姿を隠した。
結果は言うまでもない……
「だめだった~」
「サーシャちゃん、絵を良く見るのじゃ。
もっと低く投げないといけないのじゃ」
ヴィーヴルはサーシャと同じように足元の石を拾い上げ、低い放物線を描くように湖へと石を投げ込んだ。
結果は、サーシャと変わらないものだった。
「ダメなのじゃ」
「どうしてかなぁ?」
2人は絵本の中の絵を、瞬きをするのを忘れるくらいに見つめ続ける。
「ヴィーヴルちゃん、なんか、へんなかっこうでかかれてるよ?」
絵では、上半身が横になって描かれていた。
ヴィーヴルやサーシャが投げ終わった状態は、上半身は上になっている。
「う~ん、こんな感じなのじゃ?」
ヴィーヴルは上半身を横にした体勢をとった。
「どうやって投げたら、こんな感じになるのじゃ?」
「そうだよね~」
絵に描かれた謎は、まだまだ解けそうにもなかった。




