39 潜伏
龍の雌は洞窟を出て、最初に潜伏した洞窟の前まで瞬間移動で移動した。
(此処の痕跡も消しておきましょう)
出口の少し上側へ土魔法を打ち込んで、地滑りを起こさせた。
これにより、洞窟への出入り口は完全に塞がれた。
(これで大丈夫でしょう)
大きく一呼吸した後、かつて龍の雄と暮らしていた方へと向けて飛び立った。
数年前に此処へと逃げ延びてきたが、龍の雄の事は忘れたことなどなかった。
ただ、ヴィーヴルがある程度まで成長するまでは、守り、育てていかなければいけない。
しかし、自分に残された期限はあと僅か……自身の身体を蝕む術の進行具合でそのことは分かる。
多分、今が最後のチャンスだろう。
(どうしても、この想いだけは残したまま逝くことは出来ないわ……)
ヴィーヴルと一緒に、死ぬまで寄り添って生きていくという思いも頭を過ったことは、1度や2度ではない。
それでも、その度に龍の雄の顔が思い浮かぶ。
その龍の雄に『ヴィーヴルと共に生きていく』ことを問い掛けると、微笑みを返してくれる。
その方が正しいことも、龍の雄が望んでいるであろうことも分かっている。
頭では分かっているのだが、最終的には正しくない方を選択してしまう。
(こうすれば、怒り狂った龍が単独で暴れ回っただけで終えるでしょう)
だから、ヴィーヴルは連れて行けない。
それに、怒り狂ったことを強調するためにも、自分の命は元より捨てる覚悟だ。
暴れ回って何処かへと帰って行ったら捜索の手が入るだろうし、何より『狂った』とは思われないだろう。
元居た場所が近づくにつれて、巨大な岩の塊が目に入ってくる。
(あの人のものね……)
街からは離れた上空から、遠目にその岩の塊を眺めていた。
(まるで、お墓みたいね)
街はその岩を避けるようにして、新たに拡張されていた。
(まずは、あの結界をどうにかしないといけないわね。
何とか中に入り込んで、結界を解いて……)
龍の雌は見つからないように、森の中を縫うように飛んで結界へと近づいた。
かつて龍の雄が破壊し、龍の雌とヴィーヴルが抜け出した部分は張り直しが行われたようで、綺麗な結界が張られていた。
(壊して入るしかないのかしら?)
龍の雌は結界の傍に土魔法で穴を掘り、暫くの間、潜伏しながら方法を考えることにした。




