38 後ろ髪をひかれる思い
「ヴィーヴル、サーシャちゃん、お話があるの。
ちょっとこっちに来てもらえるかしら?」
「何じゃ?」
「な~に、おばちゃん」
「私は明日から旅に出ないといけないの。
サーシャちゃん、これからもヴィーヴルと仲良くしてもらえるかしら?」
サーシャにとって龍の雌が旅立つことを聞かされたことは初耳である。
旅と言っても、自分の父親が狩りに行く位か多少長い期間程度に考えているのだろう。
しかし、ヴィーヴルは以前、母親から聞かされていた日がいよいよ明日となったことを知り、俯いて拳を固く握りしめた。
「もちろんだよ。
でも、いつかえってくるの?」
「う~ん、ごめんなさいね。
何時になるのか分からないのよ」
「そうなんだ……」
「それでね、私が居ない間はサーシャちゃんは自分のお家で寝て貰えるかしら?」
「わかった~」
「ヴィーヴル、大変かもしれないけど、お願いね」
「分かったのじゃ」
「それで、貴方にはこれを渡しておくわね。
今はこれ位しか、貴方に渡せるものが無いの……ごめんなさいね」
そう言って、龍の雌は腰に下げていたストレージの袋をヴィーヴルに渡した。
「ありがとうなのじゃ……」
ヴィーヴルは俯いたまま、母親より袋を受け取った。
「ぎりぎりまで魔力を流し込んだけど、切れる前に中のものは全部取り出してね」
「分かったのじゃ」
「おばちゃん、サーシャにはないの?」
「そうね……」
龍の雌は足元にあった小石を拾い上げ、多少長めに魔力を小石に流し込んだ。
「はい、これをあげるわ。
火の玉の魔道具だけど、ぎりぎりまで流し込んだから、結構長く使えると思うわよ」
「ありがと~」
「それで、今日は2人だけで遊びに行かないで、私の傍で遊んでもらえるかしら?」
多分、少しでも一緒に居たいという気持ちが、その言葉を発せさせたのだろう。
「分かったのじゃ」
「いいよ~」
その日は一緒に湖へ行って、水浴びをしながら魚を捕まえた。
水浴びの後には、罠に掛かっていたシカがいたので、一緒に解体をして解体の仕方を教え、洞窟に帰ってからその肉を焼いて食べた。
「おばちゃん、ねむくなっちゃった……」
「じゃあ、此方へいらっしゃい」
いつも通り、龍の雌の膝枕でサーシャが眠りへとつく。
「ヴィーヴルも、さぁ」
「……どうしても、行かないといけないのじゃ?」
「……ごめんなさいね」
ヴィーヴルはいつも通り空いている側の膝枕へ頭を乗せて、何かをこらえるかのように目を閉じた。
そして、いつの間にか意識を手放していた。
2人が目を覚ます前に、龍の雌は姿を消した。




