28 積年の思い
「ヴィーヴル、聞いて欲しいことがあるの」
「お母さん、急にどうしたのじゃ?」
ある日の夜、今日は狩人が帰って来た日だったのでサーシャは狩人の家に泊まっている。
久々の母娘水入らずだった。
龍の雌はヴィーヴルに膝枕をしながら、ゆっくりと話し始めた。
「お母さんはね、近いうちに旅に出ることになるわ。
そして、その旅にヴィーヴルを一緒に連れていく事が出来ないの」
「どうしてなのじゃ? 妾も連れて行って欲しいのじゃ」
ヴィーヴルは起き上がり、龍の雌と相対するように座った。
「これは、どうしても避けることのできない、そして、やり遂げないといけない旅なの。
それに、ヴィーヴルにはサーシャちゃんが居るから大丈夫でしょ?」
「お母さんと一緒に居ないと嫌なのじゃ。
例えサーシャちゃんと別れることになっても、お母さんとは一緒が良いのじゃ」
龍の雌は一つ大きな深呼吸をした後、意を決したかのようにヴィーヴルを見つめた。
「ヴィーヴルにはお父さんの事を話していなかったわね。
ちょうど良い機会だから、お父さんの事を話してあげるわ」
龍の雌は一呼吸おいて、父である龍の雄の事を話し始めた。
そして、最後は母である龍の雌とヴィーヴルを逃がすために、自身の身を挺したことも。
「お父さんは来なかったのじゃ?」
「逃げている途中で生体反応が消えてしまったから……多分……」
「そうなのじゃ……」
「だけど、それとお母さんが旅立たねばいけない事との繋がりが分からないのじゃ。
お母さんはお父さんの言った通り、此処で妾と一緒に隠れ住めば良いのじゃ」
「お母さんも、もう長くは生きられないのよ」
「どうしてなのじゃ?」
「結界の外では長く生きられないように、術を施されているのよ。
これは、お母さんには解くことが出来ない術なの。
でも、ヴィーヴルは大丈夫。
生まれてすぐに逃げてきたから、その術は施されていないわ」
「じゃあ、せめて死ぬ時まででも一緒に居るのじゃ」
「私はヴィーヴルのお母さんだけど、お父さんの事を忘れたわけじゃないの。
今ならまだ魔法が使えるから、お父さんの恨みを晴らすには時間が無いのよ」
「それなら、妾も一緒に行くのじゃ」
「それはダメよ。
私達の怨恨は、私達で終わらせないといけないの。
ヴィーヴルが一緒に居ると、ヴィーヴルにまで及んでしまうわ。
ヴィーヴルには、このまま隠れて静かに暮らして欲しいの」




