12 異変
「おと~さん、おかえりなさい」
「ただいま、サーシャ」
狩人の男が、狩りを終えて帰って来た。
しかし、両手に獲物の姿は見られない。
ここ数日、狩人が獲物を捕られていないようだ。
「ちょっと話があるんだが、良いだろうか? 2人きりで話したいのだが……」
「構いませんよ。
ヴィーヴル、サーシャちゃんと家の中で遊んでもらえるかしら?」
「分かったのじゃ。
サーシャちゃん、私の家に行くのじゃ」
「わたしじゃなくて、わらわでしょ? いこ、ヴィーヴルちゃん」
「そうだったのじゃ……」
ヴィーヴルはサーシャに手を引かれて、ヴィーヴルが作った家の中へと姿を消した。
「どうしたんだ? あの口調は?」
「どうやら、お姫様ごっこらしいですが……サーシャちゃんがすっかりその気のようです。
それで、お話と言うのは何でしょう?」
「あぁ、話と言うのは他でもない。
最近、森の様子がおかしいようで、魔物が多くて猟が思うように行かないんだ」
「そうですか、それで、私達に食料でも分けて欲しいという事でしょうか?」
「俺も狩人だ。
自分の食い扶持ぐらい、自分で稼ぐ。
相談と言うのは、明日から少し足を延ばしてみようと思う。
その間、サーシャの事を頼んでも良いだろうか? 勿論、あんた達の事は口外しない」
「分かりました。
それ位なら良いですよ。
ヴィーヴルとの仲も良いようですし、問題なさそうですから」
「恩に着る。
ところで、あんた達の食糧は大丈夫なのか? サーシャたちの面倒を見ていて、猟をしている暇は無いように思えるが?」
「何日か置きに、夜に仕掛けに掛かっているものを取りに行くだけですから、何の問題もありませんよ」
この様な問い掛けに対して答えに窮することが無いよう、近くに罠として落とし穴を仕掛けてはいる。
偶に獲物が掛かっていることはあるが、雌の龍やヴィーヴルに食料は不要なので腰に下げた袋の中へと入れているだけだ。
だから、もし狩人が『食料を分けてくれないか?』と問われても、渡しても問題にはならない。
ただ、この狩人は決してその様な事を言わない。
狩人としての矜持が優先しているのだろう。
(サーシャちゃんが困った時には、どちらを優先するのかしら?)
雌の龍はふとそんなことを考えた。
自分ならば、優先すべきはヴィーヴルである。
それこそ、自分を投げ打ってでも優先すべき事柄である。
狩人の男は、狩人としての矜持とサーシャの事を天秤に掛ける場合が来た時に、果たしてどちらを取るのだろうか?
「それじゃあ、サーシャちゃんに話してくるわ。
貴方が帰ってくるまでは、こちらで預からせてもらうわ」
「済まない」
家の中へと戻り、サーシャに明日から暫くの間、夜はこちらで過ごすことを伝えた。
サーシャは喜び、飛び跳ねるかのように自分の家へと帰って行った。
「ヴィーヴル、明日からサーシャちゃんがいる間はそのままの姿で居るのよ、大丈夫?」
「大丈夫なのじゃ……あ、サーシャちゃんは帰ったんだ」
「良いわよ、私との時でもそのままで。
サーシャちゃんに注意されちゃうでしょ?」
そう言って、雌の龍は微笑んでいた。
「あと、明日から暫くの間は食事をするわよ。
サーシャちゃんは食事をしないといけないから、一緒に食事をするのよ」
「分かった……のじゃ」




