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ある龍の物語  作者: まっこ
第1章 誕生
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01 生まれる直前

「もうすぐ生まれそうね……」


 巣の中にある卵は1つだけ。

 元は2つあったのだが、此処に来る途中に1つ孵化しないことが分かった。


『孵化しない卵は、人間に素材として提供する』


 100年以上前に人間との間で締結された約定により、泣く泣く卵を渡してきた。

 孵化しないとしても、自分が産んだ卵だ。

 胸が締め付けられる思いだったが、そうしなければ約定を破ったことによりどうなるか分かったものではない。


 個対個ならば負けることは無いだろう。

 しかし、現在、監視下に置かれているこの状況で、巣の中の卵を守り切れる自信はない。

 下手に暴れたら卵が壊れてしまうかもしれない。

 やっと生まれた卵を守るために、唯々、耐えることになるかも知れない。

 文字通り命を賭して……そう考えると、孵化しないと分かった卵は渡すしかなかった。


「あぁ、そうだな……」


 この国に居る龍は、この番の2頭だけだ。


 ずっと昔、500年ほど前に発生した人龍戦争により、龍族は多くの数を減らし、集落は全て壊滅させられた。

 散り散りになった仲間達を探そうとも考えたが、今居るところには魔力が制限される結界が張られている。


「無事に生まれてくれると良いのだけど……」と言いながら、紙に「この子が狙われているの?」と書いた。


「今はそのことだけを祈ろう」と言いながら、「その様だ」と書いた。


 現在、番とこの巣は監視されている。

 外での行動には、監視者と共に行動しなければならない。

 これも約定で決められたことだ。


 ただ、巣の中までは監視しないと言うことになっていたのだが、番には監視されていることは分かっていた。

 分かっていたが、それは放置しておくことにした。

 監視されていることに気が付いていないふりをしておいた方が、これ以上、監視が強まることは無いだろうと話し合った結果だ。

 その為、重要なことは筆談で行っていた。


 そして、巣の外に出た時に子供が生まれたら誘拐しようとしているらしい……との情報を得た。

 正確に言うと誘拐ではなく強奪だ。

 誘拐ならば対価として何かを渡せば返してもらえるかもしれないが、今回の計画では生まれて来る子供、そのものを奪おうとしているらしいのだ。


 人間だって、全員が全員、龍に敵対の目を向けているわけではない。

 同情心からか、こちらに色々と情報を渡してくれる人もいる。

 その中の1人から、秘密裏に渡されたメモにそう書かれていた。


 卵ならば素材として使用できるのは、卵の殻ぐらいだ。

 それが龍として生を受けた後ならば、爪だったり鱗だったり血液だったりと利用価値が段違いになる。

 生まれた直後ならば、人一人でも難なく捕獲できるし、生かさず殺さずも思いのままだ。

 素材を産み出すだけの生物としてしまえば良い。

 寿命は人間や亜人とは比較にならないほど長いのだし、自分達が生きている間は素材に困ることはないだろう。


「そう言えば、この子の名前は決めたの?」と言いながら「どうするの?」と書いた。


「あぁ、もう決めてあるんだ。

 ヴィーヴルにしようと考えているんだが、どうだろうか?」と同時に、「考えがある、何があっても従って欲しい」と書いた。


 何かを決心したかのような悲壮な面持ちで……


「ヴィーヴル……早く、あなたに会いたいわ」


「もうすぐ会えるさ……」


 そう言った雄の龍は、覚悟を決めたような面持ちをしながら、先程まで筆談で使用していた紙をブレスで焼き払った。


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