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ここは天国か地獄か異世界か(4)

 くたびれた猫のまっすぐな目は、学校でみんなから信頼されるキラキラしたイケメンの泉そのものだった。大きな目的のために生きる目。もしくは狂信者の目。もし人の姿のときにこんな目で世界のために死んでくれなんて言われたら、キョー助は泉をぶん殴るか蹴飛ばすかしていただろう。


 だが泉はくたびれた猫の姿の姿をしている。この猫を見ていると、キョー助は不思議と話を聞いてやろうかという気になってくる。この猫に死んでくれと言われたら、仕方がないかもしれないと考えてしまう。なぜだかわからないが負い目を感じる。だがそれより前に泉の話に腑に落ちない点についてはっきりさせて置こうと思った。


「なあ、泉よ。お前は全部正直に話してくれているのか?」


「もちろんです」


 そう二本足で立って胸をはる泉に、キョー助はさらに聞いた。


「俺が生き返ったら、俺が死んだ事実が物理法則レベルから書き換えられるんだよな?」


「はい」


「だとしたら、お前たちはどうやって世界が改変されたかどうかを判断する?書き換えが終わった後には俺の死を示すものもすべてなくなるんだろう?」


「……っ」


 泉は答えに窮した。


 改変の有無を確かめるにはその前後を比較しないといけない。だが世界が物理法則レベルから書き換えられれば、比較する事象や手段も改変され、事実を知ることは不可能になる。もし世界の改変を知ることができる存在がいるとすれば、それは別の物理法則が支配する宇宙から来た非実在性生命体ぐらいだろう。


「お前たちが恐れているのは現実世界の改変ではなくて、その組織とやらの権力者達が力を失うことなんじゃないか?」


 泉は反論しようと猫の顔を真っ赤にしていたが、やがてがっくりと猫のなで肩を落とした。


「残念ながら反論できません……」


 キョー助は泉を責めるつもりはなかった。現場の理想と上層部の損得勘定は矛盾するものだ。


「俺は生き返るんじゃなくて、死んでいなかったことになる。お前たちが心配しているような問題ないはずだ」


「まあ……、そういう気がしないでもないですが……」


「生き返るにはどうすればいい?」


 泉はなかなか答えられずに口をつぐんでいたが、散々悩んだ挙句、重い口を開いた。


「救世主もここに来ているはずです。彼女に会えば何かわかるかもしれません」


 キョー助は泉が「彼女」というのを聞いて身構えた。


「お前たちが監視していた救世主ってのは……、誰だ?」


「春日涼水さんです」


「……」


 できるならキョー助が聞きたくなかった人物の名だった。さっきすごい形相で追いかけてきたからそんな気はしていたのだが。泉はキョー助の心中を知ってか知らずか続けて言う。


「あなたが監視されていたのは、春日さんがあなたに強く執着しているからです。あなたは彼女を避けているようですが」


「天敵だからな」


 キョー助と春日の付き合いは小学校に入る前からだ。その十数年間を少し思い返しただけで、モフモフのぬいぐるみで口をふさがれたような苦しさや、ままごとの箸を飲まされるような痛みが蘇ってくる。まったくロクな思い出がない。


「春日さんはあなたが白い車に押しつぶされた現場に居合わせていました。大変なショックだったのでしょう……」


 キョー助は右手の親指と人差指でこめかみをマッサージして事故前後のことを思い出そうとしたが、どうも記憶がはっきりとしない。


「なぜ俺は死んだんだ?」


「白い車に轢かれそうだった女子を庇い、代わりに押しつぶされたのです」


 自分の死に様がまるでアニメのようで、キョー助はまんざらでもなかった。


「俺が助けた女子ってのは無事だったのか……いや、いま現実世界は止まってるんだったな」


「その女子なら、そこに来てますよ」


「そこって?」


「そこですよ」


 石造りの空間の奥、泉が目を向けた先には侘しい祭壇が設けられていた。ここは宗教的な施設なんだろうかと、キョー助がなんとなく手を合わせると、祭壇の影から小柄な人影が現れた。キョー助ははじめギクリとし、人影の全身が祭壇のろうそくの灯りの中に浮かび上がると総毛立った。


その人物はフードを深く被っていた。


キョー助と同じ高校の制服のスカートをかなり短く折り、その下は紺色のスパッツ。スパッツから伸びる素足はコンクリート色をしている。顔はフードで隠されていて紫色の唇しか見えない。


まちがいなかった。それはキョー助の首を切り落とした女だった。


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