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大灯台(11)

「まるでバグだ」


 力なく赤城がつぶやくと、キョー助は苛立ちを隠さず笑った。


「バグ?そんなゲームじゃあるまいし……」


 いいかけてキョー助ははたと思い出した。


 ここは現実世界ではなく春日が作った異世界だ。泉はこの世界のことを、主人公の赤城が魔王を倒すゲームのようなものだと言っていた。現実世界にバグなんてないが、人が作った世界ならバグは生じうる。


 キョー助は振り返った。離れた場所で春日はひとり立っていた。


 春日の奥のあの暗闇がキョー助を見つめていた。


 そして春日涼水も、ガラスの影のような透明で冷たい笑み浮かべてキョー助を見つめていた。それは由木に白い車が突っ込んで行くとき、キョー助の意識の端にあったのと同じ笑顔だった。


 キョー助の頭の中で様々な連想が猛スピードで繋がっていき、ある確信へと至る。


 その瞬間、ぜんぶぷつんとキレた。


 キョー助は抱えていた姫を赤城に押し付け、ピンクのボロ布の下の血と肉と汚物をかき分けはじめた。


「なにを?」


 キョー助は眉をひそめる赤城を無視してどろどろになった魔王のポーチを掴み取ると、中からメカニカルなスイッチを取り出し、握りしめ、立ち上がった。


 胃に異物感と熱を感じながら、キョー助は春日に向かっていく。


 春日の正面に立つと、春日は冷たく微笑んだ。キョー助は魔王の血で染まった手で春日の首を無造作に掴んだ。


「お前が魔王を殺したのか」


 春日は透明で冷たい笑みを浮かべたままキョー助を見つめている。


「お前は由木を殺そうとしたのか」


 キョー助は春日の首を絞め上げた。後ろで赤城が叫んだ。


「貴様っ、オーナーに何を……ぐあ!?」


 赤城の怒声がなにかに遮られた。見ると姫が赤城を羽交い締めにして抑え込んでいた。


 赤城は必死に振りほどこうとするが、姫の腕は赤城の顔面にますます食い込んでいく。大灯台を拳一つで砕く世界最強の男が、姫の細腕に締め上げられてる様にキョー助は愕然とする。


「おとなしくしていなさい」


 春日の声だった。春日は透明な冷たい笑みを浮かべてキョー助をみている。その声も目の輝きも正気のものだった。


「お前、姫を……?!」


 春日の首を掴んでいるキョー助の手が震えだす。春日はそんなキョー助の右手にそっと触れた。


「あんたに触れられるのを邪魔されたくないのよ」


 春日は嬉しそうに笑っている。キョー助の手の震えが全身に広がっていく。


「なぜ殺す?なぜ殺した?」


「だれも殺してないわよ。だってはじめから私とあんたしかいないんだから」


 そのときの春日の可愛らしい笑顔をみて、キョー助は理解した。


 春日にとって世界は思い通りになる点と線の塊に過ぎない。そのなかで唯一ままならないのがキョー助だと


 そしてキョー助は春日の悪夢だと。


 春日は点と線でできた世界の中にただ一人で、キョー助という悪夢と戯れているだけなのだと。


 キョー助の震えが止まった。


 視界の隅から誰かが猛スピードで飛んでくる。だがそんなことに目もくれず、キョー助は起爆スイッチを左手に握りしめ、春日を抱き寄せた。


 春日の息が一瞬止まる。


 由木が、赤城が何かを叫んでいる。


 キョー助は春日を抱いて波と亡者が渦巻く黒い海に飛び込んだ。そして腕の中で笑っている春日に怒鳴りつけた。


「お前も一回死んでこい!」


 キョー助がスイッチを押すと、魔王に飲まされた爆弾が起爆。黄金と蒼銀の炎が渦を巻き、爆発し、北の港の水を逆立て、キョー助と春日の体をバラバラに吹き飛ばした。


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