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ただの点と線の塊(5)

「姫様の裏側はかなりいい感じなっているみたいだな」


「ん?」


 首を傾げる魔王にキョー助が言う。


「赤城さんは姫様の住民が魔王に怯えず楽しく暮らせるように、って願いを忠実に叶えたんだ」


「そんなつまらん願いに、こんなえげつないことせんでもええんちゃう?」


「それは姫様の願いもえげつないからな」


「どこがよ?」


「下の階にいるおっさんたちって、変だと思わないか?」


「?」


 話の方向が急に変わって戸惑う魔王をキョー助はいたずらを楽しむように見て続ける。


「あのおっさんたち、きのう店の中に血の雨が降ったというのに、さっき見てきたら相変わらず馬鹿話を盛り上げようとして頑張ってた。楽しく暮らそうと必死なんだ、姫様の願い通りにさ」


「ふむ」


 魔王が続きを促す。


「魔王はこの街の人に無視されている。なぜか。自分たちを脅かす魔王のことを考えると怖くなる。怖くなれば楽しく暮らせなくなってしまう。だから目に入らないようにされている。


 この街の人達は病人や死人も無視してしまう。なぜか。病人や死人を見れば自分もいずれ死ぬと怖くなる。いつまでも乱痴気騒ぎができないのに気がついて、楽しく暮らせない。だから見えないようにされている。護符に美容と若返りの効果があるのも狙いは同じ。老醜は憂鬱だ。


 赤城さんは姫様の願いを叶えるために、人々の目から邪魔なものを徹底的に隠したんだ。魔王がつまらないと言った住民が魔王に怯えず楽しく暮らせるようにという姫の願い。これは実際の所、住民は楽しい以外の感情を持つなってことだ。かなりえげつないと思わないか?」


「自分が決めた感情以外持つな、か。それはたしかにえげつない。しかも楽しみ方が不十分やったら死人にされて強制労働。あははっ、そんなん女神やない。あの女の前なら独裁者も裸足で逃げ出すわ。よう思いついたな?どこぞで似たような話でもあったんかぁ?」


 魔王に尋ねられてキョー助は「アハハハ…」とごまかした。まさか赤城が「人を物足使いするのが人間だ」という言葉がヒントになっているとは言えなかった。


「魔王は赤城さんをどうしたいんだ?」


「倒してあの力を手に入れる」


「そして一人で世界征服?」


「ちゃうわ。仲間を生き返らせるんや」


「100万人を?」


「105万1598人。いまのうちやと3人が精一杯やけど、赤城はんの力が手に入れば」


 魔王の赤い瞳が暗い湖のように透明度を増す。キョー助は魔王の瞳に吸い込まれないよう、少し目を逸らす。


「人は死んだら終わりじゃないのか?」


「死は状態一つや。蘇生魔法で回復できるしなぁ」


 ならばあの暗闇は何なんだろう。キョー助の死の際に現れ口を開け飲み込もうとする、あの静かで冷たい闇。あの中に囚われたらキョー助という人間は終わってしまうと確信がある。


「人に終わりはないのか」


 キョー助は自問するように呟いた。


「忘れられたら終わるやろねぇ。誰も蘇生してくれへんし」


「魔王が死なない限り、魔王の仲間も死なないということか」


「せやぁ。だからうちはどんな目にあっても生きなあかん」


「それには赤城さんに勝たないといけないわけだけど」


 話が振り出しに戻った。キョー助が頭をグリグリとマッサージし始めると、床に散らばった文書がゴソゴソと動き、くたびれた猫の頭がひょっこり現れた。


「話は聞かせていただきました。赤城氏の力と街の活気が結びついているなら手はあります」


 くたびれた猫の泉は文書の底なし沼をネコかきで進み、窓際のベンチによじ登った。


「何してたんだ?」


「すこし素潜りを。紙の中を泳ぐなんてそうできませんからね」


 泉はキョー助に返事をしながら毛づくろいをしている。魔王が横目で泉を見て聞いた。


「赤城はんを倒す手ってぇ?」


 泉は毛づくろいを終え、居住まいを正して魔王に答えた。


「街の住人が馬鹿騒ぎできないようにすればいいんです」


「町中で爆弾ぶっぱなしてもニコニコしてるような連中相手にどないしてぇ?」


 キョー助ははじめて魔王に吹き飛ばされそうになったときのことを思い出した。赤城の行政のおかげで魔王のテロは効果がない。泉は魔王の指摘にうなずいてから続ける。


「人は食べるにも困るようになれば笑っていられなくなります。つまりこの街の消費システムを破壊するんです。キョー助くん、何がこの街の消費を支えているか、わかりますか?」


 まるで教師のように話すくたびれた猫に、キョー助はカチンとしながらも答えてやる。


「自由に買い物ができる教会の護符と、北の港にとどく物資だろ」


「満点です。そして僕たちは赤城氏の力を削ぐために後者を狙います」


 泉が自信をもって言うと、魔王が「ハッ」と鼻で笑った。


「御高説ごもっとも。せやけど、この街の物流を混乱させるなんて、うちらだけでできるわけないやん」


 キョー助は街の姿を思い浮かべてみる。アレキサンドリアは100万人が生活する大都市だ。単純な広さだけでも十数キロ四方、物流はその中を緻密な編み物のように広がってる。たしかにそれを3人と一匹でどうにかできるとは思えない。


 そのときキョー助の脳裏にある建造物のシルエットが浮かんだ。それはこの街の物流の決定的な急所だった。


「ああ……」


 キョー助が声を上げると泉がニヤリと笑う。魔王は「なんのことよ?」と苛立たしくキョー助を見ている。キョー助は二人を見渡してから、興奮した熱っぽい声を抑えて言った。


「大灯台をぶっ壊せばいいんだ」



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