自称魔王様はひとり地獄で微笑む(5)
なぜ由木が眼の前にいるのか。キョー助はもう自分の頭がまともかどうかわからなくなった。
由木がお嬢様の首をつかんで乱暴に払い除ける。お嬢様の体がドドンと床に転がり、由木がそれを跨いでキョー助へと近づいてくると、キョー助の体が弾かれたように後退りした。だがそこは廊下の奥の行き止まり。すぐに背中が壁にぶつかった。
逃げ道は?咄嗟に左右を見るが、その間に由木の顔がキョー助の鼻先にまで来ていた。フードの向こうで刺すような目が鈍く光っている。また殺される。キョー助が最後の悲鳴をあげようとしたとき、由木はキョー助の胸へと倒れ込み、そのまま動かなくなった。
あっけにとられるキョー助。
意識のない由木の体が力なく床へとずり落ちると、キョー助は慌てて両手で支えた。なぜそうしたのか自分でもよくわからなかった。
由木には左腕がない。よく見ると服の隙間から覗く体もボロボロだった。由木に触れてる手に、冬の日の濡れたコンクリートのような冷たさがジンと伝わってきた。
キョー助は助けを求め横を見ると、あれだけ固く閉ざされていた4番目のドアが少し開いていた。
「おーい、助け……」
だがキョー助の声が途切れた。ドアの隙間から凶々しい気配が流れ出している。ドアの向こうの暗黒の中で、魔王の赤い瞳が不気味に光っている。
「あのー、魔王……さん?」
「……」
魔王の沈黙に、キョー助の喉がゴクリと鳴る。
由木の体がキョー助の腕の中からずり落ちそうなった。キョー助が「おいおい」と由木をしっかり抱きかかえなおすと、魔王が纏う凶々しさが大きくうねった。
「うち、言うたよねぇ」
魔王の声が夜闇を震わせた。
「……なんだっけ」
キョー助が怯えて問うと、魔王はハート型のポーチからメカニカルなスイッチを取り出した。
「うち以外の女にうつつを抜かすとどうなるかって、言うたよねぇっ」
魔王はミシィと軋ませてスイッチのボタンを押した。するとキョー助の体の中、胃のあたりが、カッと熱くなった。
「うぉい?!何をした!?」
「遺言あるかぁ?あと10秒でさようならやぁ」
「ちょっとまてー!!俺に飲ませた爆弾を起爆させたのかー!?」
「いつのまにそんな女を連れ込んだんやぁ?」
「連れ込むも何も、俺は初めてここに来たんだろうが!」
「ん?……そういやぁ、……そうやねぇ」
魔王は身に纏う凶々しさを幾分弱めると、キョー助の胸で意識を失っている由木の髪の毛を掴んで顔をじっと見た。その間にもキョー助の中の爆弾は秒ごとに熱くなっていく。キョー助は目を閉じ、歯を食いしばり、顔に血管を浮き出させていく。心中のカウントダウンがもうアカンところまできたとき、魔王がぽんっと手を叩いた。
「そうや。うちが拾ってきたんやった」
すると胃の爆弾の発熱が止まった。キョー助は全身からどっと冷やせを吹き出し、真っ白な灰のようになって由木と折り重なるように床に崩れ落ちた。




