自称魔王様はひとり地獄で微笑む(2)
「気分はどなぃ?」
ピンクの女が色目を使うようしていうと、キョー助は「あ、ありがとう」と少し腰を引かせて答えた。ピンクの女はキョー助をおろし、その頬に手を回す。女の手は彼女の唇と同じぐらい熱く、キョー助は更に腰を引かせた。
ピンクの女はキョー助の顔をまじまじとみて「やっぱり、おかしいなぁ……」とぼやいた。長い指をキョー助の頬から顎にしなやかに伝わせて、ついとキョー助の顔を持ち上げる。
「あんたぁ、ほんまにに生きとるんか?」
「いままでに2回死んでるけど……」
「2回ぃ?嘘はあかんぇ」
ピンクの女が赤い瞳が鋭く光りキョー助は慌てた。
「嘘じゃない。車に潰されて一回、首を切り落とされてもう一回。俺は2回死んでいるんだ」
こんなこと現実世界でも異世界でも信じてもらえないだろう。だがピンクの女はキョー助の予想の埒外ことを口にした。
「いいや、あんたはもっと死んでいるはずや。それも10回や20回やぁない」
「は……?」
キョー助の目が焦点を結ぶのを止め、心が宙に放り出されたようになった。ピンクの女は「ふぅん」と興味深そうにキョー助の呆け面を観察している。
「まぁええわ。それよりもさっきの約束は覚えとる?」
ピンクの女に言われて、キョー助の意識が焦点を結び直した。
「ああ、好きにしてくれ」
キョー助の返事にピンクの女が嬉しそうに頷く。泉が「いいんですか?」とキョー助のズボンを引っ張った。
「死ぬところを助けてくれたんだ。なんだってするさ」
「春日さんはどうするんですか?」
「それもなんとかする」
「一回死んで、また生き返ればあの女の言うことなんて……」
突然、キョー助は泉の首を鷲づかみにし、腕に血管を浮かび上がらせて締め上げた。「な、なに……を……」と声を潰す泉に、キョー助は泉の首の骨をメキメキと鳴らし低い声で言った。
「お前も一回死んでみればわかるさ」
キョー助は泉を放してやる。泉がゲホゲホと咳込み首をさするのを見て、自分の首に手を当てた。春日につけられた傷はきれいに消えている。キョー助から知らず小さな舌打ち漏れた。
「俺はキョー助。あんたの名前は?」
キョー助が尋ねると、ピンクの女はニッと笑う。
「うちは魔王様や。あんたにはそれで十分や」
「はい?」
思わずキョー助はピンクの女をつま先から頭の先まで何度も見返した。女はフリルでフリフリのピンクのワンピースを着て、赤いパンプスを履き、ハートのポーチを下げ、金髪縦ロールに赤い瞳をした中学生ぐらいの少女だ。それが魔王を名乗ったのだから仕方がない。
だが魔王は無礼な視線に赤い瞳を細めると、ポーチから爆弾を取り出し、キョー助の顔を掴んで無理やり喉の奥に押し込み飲み込ませてしまった。
「うちはあんたの1万倍は強い。言葉遣いとか細かいことは気にせぇへんけども、まぁ、せいぜい忘れへんことやねぇ」
キョー助はゲホゲホとむせながら地面から魔王を見上げる。
「これ、どうしたら取ってくれるんだ?」
「赤城はんにちょっかい出すのを手伝ってくれたら。あんたも赤城はんともめとったやろ?赤城はんの敵はうちの味方やぁ」
「じゃあ、……なにをしたら爆発するんだ?」
自分の腹を指すキョー助に、魔王は暗がりの毒花のような赤い唇に指をあてた。
「うち以外の女にうつつを抜かしたとき、かなぁ?」
そう言って自称魔王様はころころと笑った。




