表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/49

ここは天国か地獄か異世界か(1)

 人は死んだら異世界に転生する。そこを天国というのか地獄というのかはわからない。しかし転生早々、でかい出刃包丁を振り回す幼馴染に追いかけられているキョー助とって、ここはまさに地獄だった。


 出刃包丁を握った幼馴染、春日涼水かすがすずみが後ろで「待てって言ってるでしょ!」と叫んでいる。だがキョー助は素直に止まれない。なぜならこの世の何より春日涼水が恐ろしいからだ。


 キョー助は下校の途中、歩道に突っ込んできた白い車とぶつかった。目を覚ますと古代を舞台とした映画の中のようなこの街にいた。


 この街はとにかく活気にあふれていた。人混みは日本三大祭りが同時開催されてるようだし、露天の食いの物や、女の香料や、男の汗の匂いなどで息は詰まりそうだし、ひとりひとりの声がとにかくでかい。


 人混みで思うように身動きが取れないキョー助の目の前で、フードをかぶった女がマッチョに突き飛ばされた。キョー助はまっすぐに駆け寄り「立てるか?」と手を差し伸べる。


 フードの女はキョー助の手と顔をじっとみたあと、キョー助の手首をガチリと握った。キョー助はギョッとした。女の手が冬の日の濡れたコンクリートのように冷たかったからだ。


「行って」


 フードの影から無機質な声がした。キョー助は驚きながらも、後ろに迫る春日の声に我に返る。フードの女を立ち上がらせ「大丈夫か?」と声を掛ける。フードの女はじっとキョー助を見上げて言った。


「なんで助けるの?」


「いまはそれどころじゃないんだ。大丈夫ならもう行くからな」


 キョー助が走り出す。だが女は芯まで冷え切っているような手でキョー助の手首をガッチリと握り放そうとしない。


「なんだよ?!」


 キョー助の声が上ずる。女は無機質な声で言う。


「行って」


「だったら離してくれ!」


 フードの女が首を横に振った。


「そっちじゃない」


「じゃあ、どっちだ」


「あなたは私が殺すの」


「え?」


 いきなりキョー助の視界がストンと垂直に落ちた。そして天地がグルンと90度回転して止まった。


 キョー助の目の前にはフードの女の足と、鮮血が滴る右手が見えた。


 何が起こったのか分からない。


 とにかく首を動かそうとした、が、動かない。

 顔を触れようとしたが手も動かない。

 声も出ない。

 全身の感覚がない。

 キョー助はフードの女に首を切り落とされていたのだ。


 キョー助はまなじりを裂くごとく目をフードの女の足から顔へと動かしていく。


 コンクリート色の素足、紺色のスパッツ、そして短く折ったキョー助と同じ高校の制服のスカートが見えた。


 女の顔はフードで隠れ、紫色の唇が小さく動くのだけが見えた。

 キョー助に何かを言ったようだが、すでにキョー助の意識は冷たい暗闇へと落ちていっていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ