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鶏鳴狗盗を侮るな ~ゴミスキルだと捨てられそうになったけど、勇者がかばってくれたのでちょっと頑張ってみた~

わたしの他の作品とは特にリンクしていません。

 よく小説で勇者召還ってあるだろう。

 で、巻き込まれた一般人が意味不明のレアスキルを持っていて追放後に活躍したりするのがNETなんかではやりな訳だ。


 で、ちょうど今の俺がその一般人の立場。

 ただ残念なことに持っていたスキルは『怪盗』だ。


 まあ実を言えば実際その通りで、何百件も窃盗を重ねて一度も捕まらなかったからな。『泥棒』や『盗賊』ではなくて『怪盗』と出たところが俺の自尊心を満たしたね。


 だが実を言えば最後の一件でへまをした。


 ちょうど家主が帰ってきたところに鉢合わせ。

 まあ普通ならそれでも逃げ切るんだが、その時、家主と一緒にいた男が尋常じゃなかったんだな。

 一瞬で間合いを詰められたかと思うとあっという間に捕まってしまった。


 で、逃げようとあがいている最中にいきなり床が光りだして今に至るということだ。


 結局、召喚された勇者とは俺を捕まえた男だった。そしてもう一人、家主だった男も巻き込まれたようだが、そいつも大したスキルは持っていなかったらしい。


「必要なのは勇者じゃ。ほかの二人は必要ない」


 その場にいた偉そうな男――後でこの国の国王だと知ったが――そういったことで、俺たちは処分されそうになった。おいおい、勝手に呼びつけてそりゃないだろう。


 だが一緒に召喚された勇者がそれに待ったをかけてくれた。


「上に立つものは適材適所で人を用いることができる必要があります。一見有用に見えなくとも、使い方次第でしょう」


「怪盗とはすなわち犯罪者ではないか。物真似師などせいぜい旅芸人に売るぐらいであろう。有用な使い道など思いつかん」


「非常時には通常では役立たずと思えるスキルに意外な使い道が生まれることもあります。どうか二人はわたしに預からせてください」


 王はそれを聞いてフンと鼻を鳴らしやがったが、勇者の希望を聞き入れる気にはなったようだ。


「お前が養うというのであればかまわん」


 ケチだなあ、おい。


「それで結構です」


 一方の勇者は即答した。さすが勇者として召喚されるだけのことはあるのか?

 ということで俺は勇者の付き人として命を長らえることができたわけだ。




「もはや隠す必要もないが、俺はこいつの家に泥棒に入っていた男だ。なぜ助けた?」


 部屋に案内されてから、俺はさっそく勇者になった男に疑問をぶつけてみた。


「もちろんわかっている。だが人を誘拐しておいてまったく恥じるところのないこの国で立ち回るには、文字通り君のような才能が必要と思ったからだ」


「俺の才能?」


 泥棒ぐらいだが?


「怪盗、つまり物を盗むのが得意ということだろう」


「ああ、俺は盗むことくらいしかできん」


「どうせ召喚されなくても俺につかまってブタ箱行きだったわけだし、こちらに来てからは俺が助けなければよくて追放、下手すれば奴隷落ちか処刑コースだったのは理解しているな」


「ああ、一応感謝はしている」


 たしかにこいつには絶対かなわないことはあの部屋で捕まった時に分かった。しかもこちらにきてから命を救われたのだ。いまさら逆らおうとも思わん。


「ならば一匹狼の泥棒から足を洗い、文字通り俺の部下になって、俺の指示するものを盗んできてほしい」


「お前の? なにを盗んできてほしいんだ」


 こんな一人で何でもできそうな男が、俺に何を盗めというのか。


「情報だ。どんな些細なものでもいい。この国のこと、俺たちが相手するという魔王のこと、この国の産物、行く先々の領主たちの評判や軍事力。

 俺たちはこの世界のことは全く知らず、この城にいる者たちが言うことしか知ることができず、それが事実なのかを判断する材料がない。

 お前にはその判断材料にできる情報を盗み出してきてほしい。

 できるか?」


 それを聞いて俺は笑った。そうだ。確かに仕事を成功させるにはまず準備が必要であり、相手の情報を集めるのは重要だ。

 こいつは俺がそういう仕事もできると見込んだのだ。


「できるか、というのは失礼な言い方だ。お前には助けられた義理もあるし、俺もこの国はうさん臭く感じる。

 どうせ従うなら見事に俺を捕まえたお前の方がいい。

 わかった。お前の希望どおり情報を盗み出してこよう」


 こうして俺と勇者の間で改めて雇用契約が交わされた。


「ところでそいつにも情報を集めさせるのか?」


 俺はもう一人の召喚者である、俺が盗みに入った家の家主を見た。背格好こそ勇者に似ているが、明らかにこいつは戦えるタイプじゃないだろう。


「いや、彼には他のことを頼む予定だが、当面の間は俺の従者ということにしていろいろ手伝ってもらう」


「そうか。情報を集めるにはそいつみたいな無害そうな男の方が向いている場面もあるから、そちらでも集めるのかと思っただけだ」


「おそらく交渉事を任せることもあるだろうから、時にはそういうこともするだろうが、それメインとはならい。お前は好きに動いてくれていい」


 なら好き勝手動かせてもらおうか。




 とはいえ、事前調査や準備もなく簡単に重要な情報が盗めると考えるほど俺もうぬぼれてはいないし、勇者もそこは理解してくれた。


 まずは城で働いている下男・下女たちに近づいて親しくなり、そこから一般庶民の生の声を聴く。

 同時にこの世界に存在する魔法がどの程度の効果があるか、また自分が得た『怪盗』というスキルはどんな効果があるのかを調べていく。


 そうして慣れてくると、密かに城の中を移動し、より重要な情報を見つけることができるようになった。

 だがそのタイミングで勇者に出陣命令が出てしまった。


 俺は先ほど確信が持てた情報を勇者に伝える。


「ぎりぎりだったが、やはり魔王というのはこの国の者たちが勝手に読んでいる呼称だな。単に敵国をそういっているだけだ」


「こちらで調べた限りでも、隠そうとはしているがそのようだ。よくあるプロパガンダだが、俺たちを巻き込む理由としては最低だな」


「どうする気だ?」


「とりあえずしばらくは言われた通りに動くさ。活躍すればそれだけ俺たちに有利な状況を作れるからな。それよりも、お前にもついてきてもらうぞ」


 ゲームや漫画のように少人数で敵の親玉を打ち取ってこいと言われているわけではないが、それでも勇者は兵を率いて敵軍と戦うことになるのだ。

 さすがに俺にそんな度胸はない。


「俺は戦場で戦うなんて無理だぞ」


「別に剣をふるうだけが戦いじゃないさ。引き続き諜報関係を頼みたい。今度は外を移動しながら周囲の情報を集める必要があるから、お前ひとりじゃ人手が足りんだろう。資金は用意するから、仕えそうな人材を見繕ってくれ」


「俺が? 人を見る目なんてないぞ」


 確かに集める情報を増やすにはまず人を増やした方がいいとはいえ、そう簡単に信用できるものを増やせるもんじゃない。


「こういう世界でも、裏社会はあるだろう。そういうところに繋ぎをつけて使えそうな人材を紹介してもらえばいい。

 出陣まではあと一週間しかないが、とりあえず二人は雇え。一人はお前と一緒に動くやつ、もう一人は王都に残って追加の人集めと情報収集をするやつだ」


「簡単に言うなよ。俺よりも、勇者であるお前が集めた方がいいんじゃないか」


「これでも忙しくてそうそう街に出る時間もとれん」


「俺にはこうして会う時間があるのにか?」


「お前からの報告を受けることを優先させているだけだ。お前も今後はさらに忙しくなるから、仕事を振り分けられる人材を確保することを考えた方がいいぞ」




 城の外に出るのは本来であれば許可が必要だが、俺のスキルなら勝手に出ることも造作もない。

 とはいえ、外に出られたからといって簡単に裏社会の者と連絡を取れるものでもないのだが、今回は時間がないので手っ取り早い方法を使う。


 小奇麗な格好をして下町の市場を歩く。


 やがて裏路地から飛び出してきた子供が俺にぶつかり、一言謝ってそのまま駆けていこうとした。

 だが俺はこいつを待っていたのだからそう簡単に逃がすことはしない。そのまま無言で駆けていく子供を追いかけていき、再び裏路地に入ろうとしたところで捕まえる。


「さて思ったよりあっさりと引っかかってくれて助かったよ」


「くそっ、離せよ!」


「おうおう。元気なことだ。安心しろ、俺の質問に答えてくれれば、役所につきだすことはしない。ついでに駄賃もだそう」


 俺が金を払うと伝えると、途端に大人しくなった。


「旦那は何を知りたいんだい」


「このあたりの顔役にちょっと依頼したいことがあってな。顔つなぎできるような奴がいれば教えてくれ」


 そう言って銀貨一枚をわたす。このあたりならひと家族が軽く一か月暮らせる額だ。


「なら兄貴に聞いた方がいい。紹介するからついてきてくれ」


 俺から銀貨を受け取った掏りの小僧はそういって歩き出した。




 “兄貴”とやらはこのあたりの浮浪児の面倒を見ている男で、その男の紹介で顔役に接触することができた。


「で、俺に依頼したいことがあるそうだが、殺しか、それとも盗みか」


「どちらかといえば盗みになるな。俺は勇者の下で動いていろいろ情報を集めているんだが、一人だと手が足りなくなってきてな。俺の下で働ける人材を紹介してほしい」


「なるほど、情報を盗み出すということか。今回の勇者はなかなか面白い男を飼っているようだな」


「人手はいくらでも必要だが、とりあえず俺は勇者に同行するよう言われているので、俺と一緒に行動できるものと、王都での情報収集と人材確保を担当できる者が最低限欲しい」


 俺がさらに契約条件について伝えると、顔役の男は考え込んだ。


「一つ聞くが、条件はお前の下で働くということだが、形としては国に雇われることになるのか?」


「いや、金は勇者に出してもらっているが、あくまでも俺のポケットマネーで雇っているという形態だ。だから何かあっても国に守ってもらうことはできん」


「いや、それはいい、というかむしろその方がいいな。どうだ、俺を組織ごと雇わないか?」


「あんたを?」


「ああ、情報の価値を理解している奴なら、下手な動きはしないだろう。この国に雇われるわけではないというのもいい」


 俺はそれを聞いて感じるところがあった。


「この国はやはり危ないのか?」


「お前は勇者の情報担当という割に、なにも感じてこなかったのか?」


「俺は勇者と一緒に異世界からこちらへ召喚されてきたからな。最初は国の言うことを鵜呑みにするしかなかったが、いろいろ調べると不自然なこともあることには気づいていた。だが俺一人だとやはり限界があるんだよ」


「なるほど、それなら仕方がないか。

 この国は強国として大陸に覇を唱えてすでに200年が過ぎようとしているが、そろそろあちこちにガタが来ている。周囲の国々も騒がしいし、国内でも不穏な動きがいろいろあるな。そのあたりの詳しいことは、俺たちを雇ってくれるならただで教えてやろう」


 なるほど、うまい売り込み方だ。

 実際のところ勇者からも最低二人といわれただけで、雇う人員の上限を決められたわけではない。むしろ組織ごと取り込めるなら、面倒な組織運営はこいつに丸投げできることになる。


「わかった。お前の組織ごと受け入れたいと思う。ただ今日はうまくいって2,3人を雇えればよいと思っていたから十分な金がない」


 俺は手持ちの金をすべてテーブルの上に置いた。


「まずは手付金としてこれを置いていく。

 あと、今後のことについてだが実はもう間もなく勇者は出陣することになっていて、その時に事前に侵攻先の情報を集めるために人手が必要だったんだ。

 戦場近くでの働きになるから、できればある程度荒事もできる奴の紹介と、王都とのやり取りをするための手段について話し合っておきたい。

 あと、今後の金の受け渡し方法だな」


 うまいこと使えそうな連中が比較的容易に手に入ったのは幸運といえるのか?




 勇者が兵を率いて王都を出陣してから半年。


 俺は戦場で戦うことはないが、先行して敵の動きを探ったり敵軍にうその情報を流したりとなんだかんだと急がしい日々が続いている。


 今日も俺が把握した敵軍の動きを報告するために勇者の天幕に近づくと、中から言い争うような声が聞こえてきた。


「こういっては何だが、あいつらは戦場にも出ず、ただ飯を食らっているだけではないか。いい加減に切り捨ててはどうだ!」


「なるほど、伯爵は彼らが何もしていないと思っているのですね。

 ところで伯爵は、我々の軍が敵の奇襲も受けず、戦場においても有利な場所に常に陣取ることができるのはなぜかは理解していますか?」


「それはわれらが正義の軍だからだろう」


「違います。彼らが事前に敵の動きや戦場の様子を調べてくれているからです。彼らは戦場においてわたしたちが有利に戦えるよう事前準備をしているのです。

 彼らが調べ上げているからこそ、時に敵の伏兵がいないと判断して素早く軍を動かすこともできますし、あるいは敵の罠を警戒し、被害を最小限に抑えて勝利を収めることができるのです。その功績は戦場での槍働きに勝るとも劣らないものですよ」


 どうやら俺たちを邪魔者扱いしている連中が勇者に直訴しているらしい。

 だが今のところ勇者は俺たちを切り捨てるつもりはないらしい。


「失礼しまーす」


 俺がわざと能天気な挨拶をしながら天幕の中に入ると、伯爵は俺の顔を見て露骨に嫌な顔をして出て行った。


「嫌われたもんだ」


「俺にとって君たちは耳目のようなものだからな。面従腹背な連中の言動など気にすることもないさ」


「で、報告だが敵軍はこの先にある都市で籠城してくれるそうだ。都市の周りにも伏兵はいない。念のため中と外をつなぐ抜け道があるか調べているが今のところは見当たらん」


「あってもそう簡単に見つかるようでは意味をなさないだろうから見つけられなくても仕方がないな。ところでもう一つの件はどうなった?」


 俺は懐から一通の封書を取り出し、彼に渡す。

 彼はそれを開いてじっくり読み、読み終わるとそれを燃やした。


「よくやってくれた。これでいよいよ次の段階に進める」


「じゃあ今晩、王都へ連絡を飛ばしたほうがいいな」


「任せる。決起は十日後だ。それまでは街を囲んで時間稼ぎをする」




 翌日から都市を遠巻きに囲み攻城戦をすると見せかけつつ、実際は朝夕に軽く攻撃するふりだけして引くということを繰り返す。


「なぜもっと攻撃しないのだ! そう大きな街でもないだろう!」


 先日の伯爵が天幕で吠える。

 俺はちょうど定例の報告に来ていて、運悪く鉢合わせしてしまった。


「先日から申し上げていますように、敵国は当面こちらへ援軍を送る余裕がありません。無駄な被害を避けるためにも降伏するのを待ってください」


「そういって、明日でもう10日になるではないか! 兵糧も馬鹿にならんのだぞ!」


「ふむ、確かに兵糧の消費も無視できませんね。では明日降伏してこないようであれば総攻撃ということにしましょう」


 その答えを聞いて、伯爵は満足したのか天幕を出て行った。


 それを見送ってから、俺も行動を開始する。


「では俺もそろそろ出発する。明日までは信頼できる護衛にこの天幕を守らせるから、最後までしっかりやり通してくれ」


「お安い御用だ」


 その返事を聞いて、俺を天幕を出た。




 翌日、俺は都市の中にいた。


「約束通り、明日には兵を引きます。ついでに何人か貴族も置いていきますので」


「ええわかりました。こちらも敵国の貴族を捕らえられれば何とでも言い訳が立ちますので、約束通り追撃はしません」


 条件を再確認して町を支配する敵国の子爵家を後にする。

 今夜には事態が動くはずだが、念のためにこちらの動きを確認するため、俺は最後までこちらに残る予定だ。




 翌朝、街が騒がしいので聞き耳を立てると、敵軍が兵を引いたと話題になっているようだった。

 街から追撃部隊を出す様子はないので、約束は守られたと思っていいだろう。

 俺も街を出て合流することにする。


 とりあえずいわゆる「魔王軍」、正確には「サーカサス帝国」の方面軍と我が勇者の率いる軍は一時停戦となった。

 もちろん正式に停戦について条約を交わしたわけではない。なぜなら勇者にはそのような外交権限は与えられていないからだ。だからこれはあくまで裏取引の結果として一時的に手心を加えてもらったといったほうがいいかもしない。

 それでも今は少しでも時間が稼げればそれでいい。


 俺が急いで勇者軍を追うと、夜中にやっと追いつくことができた。

 すぐに部下に勇者の天幕へと案内される。

 俺はそこにいる『勇者』に話しかける。


「こちらはうまくいったようだな」


「ええ、計画は順調です。わたしたちはこのまま味方のふりをして交易都市を落とします」


「よし、では俺は一休みしたらこのまま王都へと向かう。交易都市を落としたら予定通り種明かしの上で王都へ連絡を」


「了解しました」


「ところで、『本人』へ望むことは以前と変わらないのか?」


「あなたこそ、変わらないのでしょう」


 二人で確認してひとしきり笑うと、俺は天幕を出て陣の隅でひと眠りした。

 そして夜が明ける前に王都へ向けて出発した。




 王都までの街ごとに中継拠点を用意しているので、そこでこちらの情報を伝えると同時に新しい情報を仕入れながら、馬を乗り換えて進んでいく。当然のことながら王都に近づくにつれて、いろいろと情報が増えてくる。


『王都で偽勇者が謀反を起こした』


『王国を裏切った勇者が魔王国に寝返る見返りに王家を攻撃している』


『勇者は王国の不正を正すために挙兵した』


『勇者は腐敗した王国を打倒するための正義の兵を挙げた』


『偉大な勇者が無能な王家の排除に成功した』


 一般人に広まるうわさが王国寄りの内容から勇者寄りの内容に変化していくのが笑える。シチリア島を脱出したナポレオンの逸話を思い出した。

 どうやら勇者は成功したらしい。


 俺が5日かけて王都へと到着すると、王都はすでに旧王家が打倒されたと町中がお祭り騒ぎだった。


 勇者本人に会う前にいろいろと裏方で働いてくれた顔役に会いに行く。


「王都で戦があったはずなのに、住民はずいぶんと勇者贔屓の反応だな」


「戦はほとんど王城内だけで終わったからな。それに勇者が3年間の税の半減を約束している。わかりやすく利益を提示されれば民もそちらへ靡くさ」


 3年間の税収半減は大きな減収になりそうだが、王都で贅を尽くしていた王族の富を用いればかなりの部分を補填できるはずである。


 そのあたりについては国内の貴族でも現状を憂慮していた貴族や官僚もいたので、状況は把握できている。ついでに王家と一緒になって富を蓄えていた貴族家を2,3潰せば十分もとは取れるであろう。


 状況の確認ができた俺は勇者へと会いに行った。




「よう、成功したらしいな」


「ああ。成功しない方がおかしいさ。相手は俺が王都にいるなんて思っていなかったし、ましてや王都に兵を引き入れているなんて思ってもいなかったからな。

 さすがに王城の扉は堅かったが、民衆もこちらの味方だからこちらは持久戦もできるというという格好を見せれば、すぐに内紛を始めやがった。

 俺を勝手に呼び込んでこき使おうとしたんだ。これくらいの報酬はいただかないとな」


 まったくこの男は、勇者というより古代の英雄を目の当たりにしているようだ。


「お前には感謝している。情報戦で常に有利に立てたし、不満を持っている貴族たちを味方にすることもできた。

 本当はお前を情報担当大臣にしたいんだが、本当に要らないのか?」


「ああ。俺には分不相応な地位だ。もともと泥棒稼業も足を洗おうかと思っていたころ合いだったんだ。田舎でゆっくり余生を送れるだけの金をもらえれば十分さ」


「ふむ、奴も似たようなことを言っていたな。俺と一緒だと気が休まらないから、余生はゆっくりしたいと」


 そういうと勇者だった男――今はこの国の新王となった――は顔をゆがめて笑った。


「俺にその気はないが、功臣は引き際を間違えると粛清されるとでも思っているか?」


「さあね。ただただの泥棒や物真似師には、お前の耳目になったり替え玉になったりすることはできても、国の重鎮になるには向かないってこった」


「わかった。これ以上は引き止めん。だがお前たちに何もやらないとケチな王だと思われかねん。準男爵の地位と田舎の小領をやるから、そこで暮らせばよい」




 ということで、俺はただの泥棒だったのが異世界で貴族になった。といっても田舎の農村の村長程度の立場である。


 一緒に召喚された勇者の友人だった男は、勇者の従者として身近にいながらその立ち居振る舞いを覚え、物真似師として途中から何度も替え玉を務め、勇者が国盗りをするための裏工作をする手助けをしていたが、彼もやはり勇者と一緒に国の中枢に入ることを望まず、男爵となって王都の近くに似たような小さい領地をもらってくらしているらしい。


 俺たちは王や勇者から見たなら鶏鳴狗盗の輩だったかもしれないが、王は俺たちを侮り、勇者は俺たちをどう用いるかを考えた。


 才能に対する見方の違いが結果をわけた、というのは穿ちすぎであろうか?


面白かったと思われたら、ぜひほかの作品も見てみてください。

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