未知との遭遇③
駅付近の繁華街を抜け、十五分ほど歩いて閑静な高級住宅街へと辿り着いた。周りには立派な一軒家や綺麗なマンションが多く立ち並んでいる。こういうところに住める人というのは、世間で言うところの富裕層だったりするのだろうか。土地の値段は田舎者の俺には考えられないほど高いだろうし、都内でマンションを借りると、余程の例外が無い限り数十万が最低ラインだと聞く。俺の横を歩く外套の女性もお金持ちなのかも知れない。
「……」
「……」
しかし、ここまで一切会話が無いというのもどうなのだろうか。これは気を利かせて俺から話かけた方がいいのだろうか。
「えーっと、あ、暑いですね」
「ええ、本当に」
「……」
「……」
会話が続かない! うーん、これは困ったな。「つまらない人」とか思われていたらどうしよう。ここは手探りでもいいから何か会話を……そういえば、暑いと言いながらこの人は何故フード付きの黒い外套を頭からすっぽり被っているのだろうか。
「このローブ、気になりますか?」
「えっ、いや、その」
それほど不思議そうな顔をしていたのだろうか。背丈が頭一つ分ほど違うその女性は俺を見上げるようにして尋ねた。相変わらず彼女の素顔は伺えない。
「私、生まれつき肌が弱いので太陽の光が苦手なんです」
太陽が苦手? 確か西洋の吸血鬼と言えば、日光を浴びたら灰になると聞いたことがある。あれ? ちょっぴり嫌な予感がしますぞ。
「着きました。ここが私の家です」
「ここ……ですか」
辿り着いた先。周りを高級住宅に囲まれて、そこだけ切り取られた異世界の産物のように古びた洋館が建っていた。外壁は、まるで少し前の甲子園球場のように植物の蔦がびっしりと生い茂っており、不気味さをより一層演出している。
「さあ、中へどうぞ。お礼に冷たいお茶でもお出ししますわ」
女性は扉を開け、ニッコリ微笑んだ。開いた口から覗く八重歯。いや、牙が俺の背筋を凍らせる。もしかして、もしかしちゃう感じですか?
「お、お邪魔します」
それでも俺はお言葉に甘えることにした。ここまで荷物を運んで来て喉はカラカラだ。今ここで逃げても缶ジュース一つ買えないので、どのみち道端で干物になるのがオチだ。お茶を飲んで隙を見て逃げよう。そう思った。