未知との遭遇②
「どなたか存じませんが、御親切にどうもありがとうございました」
肩で息をしながら呼吸を整えている外套の人。声から察するとどうやら女性のようだ。それも、予想に反してかなり若い。思い返してみれば、さっき彼女の手を握った時も皺なんてまったく無かったな。外套を目深く被っているので口元しか見えないが、肌の色はかなり白かった。日本人というよりも、欧米人にありがちな白い肌。日本語は達者だが、もしかすると外国の方かも知れない。
「先を急ぎますので私はこれで」
ぺこりと頭を下げて一礼すると再び大量の荷物を抱え、女性は再びふらふらと歩き出した。危なっかしくて見ていられない。もしこれで躓きでもして誤って路上へ飛び出したら目も当てられない惨憺な光景が広がるだろう。関わり合いになってしまった以上、そうなってしまったらこちらとしても非常に心苦しい。
「ご自宅まで運びますよ」
「えっ、でも……」
「女性の力でこれだけの荷物を運ぶのは大変でしょう。それに最近は吸血鬼の仕業なんていう物騒な事件が頻繁に起こっているらしいですしね。日がまだ高いとはいえ、女性の一人歩きは危険ですよ」
「吸血鬼……」
「あ、ご心配なく。僕は違いますよ? ホラ、牙だって無いですし太陽の下でも平気です」
「うふふ、確かにそのようですね。じゃあ、お願いしてもいいですか?」
外套に隠れて表情こそはっきりと見えなかったが、女性はニッコリ微笑んだようだった。口角が上がり少しだけ開かれた口元から白く綺麗な二本の八重歯が覗いていた。