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受験敗戦

ついにこの日が来た、県立秋山代高校合格発表日。

 今日、俺の運命が決まる。


 合格発表まであと十五分。


 ふと冷たい風が頬をたたく。もう春が近いというのにまだ寒い。

 秋山高校、まだ何も貼られていない掲示板の前に、俺はいる。

 周りには受験生、俺と同じ立場の合格発表を待つ者が何人も集まっている。皆、友達と談笑したりしているが、口数は多くない。独特の空気。落ち着かない。


 受験者数 328人  定員 260人


 今日、この場で68人が敗者となる。

 だが、俺は大丈夫だろう。ここに受かるだけの学力はある。直前模試もA判定だった。

 ここで落ちる者は、もしかしたら受かるかも、とかいう甘い考えを抱いて受験してる人達だ。残念だがそういう人には同情する。

 ともかく、俺は大丈夫だ。落ちるわけがない。


「よお、村岡」


俺の名を呼ぶ声。

「やあ。岸辺か」

 岸辺もこの秋山高校を受験している。学力は俺と互角かな。

「大丈夫かな、おれら」

 不安そうな表情の岸辺。

「あ? 余裕だろ」

「何だ村岡、偉い自信だな」

 そりゃ結構勉強したからな、受からないと困るよ。

「そうだな」


 


バサァァァ

 掲示板に受験番号が書かれた大紙が貼られていく。


「ついに、だな」

「ああ」

 

 気付かないうちに手が、体が震えていた。

 心臓の音が聞こえる。

(何だ? 緊張してるのか俺は‥。ちっ、早く確かめてこの緊張から解放してくれ)


 足が進んでいく。


 歓声やどよめきが巻き起こり始めた。


 俺の受験番号は58。どうでもいいことが岸辺は57だ。


 人ごみをかき分けて進む。しかし、足は想像以上に重い。まるで結果を知りたくないかのようだ。


 掲示板を凝視する。えっと、50番台は‥。


 54、56、57、59、60‥。


「え?」

 俺は何が起きているのか分からなくなった。

 もう一度、掲示板を凝視する。

 54、56、57、59、60‥。


「な‥‥いっ‥」

 

 俺の番号が、ない。


 ‥‥え?

 俺は信じられず、後ろへ下がり、必死に冷静を保ちつつ、再度、掲示板を凝視した。


「‥‥‥ない」


 落ちた。負けた。‥絶望。


 俺が今まで思い描いていた秋山高校で青春している俺の姿はどこにもなかった。

 

見てきたものは全て幻だった。


 目の前が真っ暗になった。


 周りでは勝者たちが、スマートフォンで自分の番号を撮ったり、友達と最高の笑顔で騒いでいる。

 目の前の女子はスマートフォンを耳に当て、

「もしもし! おかあさん! うち受かったよ!」

 満面の笑みで電話をしている。

 

ここは、俺にとって地獄と化していた。


「村岡、お前‥」

 岸辺が声をかけてきた。

「こっち見んな!」

 俺は吐き捨てて走り出した。

 浮かれた奴らだらけの校門を越え、親父の車の前まで辿り着いた。

「おう大地、どうだった?」

 親父が聞いてくる。

「‥落ちた」

 沈黙。

「そうか。‥‥‥そうか」

 親父と俺の声はかすれていた。それは会話と呼ぶには難しいものだった。

 

 村岡大地は瞳の奥から込み上げてくる涙を、必死に堪えた。



 俺が落ちるはずがない。俺はきっと大丈夫だ。

 そう、思っていた。

 俺はどこかで驕っていたのだろうか。

 今は何も分からない。




 少年はその日、受験の厳しさを思い知った。

 

そしてこの負けた日の悔しさを忘れないと自らの心に約束した。

 


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