7.記憶の欠片
そうこうしているうちにふた月ほどが経った。
遅々として進まなかった遺品の整理も、それなりに時間をかけたことで、ようやく片付く目処が立ち始めていた。
そんな時。
「ねえ見てよ亂夜」
「…なんだ、これ」
埃を被った竹籠の中から朝欄が発掘してきたというその書は、いたくぼろぼろで、一体いつの物なのかどうかすら怪しい代物だった。
「兵法書ではなさそうだな」
朝欄が頷く。
「ええ。書斎の上棚の奥から出てきたの。見せていただいたことのない書物だわ」
ぱらぱらとめくると、そこには、方々様々の地名と共に記された人物の名前がびっしりと並んでいた。
墨の濃淡と紙の劣化の具合を見るに、どうやらかなり昔から最近まで、脈々と書き連ねてきたものに違いない。
「寮久県の陳氏…阿知県の李氏……?」
「恐らく、導師様のお知り合いの方々なのではないかと思うの。例えば縁故の方々やご友人とか、私達にとっての兄弟子にあたる方とか……」
「要は人脈帳のようなものか?」
「そう。だってこれだけ古くなった書に、延々と続けて書き込むくらいなのよ。少なくとも導師様には非常に意味のある書物だったに違いないわ、きっと。」
筆跡を見るに、どうやら遥かな年月をかけて書き溜めたもののようだ。
何よりも人との繋がりを愛し大切にしていた導師らしい遺品の存在に、二人の弟子の心は回顧の火で再び焦がれた。
そしてこの時二人は、ようやく悟ったのだった。
遺品を整理し、師のことを深く知れば知るほど、その面影から離れられなくなっていくことを。