幼馴染があなたに恋しているとは限らない。
前々からこういう転生ものもありなんじゃないかと思いまして、気分転換も兼ねて書きました。
少しおかしなところがあるかもしれませんが、楽しく読まれると幸いです。
「アッシュ。悪いけど私、勇者様と結婚するから」
村に帰ってきた幼馴染のメイリー。
五年ぶりの再会に、彼女は開口一番にそう言った。
薪割りをしていた僕は驚きの余り、斧を落としてしまう。
え、冗談だよね?
「悪いけど、冗談じゃないから」
メイリーは僕の言葉を否定した。
「え、どうして?」
「どうしてって、決まっているじゃない。私が『聖女』だからよ」
さも、判り切ったことを言うように婚約破棄する理由をメイリーは言う。
この世界には職業というものが存在する。職業とは神が与える恩恵であり、10歳になると教会から与えられる。
僕とメイリーも10歳の際、教会から恩恵が与えられた。
メイリーは『聖女』、そして僕は『村人』だ。
メイリーは『聖女』としての力を学ぶべくその日に王国の首都へと連れていかれ、僕は『村人』なので村に残った。
村娘の時とは違い、白い修道服に身を包んだものだから、メイリーだと言われるまで全く気が付かなかった。
そんな村で年齢の近い幼馴染の五年振りの再会が、コレである。
「そもそも『村人』が『聖女』と結婚できるわけないじゃない。貴方、バカなの?」
「それを言うなら『聖女』が結婚してもいいの?」
確か『聖女』はその身が純潔でなければならないはずである。
「それは大丈夫よ。『勇者』はこの世界を魔王から救うために神様が遣された異世界の人。つまり、この世界の人としてはカウントされないの」
なんだ、その謎ルール。
「歴代の『聖女』も全員、勇者と結婚してたの」
御伽噺にもよく描かれるパターンである。
そう思ったのは口に出さないでおこう。
「だから、貴方と別れるわ。アッシュには悪いけど、人には身分相応という言葉があるの」
僕たちの結婚の約束は、そんなサバサバとした彼女からの別れ話で終わってしまった。
引き留めようとの思いもあったのだが、余りの事態に脳が追いつかず、僕は何も言えないまま彼女の後姿を眺めるだけだった。
◇ ◇ ◇
「…………」
斧はまだ薪に刺さったままだ。
午前中に終わらせる薪割りだったが、もう夕日が沈みかかっている。
僕が思い出すのはメイリーとの結婚しようと幼いときに約束した今でも色褪せないキラキラとした記憶――ではなく、メイリーのお母さんとの約束だった。
それは、どこから来たのか分からない身元不明で孤児の僕の命を救ってくれた、恩人の言葉だからだ。
『アッシュ。私の娘、メイリーを頼むわね』
死ぬ二日前、彼女は僕にそう言っていた。
女手で一つで育てていたメイリーのお母さんは、メイリーだけでも大変なはずなのに、僕の世話も買って出てくれた。
おかげで、今では一人で生活できるほどである。
あのとき『聖女』になるとは夢にも思わなかった――ただ村娘のメイリーに将来結婚しようと約束していた僕は、どうせ彼女を守ることになるのだからと、メイリーのお母さんのお願いを安直に受けてしまった。
その約束を反故されてしまったのだが、メイリーを悪く言うつもりはない。なにせ、子どもの頃の約束である。執拗に守るほうがおかしいと言う人が大多数だろう。
だが、メイリーのお母さんとの約束は守りたい。
命の恩人に少しでもその恩を返したい。
「…………あ、そうだ」
――――閃いてしまった。
◇ ◇ ◇
「フハハハハハハ、これが勇者の力か! なんとも弱い弱い、弱すぎないか!」
魔王四天王が一人、灼熱のフレムーザが踏ん反りながら勇者パーティーを虚仮にする。
「くそ、ここまで強いのか!」
異世界から召喚された少年、レックスが苦い声で叫ぶ。
金髪碧眼、爽やか系の『勇者』。多くの女性を魅了するニヒルな笑みも、今は痛みと苦しみに満ちていた。聖属性という勇者のみにしか使えない属性から走る力は魔王討伐する唯一の力と言われているが、何故か目の前の四天王には効果が見られず、その光も徐々に小さくなっていた。
地面に膝を付き、切っ先を地面に刺した聖剣を支えに立とうとするが、痛みで立ち上がる力が出ない。
「うう、勇者様……」
魔力が底を突いた聖女――メイリーが悔しそうに言う。聖女の回復魔法は死後数分であれば蘇生さえ可能だと言われているが、度重なる回復魔法でその魔力も既にない。
「あたしの魔法も全然、効果がないよう……」
若いにも関わらず王国専属の魔法長にも負けない魔力量と才能を持つ魔法使いである、子爵家の令嬢、リリセルナが泣き言を言う。魔法の四属性を全てを発動できる彼女だが、炎の弱点であるはずの水属性の魔法が四天王には効かなかった。
「私の刃も通らないのか……!」
勇者の剣術指南役でもあり、王国騎士団団長の娘でもあるイーシャが苦い顔で呟く。16歳の少女であれど、父である騎士団団長から幼き頃から指南を受け、その剣は鋼さえも切り裂くのだが、四天王の黒い肌には傷一つ付かない。
「フハハハハハハハハハハ! どうした? 立ち上がることもできないのか!」
ほれ、とフレムーザが軽く腕を振るう。そこから波状に放たれた熱風が勇者パーティーを襲った。
「ぐあああああああ!」
先頭にいた勇者が熱風をモロに受け、苦痛の声を上げた。
「レックス!」
「勇者様!」
「レックスさん」
三者の悲鳴の声に、フレムーザが心地よい音楽を聴くように下卑た笑い声を出しながら喜ぶ。
「……はあ、はあ、はあ」
何とか耐えきったものの、その命は風前の灯であることを見ての通りだった。
「呆気ないものだな。我らが魔王様の脅威であるはずの勇者様がこうもあっさりと殺されるのだから」
フレムーザが鋭い爪でレックスの心臓を貫こうとする。
「やめろおおお!!!」
イーシャが叫び声を上げながら防ごうとするが、立ち上がるのが遅かった。フレムーザの爪がレックスの心臓を貫くまで僅かの時間しかない。
「やめてーーーーー!!!」
メイリーの悲痛を含んだ叫び声が、意識を朦朧としていたリリセルナを絶望させる。
だが、その僅かな時間が勇者の生死を分けた。
ドサ、とフレムーザの腕が落ちたのだ。
「……お前、誰だ」
切られた右腕に意識を介さず、腕を切った人間にフレムーザは問いかけた。
キン、と東国では刀と呼ばれる剣を鞘に納刀し、黒い髪のポニーテールの少女は名乗る。
「流浪の侍、メイだ」
東国の文化を入れ込んだ服装は騎士よりも、より戦いに適した戦闘服に近い装いをしており、それが少女の異様さを際立たせる。
「サムライ、なんだそれは?」
「なんだ、か。貴様を倒す存在と理解してくれればそれでいい」
「なるほど。シンプルだが、判りやすいな。つまり、俺の敵ってことだ」
フレムーザの口から焔が弾く。
「だったら死んどけやーーー!!!」
口からチャージした炎を放った。圧縮された炎は太陽の如く、目の前にある全てを溶解させるほどの高熱度の炎だ。
だが、その炎が届く前に、炎は縦に割れた。
「――――は?」
その言葉を最後に四天王フレムーザは倒れた。
メイが抜刀した瞬間、豪炎だけでなく――その直線上に仁王立ちしていた四天王フレムーザさえも縦に切り裂いたのだ。
スドン、と倒れた音がこの戦いの終わりを告げていた。
◇ ◇ ◇
何を隠そうと――メイという侍少女の正体は私こと『村人』アッシュである。
僕、いや私としよう。
私は前世持ち――といよりもこの世界に転生した転生者である。
元の世界では神様のミスにより死んでしまったため、この世界に第二の人生を与えられたのだが、赤ん坊ではなく、五歳の男の子として森の中で召喚された。
しかも、私は元の世界では女の子なのだ。性転換付きなのならば、せめて一言欲しかった。
……再度のミスとは考えたくないものだ。
ああ、あのときメイリーのお母さんに拾われていなければどうなっていたのだろうか。
本当にありがとうを伝えたい。
元女性ということもあり、私は他の人よりも清潔感が高かった。常に身綺麗な私は村人に好かれ、幼馴染のメイリーからも好感が持たれ、将来の結婚の約束まで漕ぎつくことに成功した。
その五年後に破棄されたのだが、もう終わった話である。
話を戻そう。
性転換されて召喚された私は、当然元の女性の体を望んだ。
そのためこの世界の魔法について学んだ。なんでも炎、風、水、土といった四大属性を基本として考えられているらしい。
ここで私の前世の知識が役立った。細胞、という単語さえもないこの世界では考え付かないような魔法を編み出すことに成功した。
いや、正しく言うならば成功まであと少しだった。
成功する前にメイリーとの結婚の約束、メイリーのお母さんとの約束が重なったため性転換魔法を行使するわけにはいかなくなった。
メイリーが教会へ『聖女』の使い方を学ぶ五年間も、村での生活を並行しながら魔法の研究を行った。無論、性転換の魔法も完成したのだが、使うことが出来ずのままだ。
そして、あの日だ。
メイリーが私との結婚の約束を無かったことにしてくれと言われた。
これで性転換を諦める約束二つが同時に無くなった。メイリーのお母さんには娘を頼まれたのだが、結婚ができないのであれば男性より女性のほうが色々と都合が良い。
無理して男性として生きる必要がなくなったということだ。
こうして私はメイリーが村を出た後、性転換の魔法を行った。
魔法は成功し、私は晴れて男から女になった。
そのとき、私の男性のときのジョブであった『村人』が変容し『侍』となった。
魔法で調べた結果、男性としてのジョブである『村人』と女性としてのジョブである『騎士』が融合し『侍』というジョブのハイドブリッドを生み出した。
とある農民が刀を取り、侍として出世街道を歩んだという前世の知識があったこともあり、私はそのジョブを素直に受け入れた。
前世持ちでなければこうはならなかっただろう。まあ、女性の前世がなければ性転換そのものを考えようとはしなかっただろうが……。
だが、さすがジョブの品種改良と言えただろう。前世の知識やこれまで修練した魔法技術の後押しもあり、その成長速度は半端なかった。
通常のジョブがラクダならば私のジョブはジェット機のレベルだろう。科学技術の圧倒的勝利である。
これならば勇者にも勝てるのではないか。メイリーのお母さんの約束もあり、私は勇者パーティーに会いにいくことにした。
話によれば勇者パーティーは勇者であるレックス以外、全て女性。しかもうら若き少女でありキレイどころが揃っているだとか。
ハーレムパーティーではないか。
良からぬ女性多関係を疑った私は、足早に勇者パーティーの元へと向かい、魔王四天王の一人である灼熱のフレムーザと相対することになったわけである。
まあ、一太刀に切り捨ててやったのだが。
うむ、私強すぎないか?
その経緯を経て、今ギルドのギルドマスターの部屋でお茶をすすっている。
ギルドマスターは「君に会いたい人がいる」と言ったきり戻ってこないのだが、十中八九勇者パーティーだろう。
「済まない、待たせてしまった」
そう言ってようやく戻ってきたギルドマスターの後ろには勇者パーティーが並んでいた。
「……怪我は大丈夫ですか?」
挨拶替わりに訊いてみた。
「ああ、大丈夫だ。メイリーの『聖女』の力もあって一晩休んですっかり全快さ」
キラリと笑って返すレックス。
……昨日、ボロ負けした癖にタフである。
こうでも図太くなければ異世界から召喚されて勇者を行うことはできないだろう。
「早速だが、君は何者なんだい? あの僕たち勇者パーティーが苦戦していた四天王の一人、灼熱のフレムーザをたった一発で倒すなんて」
疑心の目で勇者は訊いてきた。
当然の疑問だろう。予想できる範囲なので、既に考えておいた答えを言う。
「私は流浪の民をしている身です」
「……流浪ですか?」
ピンク色の髪をしたあどけない顔をした少女が不思議そうに訊いてきた。ルビーの大きな宝石が先端についた杖を持っていることから魔法使いであろうと察する。
「はい。私は山の出なのですが、世継ぎのために身を流浪に費やさなくてはならないのです。なんでも、山の長となるためには、外の常識を身に着ける必要があると」
「それで流浪の身なのか。話を聞く限り、どうにも閉鎖的なところのようだな」
「そうですね。交流的とは言えませんね」
私の言葉に「なるほど」と、頷く淡い水色の女の子。キリっとした目が前世のやり手のキャリアウーマンを連想される。中々の剣を帯刀しているところを見る限り、彼女は騎士のような前面での戦闘を担っているのだろう。
「その山の民に戦いの援助を願うことが出来ないだろうか。君もこれまでの旅で知っているかもしれないが、僕達は勇者パーティーだ」
「そう話を聞いています」
「今、人類は魔王の脅威に晒されている。僕はその魔王を倒すために神から召喚された勇者であり、彼女たちは僕と一緒に戦う仲間たちだ」
どうして女性オンリーなのかは聞かないほうがいいのだろう。
「君たち山の民も一緒に戦って欲しい」
「それは難しいですね」
だって、嘘ですから。
「何故だ!? 人類の危機なのだぞ!」
いや、嘘だからです。
だが、そう言うわけにはいかない。
私の発言に激高する少女騎士をレックスと魔法使いが抑えている間に、私は作っていた理由を話す。
「山の民の決まりで、外とは不干渉なのです。その理由は分からないのですが、山の民たちにとって人類の危機であると言っても聞く耳を持つことはないでしょう」
「だから、どうして!?」
「そういう人たちだということです。貴方たちで判りやすく言うと、貴族の子と平民の子は同列に扱われない理由と同じです。同じ子どもであるはずなのに、親や祖先の力で上下関係が決められている」
思い当たることがあるのか、少女騎士は口をつぐんだ。魔法使いの少女も気まずそうな顔をしている。
「君の言うことは判った。山の民との協力は諦めるよ。だけど、僕たちには他の四天王、そして魔王を倒すために力が必要なんだ」
レックスは私の目を見つめて、捨てられそうな子犬のような目で言う。
「君の力が必要だ。どうか、僕たちのパーティーに入って欲しい」
◇ ◇ ◇
「……ねえ、聞いても良い?」
「なんでしょうか?」
「どうして勇者パーティーに入ったの?」
そう訊ねたのは、私の幼馴染であるメイリーだった。
いや、幼馴染だったメイリーと言うべきだろうか。
なにせ、彼女の幼馴染であるアッシュは既にいない――というか、アッシュが性転換して私なので、彼女の知っているアッシュがいない――ということになる。
シンプルな解決策だと思ったが、なんだかややこしいことに感じる。
ギルドマスターの部屋で勇者からスカウトされているときに、一切会話に入らなかったメイリーがようやく口を開いてくれた。
パーティーについて話すことが多少あったが、それも必要最低限のことだけだ。
こうして口火を開いたのは、私が加入して四日目の夜である。
「必要とされたからです。断る理由もありませんでしたし」
もちろん建前だ。本当の理由は、メイリーのお母さんとの約束を守るために、メイリーがいる勇者パーティーに入っておくほうが楽だと思ったからだ。
「……そうなの」
「はい。特別な理由はないですね」
「……そう。貴女、お金にも権力にも興味なさそうだったから、てっきり――」
「てっきり、なんですか?」
「――いや、何でもないわ!」
ワタワタと、頬を赤くして、「何でもないの」と手振りする。
それでもじーと見つめる私に、とうとう観念したのか、メイリーは本当の理由を話し始めた。
確信があったからか、メイリーの顔を少し長めに見つめられた。
「……私、ね。勇者のレックスが大好きなの」
はい、知っています。
「……とっても、大好きなの。それも、見ているだけで胸がドキドキするぐらい」
あれ? メイリーってここまで純情だっただろうか。
聖女の白い修道服が清純さを倍増させいるのか、かなり初々しい反応にこっちが照れてしまいそうだ。
「……それで、ね。私『聖女』のジョブなんだけど、元は村娘なの」
幸せそうに話していたメイリーは、顔を暗くし始めた。
「……村にね。結婚を約束した幼馴染がいたの。でも、私。勇者のレックスに恋しちゃって。幼馴染との結婚の約束を無かったことにしてくれって、一方的に言っちゃったの」
聖女とは思えないくらい悪いでしょう――苦笑いしながら言うメイリーは、まだ僕のことを覚えていた。
てっきり忘れているものだと思っていた。
「とても酷いことをしたと思っているわ。……でも、初恋なの。こんな自分がいるなんて知らなかった」
胸を抑えながら呟くメイリーの目には、恋と戸惑いの心が右往左往しているようだった。
「……アッシュのためじゃないけど。私、レックスの横に居たい。並んで、二人だけで朝焼けを、昼の風を、夕日の道を、夜の星空を眺めたいの」
夢を語るように話すメイリーは、とても美しかった。
「……でも、アッシュは恨みに思っているわよね。昔の約束を守って私を待ってくれていたのに」
メイリーの悔恨の、泣きそうな表情を見て私は思わず言ってしまった。
「大丈夫ですよ」
「――――え?」
「幼馴染なんでしょう。だったら、メイリーがそんなに酷い人ではないことは判っているはずです。きっと、それほど強い恋心を抱いてしまったのだと、むしろ嬉しく思っていますよ」
「…………嘘よ」
「本当です。きっと村の中では消去法で結婚するはずだった。けど、『聖女』のジョブが神様から与えられて首都に行き、そして運命に出会った。幼馴染の彼女が、そんな御伽噺のような奇跡の出会いをして、羨ましくは思えど、きっと幸せを願っているに決まっていますよ」
「…………そんなの分からないじゃない」
俯くメイリーを、私は優しく包んだ。
「大丈夫ですよ。だって、メイリーは初恋のために勇者と魔王を倒す旅に出たのでしょう。その決意を、貴方を知っている幼馴染が分からないとメイリーは思いますか」
「……………………そんなの、分からないよ。
…………分からないよう」
私はただ、メイリーの涙が全て流れ落ちるまで、背中を擦ることしかできなかった。
◇ ◇ ◇
その後に訊いたのだが、メイリーが私と話すのに躊躇ったのにはもう一つ理由があったらしい。
なんでも、自分の母親と同じ名前であることに抵抗を感じたのだとか。
それはそうだ。なにせ、メイリーのお母さんの名前を勝手ながら使わせてもらっているのだから。
前世の名前を使ってもいいのだが、どうせなら恩人の名前を使いたかった。
性転換の魔法を使い、男の子であるアッシュを捨てた。だからか、メイリーのお母さんとの繋がりも途切れたように感じたのかもしれない。
その気持ちを誤魔化すために。
いや、メイリーのお母さんを一緒にいるような気持ちになりたくて、メイという名前を拝借させてもらっただけかもしれない。
アッシュにとっても、私にとっても。メイリーのお母さんは私の母替わりだったのだ。
異世界ならば、孤独感故、その気持ちも強いのかもしれないな。
そう思い、改めて自分を見つめ直せたように思った。
喉に引っかかっていた魚の骨が抜けたような爽快感とともに、私を待つ勇者パーティーの元へ行く。
何故だろう、メイリーに影響されたのだろうか。
不思議と胸が躍っていた。
遅いよ――と私に懐くリリセルナ。
何をしていたんだ――と厳しめの叱責をするイーシャ。
まあまあ――とイーシャを宥めてくれるメイリー。
全員が揃ったことを確認した勇者レックスは、元気のよい言葉をかける。
「よし、行くぞ皆! 出発だ!」
こうして新メンバーを新たに勇者パーティーは進行した。
実際は結成して五日目の朝なのだが、メイリーとの新たな関係を築けそうな幸せを呼ぶような綺麗な朝日だった。
しかし、そのときの私は思いもしなかった。
まさか、勇者レックスが私に恋心を抱くなど――――。
取り合えず、物語はここで終了です。
続きが気になる、書いて欲しいという方がいれば、ぜひコメントをお願いします。
もしかしたら、書くかもしれません…………。