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召喚剣士と奴隷魔術師  作者: 本渡りま
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復讐だった過去

 私の今の状況を少し知ってもらいたいから……少し昔話をしよう。

 5歳の時、父が背負った借金生活に逃げるように母は私を連れて逃げた。

 一度母のふるさとに戻るが、火事に遭って村を去った。違う街に移動した途中で崖崩れの罠に遭い、そのまま奴隷商人に捕まってしまった。

 私と母はそのまま奴隷と化し、過酷な労働に強いられる事になった。

 しかし母は、せめて娘だけでも見逃して欲しいと商人を揺さぶりながら頼んでいた。しかし、奴隷の願いは誰が聞くかと、商人は汚らわしい目付きで見放された。母は泣き崩れて、商人は嘲笑うようにムチを振るい続けていた。

 それもそうだ。奴隷は人間としての価値を無くし、家畜同然と過ごすのは当たり前の事だから、どんな願いも叶うはずが無い。

 母もやがては病になり、過酷の労働の中で母は倒れ、すぐに逝ってしまった。

 衰弱死だった。私は、佇むように泣いた。泣きたくても、番人はまた仕事を強いてくる。そして私と母を遠ざけて、母の亡骸を確認した番人は直様商人へ報告した。

 ――そして、母を弔いもせずに野獣の餌として扱われた。

 グチャグチャ、と肉を喰らい尽くす野獣を見て思わず吐いてしまいそうだった。

 ただ汚らわしい目で見つめる商人が、誰も弔わない奴隷の皆が、凄く忌まわしかった。 

 商人がよく言う、あの言葉を叩きつけられるように脳裏に過る。


 ――人間の価値がないから、奴隷は存在するんだ。


 その言葉はゲロを吐き出すに過ぎない。けど、奴隷には忌々しい言葉が自分の耳に入った時だった。憎しみに募った心がついに開放した瞬間が訪れた。


 ……………シカイガグルリト、ヒカリカラヤミヘトハンテンスル。


 その時から、私の心が闇に染まり続けていた。

 ドス黒く、殺意を持った人形へと変わる瞬間をよく覚えている。

 血反吐するように、心の底から滲み出た殺伐な呟きをしていた。


 ………………ショウニン、ユルサナイ………シネ!


 心に怒りを押さえ込みながら、それからも私は奴隷として生き続け、日々過酷な労働を強いられてきた。唇を噛み締めて、いつかあの商人を殺してやると思いながら。

 殺し方について練りに練り続け、何時の間にか微笑む表情が無くなって、金縛りしたかのように冷血な表情になっていた。

 そんな仕事を毎日強いられていたら、いつの間にか九年が流れた。

 華奢な体格のままだが、それなりに体の方は劇的に変化していた。

 仕事を淡々に続けて、努力と功績を実ったお陰なのか、私は商人所属の奴隷メイドとして遣われた。少し優遇な立場で、重労働者より労働時間が1時間早く終わる事ができる。

 ――この時から、私の時限爆弾が起動し始めていた。

 何時かと呻らせる緊迫させる私の心に、生唾を飲みながら決行の日を決めた。

 ――五日後、商人のうなじ部分を刺す。

 その前日、予め奴隷が寝場所と称する牢獄の鍵と商人の部屋の鍵を入手した。だが、商人所属のメイドと言っても、そう気楽に鍵を入手できるわけがない。それもそうだ。脱走させる恐れがあるから、基本は商人の許可を得なければ貰えない事になっている。けど、たまたま信頼してくれたおかげで、すんなりと鍵を託してくれた。


「お前らの寝床はここだ」


 夜中に、そう番人が告げていた。また新たに罠に引っかかった奴隷が牢獄に押し込まれていた。

 本当に哀れだ。捕まれば最後。主人に随分コキに使われて、特に商人が不機嫌の時に使えない奴隷を見せられると処刑か野獣の餌にされる。

 処刑される人は、ギロチンが待ち受ける。助けて、死にたくない、とずっと死ぬ間際まで嘆いていた。奴隷たちは見つめるも、番人によってそう長くは見せられなかった。


 ――そんな事をしているのなら、さっさと仕事をしろ、と。


 ――運命の夜。

 私は牢獄に入り死ぬように眠ろうとすると、横に居た男性が私に話しかけてきた。

 疲れて眠たいが、渋々と聞き流す。

 意味がわからない長い話を聞かされると、子守唄のように聞こえてウトウトと眠気を増していく。

 しかしある話によって、一気に眠気を吹き飛ばした。



 ――『……世界?』

 ――『ああ、ここ以外の世界は知っているか?』



 もちろん知るはずがない。私は、ここでずっと奴隷として送っている。だから外の様子など更々興味などなかった。しかし彼から語れられる言葉は、如何にもある理を感じされる事を伝えた。



 ――『いいえ。まったく』

 ――『そっか。私は、その世界を見てきた。平和で豊かで差別もない。私たち奴隷が望む理想郷をね』



 ――理想郷。

 商人への憎しみで思いもしなかったけど、果たしてどんな物なのか。例えば、温かい部屋で温かい食べ物を食べるとか、もしくは誰にも縛れない自由な生き方とか。

 想像すると、嘗ての家族を思い出した。乏しいながらも笑顔で、冷たく暗い部屋でも蝋燭で明かりを灯し、温かい食事を食べた、あの楽しかった生活。

 それが今ではどうだ?

 ただ苦しく働き、私の為に命を張った母ももう居ない。

 結果、何もかも失い、ただ母の復讐に逃げた自分がいる。

 今までの悲しみと迷いがシャンパンのコルクが吹き飛ばされたようにどっ、と襲われた。

 感情が壊れる。駄目だ。悲しみが……止まらない。

 その時、母の姿が浮かぶ。苦しい生活の中で苦痛する言葉なんて、一言も言っていない。

 ………………………―――――。

 ――ここから逃げよう。こんな檻を抜け出して、自由に生きる。

 この命と母の思いを無駄にはしない。

 多少の無茶でも母の願いが報われるなら、私は――広い世界で生き延びてみせる。

 狭い世界ではなく、もっと大きい世界を知らせてくれたあの人にも感謝をしないと。



 ――『私も、世界を見てみたい』



 その時に、私は決めた。

 こんな差別の酷い世界から抜ける事。

 そして商人の憎しみを拭い払って、自由に羽を伸ばして生きていく、と――。

 逃げ出すというシンプルな作戦だが、実行する為にまず、いくつか抜ける所を探して脱獄する計画を練らなければならない。

 まあ、穴を掘って行くのも無理ではないが、私の体力では掘り進める体力が持たないと判断したため地上からの脱獄を決めた。

 そして翌日。幸い朝方は警備人も疲れきって、静かに寝ている。

 あらかじめ牢のカギで開けて、ある程度の食べ物を持っていき、脱獄を実行に移った。

 だが、私は華奢な体格だから、華麗に脱獄をこなす事に失敗してしまった。


 まぁ――物音に気づいた警備人に見つかって追われていたという訳だ……。


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