逃亡劇Ⅰ
ここから逃亡劇Ⅱまで、MF文庫新人賞の評価欄でお墨付きをいただきました!
――ほぼ同時刻。市場近くの寂れた住宅街。
そこは些かに埃っぽく、ジメジメした湿気が人の気分を悪くさせる場所だった。
カビは生え、蛆虫は住み、寄生虫が発生しやすい場所とされている。
もちろんこんな気持ちの悪い住処は、誰も住みたがらない。
少なくともここに住むのは奴隷だけだった。
しかし数人はこの場所を去ろうとするが、嫌に手引きが早く奴隷商人の耳に入る。
そして逃げた奴らは即刻捕まれて、猛獣の餌に扱われるか、又は打ち首の刑として処断される。
誰も養えずただ豚同然の生活を余儀なくされ、奴隷として生きる人々は、それを恐れながらも躊躇わずに生きていくしかない定めだ。
――しかし、一人だけ例外がいた。その人には、ある夢を持っていた。
いつかこの世界を見たいと願うひとりの少女が、必死に湿気じみた路地を走り回る。
「はぁ……はぁ……」
両足を鎖で繋がれた重い足枷が走りを妨げて、思うように走りづらかった。
彼女は、頻繁に後ろを気にしている。誰かに捕まらないように血眼になりながら、迷路のような路地を何回も彷徨っている。後ろを振り向くと男たちに襲われながら、路地に声が響いた。
「いたぞ! 捕らえて殺せ!」
剣を持った二・三人程の男たちが少女の跡をつけてくる。
彼らは、主人に逆らったその奴隷の少女を殺す気で追い回していた。
もちろんただでは、天国に行かせてくれないだろう。じっくりと拷問して、その痛みを身に沁みさせて逝かせる。そんな肉体的ダメージを与える行為を当たり前のように行われている。
それでも覚悟を決めて、脱獄をしたんだ!
彼女は直様に方向を右に変え、また左に変えて進んだ。
「はぁ……はぁ……っはぁ………」
流石に疲れた。少し休もう。でも、追っ手は?
恐る恐る後ろを振り向くと、男達の姿が見えなかった。
どうやら追跡を振り切ったみたいだ。
「はぁ……はぁ……はぁ……ごほっ……」
走って消耗していく体に息が追いつけない。こんなに走るとは私も思ってもいなかった。
ふと足を止め、乱れた呼吸を整えながら一段落して壁に寄りかかって腰を据えた。
「ふぅ――」
一息をつき、薄暗い青空を見上げた。
雲と青い海が暗い隙間から見える景色が、ぽっかり空いた穴にいるような明暗の差が大きく、一層幻想的な光景を目に焼き付ける。
綺麗な空だな、とぼんやり空を見ていると、今までの苦労が抜けていくような気分を味わいながら昨日までの苦労した記憶が蘇ってきた――