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召喚剣士と奴隷魔術師  作者: 本渡りま
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昼寝していたら異世界だった件

「……っ」

 

ゆっくり目を開けた。そこに広がる色彩は、空色だった。

 ……瞼が重い。私はいつの間にか昼寝をしていたようだ。……いっけね。日当たりがよくと肌触りの良い芝生だったから、ついうたた寝してしまった。


「ふ……ああぁぁ………」


 体を伸ばして睡眠で鈍った神経を目覚めさせ、起き上がった。けたたましく人の声や車のエンジン音が鳴り響き、駅近くにショッピングモールが立っている――筈だった。


「あれ……?」


 公園で寝ていたはずなのに、私は知らない土地にいた。建物どころか人の気配すら感じない、茫洋の草原が広がっていた。そこはまるでモンゴルの遊牧民をイメージさせる場所のようだった。


「……何処?」


 眠たげな瞳で周囲を見回して状況を把握する。本当に何もない。建物も人影も動物もいない。ただ漠然とした草が風でなびいているだけの虚しい場所だ。


「さっきまで、公園にいたんだよな……?」


 公園でうたた寝していたら、いきなり何もない草原にいるオチはないだろう……、と内心呟いていた。



 私は白々とした肌と、絹を櫛ったような長く滑らかな黒髪が特長だ。女性とはかけ離れた尖った目つきで、よく男と間違われていることがしばしばある。鷹の目のように見えるも、その瞳は魚のように呆として気だるそうな表情をしている。

 日本の男子の平均身長とほぼ同じぐらいの身長。妖精のように華奢な体格ではなく、少し肉質のある男寄りの体格。その体格から、まさにタイガーなんて呼ばれていた時期もあった……。

服装は、赤色の着物に青色の袴を纏っている。何故なら、先日に買った着物を試着していたら、そのまま眠ってしまって気がついたらもう時間になっていた。そのおかげで慌ただしくして今朝着替える暇もなかった。このまま出かけるのも周囲の視線が痛いと感じてしまうのは嫌だから、誤魔化すように上半身に青いパーカーを羽織っていた。


「……昼寝している一般人をだだっ広い草原に放置する奴は何処のどいつだ……?」


 なんて愚痴をこぼして、懐にしまってあるスマホを取り出す。

こんな何もない草原でも、電話ぐらいは繋がるだろうと思っていた。電源ボタンを押すと、二次元美少女の壁紙に設定したロック画面と対面し、右上に注目する。


「圏外か……」


 希望はすぐに打ち砕かれた。圏外である以上、連絡手段はもはや打つ手はない。

 そうなると次の段階だ。携帯は繋がらない、どこに行けば判らないから、私は遭難したわけだ。となれば、食糧を確保しなければならない――ってか、私は知り合いの遺品を受け取りに来ただけなのに食糧を持っているわけないじゃん!

でも、何か食べられるものがあると考えて、いま所持している全てを目の前に出した。

スマホ(十分電池はある)、財布(運転免許証とポイントカード他諸々)、原チャリのキー(自動車修理工場の電話番号入りのキーホルダー付き)……、現代人の必需である三種の神器が全て揃っている。

嗚呼……、今では役に立たない三種の神器になってしまったが。


(後は……、受け取った遺品だけ……)


 仰向けで寝ていたので、その遺品は盗まれないように腹の上に置いた。ふと、中身が気になったので紫生地の筒袋を開くと、国宝級レベルに匹敵しそうな日本刀だった。

黒々と輝く艶のある鞘と鮫肌に包まれた柄が、如何にも国宝の価値観を醸し出していた。

それを抜刀すると、奇妙な刀をしていた。ある漫画で、反りの腹側に峰があって普通の刀と逆に作られている……なんてあったりするけど、この刀は刃が無く峰だけしかなかった。……いや、もうこれは刀と呼べる物なのだろうか?

 なんて、不思議な形をした刀の事を見つめながら鞘に収め、刀を元の筒袋に戻した。

顔を上げると、日差しが照りつける陽炎の向こうに何が見える。あれは……お城?


「街だ……街がある」


思わず、声を張り上げるように呟いた。霞んで見えづらいが白くて大きな建物があり、その周囲に点々とした家のような建物も見える。

あの街に何かあるかもしれない。少なくとも食料と水だけは、確保しよう。

ひとまず安堵を浮かべて、そう考えた私は立ち上がり、遠くに見える街へ向かって歩き出した。


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