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召喚剣士と奴隷魔術師  作者: 本渡りま
2/11

召喚前の赤碕大香

 ――五月下旬。梅雨に差し掛かり、湿気と大雨が始まりを告げていた。


 本州の中心地として有名なN県U市。東京から金沢までの新幹線の駅があるが、新幹線が止まる本数は少ない。街から少し離れたところに高速道路が繋がって東京や新潟へ短時間で行けるようになった。

 その市街地から北へ10キロ離れた隣町――立川町。その街の山の麓に立川神社と言うひっそりした神社があり、その隣に大きな武家屋敷が隣接している。


 その武家屋敷の一室――居間に季節外れのこたつに二人の人物が潜っていた。


「え……、遺品を引き取って欲しいだって?」


 雨粒の激しい音とともに、熱々の煎茶を飲む私――赤碕大香は驚くように呟いた。

 目の前にいる若い青年が、そう、と相槌を打って話を続ける。


「先日亡くなった鍛冶屋のおじさん。この前遺品整理していたら、年代物木箱が見つかってね。ここに渡してくれっていう置き手紙まであったみたいなんだ」


「へぇ――、品物は何?」


「それが日本刀なんだって。今の時代、銃刀法で厳しく規制されているのにね。もー、許可証を発行するまでいろいろ審査や検査やら……刀を持つのってめんどくせーな」


 青年は一旦話を止め、煎茶を飲んだ。


「でもさ、瑞兄(みずにい)。なんで刀を渡したいって今時言うんだろう? だって、鍛冶屋のおじさんが刀を渡す人なんて、ウチのじーさんしかいないよ。大体、じーさんだって一年前に亡くなっているし……」


 その話に瑞兄と呼んだ青年は、まあねと言葉を濁していた。

 この青年は、赤碕瑞希と言う。私より五歳上の姉がいて、そこの婿養子になった人だ。

 何と言うのか……昔から、姉の幼馴染で幼稚園から大学まで一緒の学校を通っていた縁もあり、つい最近婚約したばかりのホヤホヤ夫婦である。しかも、亡くなった鍛冶屋のおじさんの息子にあたる人物でもある。余談だが、彼は自衛隊に入っている。関係あるのか知らないが、薬学に関しては知り尽くしているらしい。


「早速だが、明日取りに行ってくれないかな。頼むよ、とら。明日から研修へ行かなきゃならないんだ。侘びとして、前から欲しかったストレッチ伸縮糸を組み込んだ着物を買ってあげるから、さ」


  急かすように、瑞兄は手を合わせてお願いしてきた。

 ぐ……、確かに欲しいけど、明日は用事があるんだけど……。

 頭を俯かせて、しばらく考えて分かったよ、としぶしぶに了承を告げた。

 ……畜生。明日の友達の頼みをキャンセルしとかないと。


「サンキュー。おばさんには伝えておくから、よろしくね」


 なんて嬉しそうに言いながら、居間を出て行った。

 多分、買い物行っている姉の迎えに行くのだろう。いつも、駅近くのモールで買い物するけど一緒にいればいいのに……といつも思う。

 それを見届けて、こたつの上にあるせんべいを取ってかじった。


『……連続猟奇殺人事件、いつになったら捕まりますかねぇ?』


『男女含めて六人殺害していますから、そろそろ手がかりは見つかる――』


 一人になってしまった居間でテレビを見ると、市街地の離れで起こっている連続猟奇殺人事件の話題で持ちきりだった。司会者や専門家らがトークしているが、昨日、一昨日と情報が掴めていないらしく殆ど同じ言葉を交わしていた。


 ニュースでしか知らないが、一週間前から毎晩のように怪奇な殺人事件が起こっていた。分かるといえば、現場は裏路地であった事と殺害された被害者の接点は全くないという事だ。一週間前からこの話題しかない情報番組は見飽きてしまったので、テレビの電源を切り、私は大きくため息をついて寝転んだ。


「なんかないかな……あ、広告……」


 目の先に地元の薄い雑誌を取って気まぐれに読んだ。この雑誌は地元企業の案内や情報、映画館のチケットプレゼントなど隣街の情報がほとんど網羅している。因みに週一土曜日の新聞についているので広告と同じ扱いだ。


「何か、情報……ん? 何だこれ?」


 時々読む程度なのでどんな内容があるかあまり把握していないが、ふと都市伝説的な記事があった。いつもは、こんな馬鹿らしい事は書かれていなかったのに。


「なになに……? 『行方不明のmさん謎の怪死。雅羅内蔵(がらいぞう)の洞に潜む祟りか?』。一ヶ月前に行方不明になっていたmさんが立川町にある雅羅内蔵の洞で衰弱しているのを発見した。すぐに救急搬送されたが二時間後に死亡。原因は不明。mさんは『へんな国に飛ばされ勇者として戦った』と意味不明な発言を残して死んでいったという」


 はっ……なんだこれ? 異世界召喚ではあるまいし……。


「ん? ……この洞窟で行方不明になる怪現象は、過去三十年で九件起こっているとの未確認情報あり……か。なんか、伝奇小説みたいだな」


  伝奇というワードを言った瞬間ふと、じいさんの嫁さんの事を思い出した。


「あの人……まだ魔術の研究しているのかな?」


  怪奇的なことが起こると何かと食いつきそうな人だからな。

  まぁ、海外の大学院で魔術の研究をしていたとか聞いているけど、今の時代じゃオカルトじみた事件なんてただの事故で処理されるのが当たり前だ。


「ふぁぁ……」


  思考が働くと急に眠気が襲ってきた。いつもの現実逃避。とりあえず寝よ……。


 ◇


  ――翌日。朝早く起きて、バイクで鍛冶屋のおじさんの家へ向かった。おじさんの家はU市の市街地にある旧家が並ぶ商店街にある。江戸時代から続く鍛冶屋でだが、明治の廃刀令以降から包丁等日用品の物も作っている。

  自宅からバイクでぶっ飛ばして行けば、一時間で行ける距離だ。

 おじさんの家に着いておばさんに挨拶した。せっかくだからとおばさんが茶を出してくれたので小一時間話をして、遺品を貰って自宅に帰路中のことだった。寝たりなかったのか忽然と眠気が発生したので、たまたま通りがかった城跡公園で少しばかり休憩する事にした。

 時間は、十一時を回っている。今日は平日であった事もあり、定年を迎えた老人たちが散歩しているぐらいだった。


「ここでいいか」


 私は、城跡公園の中で見晴らしのよい場所にある草むらに寝る事にした。見渡すと、ショッピングモールと青色と銅色のラインの新幹線が高速で通過し、ガンメタリックの赤色の電車が疾走している。生憎レジャーシートは持ってきていないので、そのまま少しばかりチクチクする芝生を我慢して寝なければならない。まぁ、これはこれで気持ちいいと感じている。


「ふぁ……」


 口を大きく開いて欠伸をすると、真っ青な空をぼんやりと眺める。

 別に大した意味はない。ただこうすれば、自然に眠くなると思っている。


「そういや、もう二年立つんだ。……餅月先輩の連絡が途切れてから……」


 忘れかけた記憶が、忽然と思い出したかのようにつぶやいた。

 私がつぶやいた、餅月先輩と呼ぶ人物――餅月(もちづき)利音(りおん)と言う。

 私が高校の時の先輩と瑞兄の後輩にあたる人物でもあり――私の初恋人……だった。その、まあ、○研○ミのようなDM漫画じゃないからね。絶対!

 おとなしい性格の青年であった。思い出すと、いつも成績は上位十位以内に入る優等生で、その優等生と呼ばれるのにピッタリな黒縁メガネと冴えない瞳。流行に乗らない、純粋な黒色の短い髪。スマホゲームに対しては流行に弱い点を持ったり、優等生とは思えないほど実は天然キャラだったり……などといった人物だ。

 彼の実家が薬局を営んでいる事もあって高校を卒業すると、東京にある薬学専門の大学に進学した。まぁ、当然ながら東京の方へ一人暮らしする訳で、離ればなれになってしまったのだ。

 離ればなれになっても連絡だけは毎日こまめにしていたのだが、私が高校を卒業してから連絡がぱったりと途切れた。LINEのIDが変わったのか、それとも電話番号が変わったのか。とにかく不安でいっぱいだった。

 彼の実家に尋ねてみると、実家からも連絡がぱったりと途切れている。一体何があったのか。怖くてたまらなかった。だが、彼の母親は「不安だけど、ウチに任せて」と言って、彼の捜索は全て家族の方で任せた。その後、ニュースで行方不明の息子を探していますと流れていたが、一ヶ月すればやがて忘れられた。


「一体……どこにいるのかなぁ……、先輩」


 なんて、きっと同じ空を見ている彼に声を掛けるように呟く。

 私だって探した。けど、情報が少なくて見つからなかった。諦め気味の私は先輩がフラって帰ってくるのを待っている事を選んだ。


(――――瞼が重い)


 とろん、と視界が歪み始める。ようやく眠気が襲ってきた。今朝から眠くてしょうがなかったけど、これで眠気がチャラになる。


(……あぁ、やっと眠れる)


 そして、私――赤碕大香は闇に沈むような眠りに入った。


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