第34話 馬鹿と波の主と届く思いと
遅くなりました 蟲編中話です
「ワイヤー隊閣員!!死んでもその手に有る物を離すなよ!!魔力が切れようとも命を燃やせ!!」
隊長格の男が声を張り上げて叫ぶ。
そして、その言葉に呼応するように、
「「「「うおぉぉぉぉ!!」」」」
彼の部下達が雄叫びを上げる。
そんな彼等が雄叫びを上げると同時に、スランの作り出した地獄への一本道を無数の幼態が突き進む。
彼等は進み来る敵がワイヤーに掛かる寸前に魔力を流し、魔力硬化現象でワイヤーを最大まで強化する。
すると幼態は自身の進む力で肉を切られ、その場に留まろうとするが後方から押し寄せる仲間に押し込まれ、その身を切断されて行く。
そして後方の幼態もまた、前方が詰まっても無理やり突き進もうとするので、無理やり押される形で道を踏み外し、多数の幼態が奈落の底へて墜ちていく。
しかし、
「あははは!! バカな芋虫が人間様に勝てると…… !? ぐがァァ!! うぇぇぇくぉぷ…………」
目の前の結果に勝利を確信して言葉を上げたはずの衛士だったが、突如苦しみ悶え始め、最後には嘔吐し、血を吐き出しながのたうち回り、体を一度跳ね上げてから動かなくなった。
それを目撃したスランが、
「ちっ鱗粉か。 全員口を塞げ!! そして魔法を使える者は上空のスヒァーデゥ・ファラエナを落とせ!! このままだと皆死ぬぞ!!」
驚きの表情を見せたが直ぐに、舌打ちと共に険しい顔をし、声を張り上げる。
その声に全員が反応するが、前衛のワイヤー隊の一部は対処する間もなく体を痙攣させ、嘔吐と血まみれになりながら、その場で動かなくなった。
その事で、一つの道から漏れ出た幼態が他の前線へと進軍し始める。
俺は咄嗟に、
「グラン、上空の蛾任せた!! 俺は漏れ出た穴を塞ぐ、エイルは上空に有りっ丈の魔力で水を打ち上げろ!!」
そう叫びながら、金色の煙が舞い落ちる戦場へと駆け出していた。
完全に息を止め、両手に雷撃を溜め込みながら敵へと突撃し、一本道の出口から漏れ出る幼態へと一撃を放つ。
雷撃と幼態が接触すると、激しい光と共に雷電が飛び散り、辺り一面を這い回った。
その一撃で群がり出た幼態の一部は吹き飛び、飛び散った雷電で数匹の幼態の動きを止める事が出来たが、罠を失った出口と、猛毒の鱗粉に耐える残りの衛士に襲い掛かろうとする幼態とい最悪の状況は変らない。
そして俺もまた息が限界に近いなか、目の前から群がり出る幼態の対処をする為にその場を動けずに、
クソ!! 早くしないと完全に前衛が崩壊する…… まだか…… まだなのか…… どんだけ居やがんだよ、早く行かないと
心ばかりが焦り、後の事なんて考えずに目の前の幼態へと雷撃を込めた一撃を入れ続けるが、
「うわぁぁぁ!! くるなぁぁ!!」
「おい!! 今離すと…… がはぁ!」
悲鳴と共に焦る声に、猛毒に耐え切れずに何かを吐く音が俺の耳へと届く。
俺は届いた音に、体から黒い何かが込み上げる感覚がし、不意に腰にぶら下がる牙へと手を伸ばし抜き放とうとする。
しかし牙は何かに阻まれるように鞘から抜けずに、湧き上がった黒い何かは虚しさや虚無感へと変り始め、絶望と恐怖にもがき狂う二人の衛士を眼にしながら
「クソ…… 何でなんだよ……」
そう言葉を溢す。
そして俺の側面には無数の幼態が迫り、目の前の衛士もまた幼態の波に呑まれようとしていた。
「何を突っ立てやがんだ馬鹿息子!! 先ずは自分の身を守らねぇか!!」
俺へ迫っていた無数の影が、怒鳴り声と共に巻き起きた閃光にも似た一撃で跡形も無く消し飛び、
「【精霊乃加護の守り(カーパータ)】!! ヒルト君、こっちは僕が守るから。えぃ!」
目の前の衛士達を包み込むように舞い起きた突風の壁は、群がっていた幼態を吹き飛ばし、放たれた月輪によって切り裂かれ、一瞬のうちに衛士の周囲に空白地帯を作り出した。
同時に、俺の鼻先へと一粒の水滴が落ち、次の瞬間には当たり一面を洗い流すように、滝のような雨が降注ぎ始め、
「何アンタ一人で突っ走ってのよ、自分が言った指示くらい覚えてなさいよ!!」
「こっちは私達に任せなさい、君は今すべき事を成し遂げるんだ!!」
魔力枯渇で立っているのもやっとだと言うのに、右手を上げて励を飛ばすエイル、そして彼女を支えながら魔力で水を操り、上空の成体を牽制しながらも俺へと声を上げるファラ先生。
そんな仲間の姿と言葉に顔を上げて前を見ると、
「たく、なんでも一人でやる必要は無いだろ。お前には、こんなにも力強い仲間が居るんだからな。 ほら、ぼーっとしてねぇで行って来い!! 此処は俺が持ちこたえてやる!!」
優しく微笑む親父が立っていて、 少し口角を上げたと思ったら俺の頭を軽く小突いて、言葉を語り、最後に俺の背中を押してから剣を担いで目の前の一本道へと駆け抜けて行った。
「はっ…… ダッサイな俺……」
俺は小声で言葉を溢し、
「あぁぁぁあぁぁ!!」
次には頭を掻きながら叫び声を上げると、何かがスッキリとして、
「はぁっ…… まぁ、このまま活躍無しってのはもっとダサいからな…… 挽回しないとなァ!!」
俺はタメ息をついて、心を落ち着かせてから言葉を溢し、右手に雷電を宿し、左手に炎を纏って、叫びながら漏れ出た幼態へと駆け抜けた。
はずだったんだ……
「!? って、うぉぉい!! ……って、てめぇ、ワザとだろ!! 降りて来い!!」
突如、羽を炎で焼かれ身を焦がしなら成体が目の前に落下してきたのだ。
せっかく格好付けて仕切りなおしたと言うのに、それを出鼻で挫かれた俺は元凶の人物へと文句の言葉を叫んだ。
しかし当の本人は、
「バーカ!! お前がそうやって、腑抜けてんのが悪いんだろ!! 悔しかったら、とっとと下を片付けて上に昇ってこい。 そしたら話を聞いてやるよ」
舌をだしてアッカンべーとおどけて見せ、馬鹿と何の悪びれるつもりもない風に言葉言うが、最後は真剣な眼差しで笑ってから、再び敵へと炎を引いて行く。
「たく、お前も不器用な奴だよ…… 全く!!」
再び両手に魔法を宿し、敵へと渾身の一撃を振り目掛けて大地を蹴った。
混沌とした戦場は徐々に戦線を押し上げ、幼態の集団を再び数本の一本道へと押し込め直し、地上の戦いは此方が優位に進めていく。
そして上空もまた、水魔法によって降らされて雨により、羽を濡らされた成体の動きは著しく鈍くなり、弓衛士や魔法師、エイルに先生、そしてグランの活躍によって保々全ての成体の殲滅が完了していた。
長引くと思われた戦いは、
「コイツで最後だぁぁぁ!!」
最後の成体を焼き斬り、勝利を叫ぶグランと、
「はぁ、はぁ…… 人様の田畑でよくも好き勝手やってくれたな。でもお前で最後なんだよ、死にさらせぇぇぇ!!」
一人の農夫の振り上げた鍬の一撃で頭部を砕かれ、痙攣しなが最後幼態が絶命した事で幕を閉じた。
最初こそ絶望的な数の暴力と、空の色が変る程の鱗粉に戦意を無くしかけたが、それでも全てが終ると、
「「「駆除完了だぁぁぁ!!」」」 「「「うぉぉぉぉ」」」
「俺は町を守り抜いたんだ!!」 「これで農地は守られ、生活もぉぉぉぉ」
「少数の隊でも、勝てるんだ…… 勝てるんだぁ」
など等と口々に声をあげて祝うように勝利を喜び、近くにいる戦友と肩を抱き合ったり、腕を組んだり叩いたりと、様々に勝利を分け合っていた。
しかし俺は、
「はぁ、勝ったは良いけど…… この後始末はどうするつもりなんだろうな? まさか之も手伝だわすつもりじゃないだろうな?」
素直に喜べない感情を隠すように、目の前の現状への不安を苦笑いしながら呟いた。
目の前の大地は、緑色の体液が池の様に溜まり、無限とも思えた幼態の死骸や透明の肉片、燃え残った羽や外殻等が散乱、奈落もまた圧死した死骸で埋まってる。
そして魔石の山、幼態の物は低品質すぎて使い物にならず、成体の物は殆どが何処かの誰かのせいで燃えて灰と化している。
本当に成果は守ったという事実だけ。
その成果もまた、一騎当千の活躍を見せた、親父に爺さん、エイルにフランとファラ先生、そしてグランが居たからこそ、戦死者を殆ど出さずにすんだから言えるだけ……
俺は何もしていない……
そう思いながら一人佇んでいると、
「なに一人で黄昏てんだよ!! まさか、活躍できなくてやっかんでのか?」
俺の首に腕を回してもたれ掛かって来るグラン。
そんなグランに図星を付かれた俺は、
「そんな訳在るかよ。 ただ、剣を抜けない俺ってこんなに弱かったんだなって思っただけだよ」
その気持ちを否定するように、回された腕を払い除けて言葉を返した。
しかし、
「お前にした殊勝な言葉だな。 でもまぁ、馬鹿か虎馬だかは知んないけどさ。そんな物はとっとと振り切って俺の横に立てば良いだろ、相棒!! それに、この剣も悪くはないけど、お前の創った剣を早く振らせてくれよ。 これでも楽しみに待ってんだからさ」
鼻で笑うような仕草をし、腕を強く回しなおして来てから悪友特有の笑顔を向けながら話すグラン。
俺はグランの友ではなく相棒と言う言葉にくすぐったい思いを感じるが、それも悪くないなと、グランの笑顔に釣られるように笑った。
が、
「って待て…… お前最初の、馬鹿って…… 俺が馬鹿ってことか!?」
俺が言葉に気が付いて、グランの方へと唖然とした表情を向けると既に其処にはグランの姿はなく、
「今更気が付いたか!! そうだよ、いつものお返しって事だよ、バーカ!!」
そうおどけた表情で逃げるグラン。
それを追いかけて、怒っているのか笑っているの分からない表情の俺。
そんな二人を、「何を遊んでるんだ」と笑いながら呆れる仲間達。
そんないつもと変らない時間だった。
しかし、そんな時間は突如として掻き消された。
俺の背後、奈落の底からどす黒い光が昇り、それと同時にドロドロとした球状の液体が形成されながら光の中を昇る。
そして、その液体はまるで意思を持っているように形を変え始める。
その光景はまるで、蛹が羽化するまでの過程を早送りで見せられているような感じではあるが、そんな可愛い物であればどれ程良かっただろう
最初に腹部が形成されるが、その形は蜘蛛を彷彿とさせ、更には鋭利な外殻までも形成される。
そして胸部もまた、そこから生えた長く鋭い足が形成され、頭部には横四対の複眼に、雀蜂のような顎部があった。
また最後に巨大な羽が形成されていく。
そして、その全てが整うと、悶え苦しみ、狂気、絶望、発狂、そんな人の声の全てを内包した鳴き声を上げて、歪み、恐怖を象徴した羽を翻して上空へと上がった。
その姿を見て俺は奴の顔が一瞬だけ歪んで笑うように見え、同時に不安な感情が込み上げ胃の中から全てが吐き出ようした感覚に襲われ、
「クルナァァァ!!」 「うぁぁぁ!!ヤメロ。 ヤメテクレ!!」 「うっっ、腕がァァァ!!俺の腕が溶け…… 溶けるぁぁぁぁ」
発狂し、頭を掻き毟り、地面を転げ、腕を持ち上げながら絶望して脱力、そん数名の衛士の声が聞こえてきた。
声に振り向いた俺は、その様子に呆然としていると、
「あの羽を見ちゃ駄目だよ!! 精神が幻覚に蝕まれて、正気を保てなくなる!!」
ファラ先生が声を張り上げ、同時に魔法で水を凝縮させて発狂する衛士にぶちまけた。
すると発狂していた衛士達は凝縮された水によって頭が冷されたのか辺りをキョロキョロと見渡し始め、自分に何が起きていたのかと言う表情と、同時に恐怖を思い出したのか顔を青くさせていた。
他にも頭を抱えて痛みに堪える様子を見せていた衛士や爺さんにフラン、俺、だったが、先生の声に直ぐに反応したエイルの精神魔法によって、即座に精神が安定し、事なきを得た。
一時的に騒然とした戦場だったが二人のお陰で安定し、元凶への対応をし始めようと体制を整え始めるが、俺が奴の姿を再び目に納めると、人の様に表情を変え、ツマラナイとでも言いたげな様子を見せたと感じるが、即座に憎悪の様な表情に変ると、再び嘆きのような鳴き声を上げ始めた。
劈くようなその音に全員が耳を塞いで耐える。
先ほどの様な発狂や幻覚作用は起きずに肩透かしをくらった気分になり、
「はっははは、何にも起きないじゃ……」
衛士が軽口を叩こうとするが、みるみるうちに顔が青ざめ始める。
俺も最初はその衛士の軽口に賛同するつもりだったが、
「おい、俺だけの目が可笑しいんじゃないよな? グランも見えてるよな?」
目に映った光景に自分の目を疑い、グランへと確認の質問をしていた。
俺の質問に、
「へっ、お前だけなら良かったかな。 ばっちり俺の目にも見えてるよ」
半分引き攣った声で返事をするが、
「ぼさっとしてんな!!」
突然背後から怒鳴り声が聞こえ同時に、頭上に大きな影と金属が弾きあった音と火花が散った。
即座に何が起きたのかは理解出来なかったが、目線の映った親父の剣が俺とグランを頭上の影から守っているの事でようやく理解した。
俺とグランが目の前の異常に気を取られた瞬間に奴は視界から音も無く消え、存在を感知される事なく俺達の頭上に移動し、自慢の鎌の様な足で命を刈ろうとしていた。
それに逸早く気が付いた親父が間一髪の所で剣を差込み守っていた。
その事に俺もグランも気が付いたが何故か、言葉が出ず、体が動かなかった。
親父が俺達の様子に異変を感じ、奴の前足を弾こうと剣を一気に持ち上げるが、俺達の目には更に嫌な瞬間が映った。
弾かれたはずの前足だったが一瞬で視界から消え、蜻蛉の様な動きと言えば分かり易いのかも知れないが、あんな巨体と巨大な羽を持つ生き物がそんな動きで姿を撹乱しながら動く様に龍が可愛く思え、心の底から冷たい感情が体温を奪っていく。
しかし、
「ちっ、しっかりしやがらねぇか!!」
体が硬直していた俺とグランに、怒鳴り声と共に頭部へと衝撃が走った。
俺は走った痛みに頭を抑え、
「何しやがんだよ、親父!! って? 何にが起きたんだ?」
怒りを口にするが、心が冷たくなり熱が奪われていくような感覚が消えた事に驚く。
それと同時に理解する。
また奴に心が蝕まれていた事に。
俺は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるが、さっき映ったアレも幻覚ではと思い森へと目をやるが、ソレは幻覚ではなく現実だったようで、
「アレはマジ物かよ…… 空には奴…… 地上はまたアレかよ…… やってくれんな」
期待は期待でしかない現実に、蟲のくせに人の上前を跳ねる行動だと感心と同時に悔しさの様な感情から言葉を溢した。
その言葉と同時に俺は、
何処にアレだけの余力を残して…… いや、残していた訳じゃない生まれたんだ。
ヤツは其れを分かっていて…… くそムカつく蟲野朗だな……
心の中で現状に唾を吐きながらヤツを睨みつけた。
目の前には再び出現した無数の幼態。
最初の一団よりは小型の集団だが数が尋常じゃなかった。
森の木々を完全に飲み込む程の数が津波の様に迫って来ている。
そして、上空にはヤツと鉄壁の布陣
睨みつけてもそんな現状が変るわけでは無いが、そうせざる負えない感情だったからだ。
そんな感情の中、どれだけ頭を回しても現状を打開できる策が浮かばずに苛立ちから地面を蹴るが、
「またアンタはそうやって一人でどうにかしようとしてるでしょ? 馬鹿」
言葉と共に背中を叩かれた。
それに俺は驚いて振り向くと俺の頬に指が刺さり、
「少しは落ち着いたかな?」
悪戯に成功した子供のような笑顔で笑うエイルとファラ先生が立っていて、
「もう、ヒルト君。 なんでもグラン君と解決しようしないでよ! 僕も…… 僕達だって居るんだから頼って欲しいな」
それに続いてフランが言葉をかけてきた。
三人の女性が、三者三様の表情で俺を見つめている。
そんな光景に、
「ふっ、 こんな状況なのに悪戯とか…… ありがとう。 そうだよな、皆が居れば何だって乗り切れるよな!!」
自然と笑って、
緊張感がない? そんなはずは無い。
三人だってこうやって笑っていてもどこか不安気で、いつ恐怖に潰されても可笑しくない。
それでも集まって、勇気を少しでも…… いや、今を打開するための一手を打ったんだ。
ここで俺が屁垂れたら。
その思いを持ち、最悪を睨みつけた。
すると、
「でっ? 解決策でも思いついたか? どうせ聞かなくてもわかるけど、無茶な事を言うつもりなんだろ?」
剣を担ぎ火風輪を足に宿して、準備は出来てると言いたげなグランが笑いながら声をかけてきた。
その言葉に俺は仲間の顔を見渡すと、皆は微笑み混じりの表情を返してくれる。
そんな皆に俺は一度肩を上げ、まったくと言う感情を出してから、
「グランは上空のクソ蟲の足止めを頼む!! エイル、フランは遊撃サポートに! 先生は爺師匠に伝令を頼みます。 まぁ最後の俺と親父は、前方、蛆虫の群れを割る!!」
今思いつく行動を言葉に出した。
俺の言葉に、
「はぁ…… 無茶を言うと思ったけど、本当に俺に容赦は無いんだな…… だけど、止めといてやるから早く来いよ」
「乙女に本当に容赦ないんだからアンタは。 あっ、そうだ。気持ち悪いから少しは気を利かしなさいよ」
「ヒルト君任せて。 でも、危なくなったら助けて欲しいな…… でもでも、ヒルト君も危なくなってら僕が守るよ!」
「伝えたら直ぐに私も戻るからね。其れまでは無茶をしたら駄目だよ、君は直ぐに無茶をするからね」
そう返事をして自分の役目を果たすために散っていく。
そして、
「少しは男をしてるじゃねぇか。 俺もお前に負けてられねぇな」
親父が剣を構えて俺へ合図をしろと言う目線を向けながら言葉をかけてくる。
俺はその言葉に、
「男をしないとダセェだろ。 それに……」
恥ずかしい気持ちを隠す様に顔を背けて両手に魔法を宿し、迅雷と共に言いかけた言葉殺した。
殺した言葉に親父が首をかしげるが俺の表情を覗き、鼻で呆れたと笑い再び剣を構え直した。
「行くよ親父」
「オウよ!」
俺の言葉に返事をすると、お互いに深く息を吸い込み、
「「消し飛べぇやぁぁぁぁ!!」」
同時に同じ言葉を叫びながら大地を蹴り抜いた。
一直線に幼態の群れの中心へと伸びる弐本の光。
一つは大きく力強く、もう一つは細く鋭く光る。
その光はいつしか一つとなり群れの中心部へと伸びる。
伸びた光は群れに到達すると同時に、巨大な閃光の固まりとなり一気に爆ぜる。
爆ぜた閃光に弾き飛ばされ、宙を舞う緑の点。
続く一団もまた、弾き飛ばされ微塵へと変化してく。
一つの塊の様だった一団はまるで、モーゼの海割りのように真っ二つに分断される。
塊は全てを飲み込む勢いだったが分断された事でその勢いを徐々に失ない、その先に待ち受ける二つの魔法によって更に勢いを消される。
一つは水の渦、一つは真空の渦。
二つの渦によって切り裂かれ、揉み潰され、数を減らす。
減らされても尚一団は、再び一つになり勢いを取り戻そうとするが、突如発生した大量の岩塊の支柱に行く手を阻まれ再び勢いを失う。
それでも岩塊を突破し先に進むが、勇敢な戦士達の刃にその身を切り刻まれ完全に勢いを失った。
波の主は行く手を阻む邪魔を排除しようと閃光にむかうが、一つの炎が閃光を守る様に空に軌跡を描く。
炎は波の主の行く手を阻み、強く強く熱量を上げて輝く。
その紅の炎に身を焦がした波の主は、それから逃げる様に二人の少女へと身を翻し姿を消すが、喰らい付いた炎は消えるどころか更に勢いを増して燃え上がり、波の主を焼く。
それでも波の主は、炎を振りほどき少女達へと迫る。
炎は更に熱量を上げて波の主を止めようとするが捨て身の波の主は、焼かれる身を無視して少女達へと鎌を振るう。
其処に水の盾と無数の光矢が波の主の鎌へと降注ぐ。
少女達へと振り下ろされた鎌は水の盾に阻まれ、降注いだ光の矢に鎌は無残に砕けた。
波の主は絶叫を上げ再び鎌を振るうが、喰らいついた炎はその一撃を許すことなく鋭く研ぎ澄まされた炎の刃で振られた鎌を斬り飛ばした。
更に悲痛の絶叫を上げてもがき苦しむ波の主。
人の光によって完全に押さえ込まれた自然。
そう成る筈だった。
波の主は焼かれる身を翻し、高く高く天へと昇り身に纏った炎を振り払い、その振り払った火の粉を身に纏い地獄の釜の蓋を開けた。
地獄の蓋が開く音に、大地が震え始め、森が割れた。
地獄の釜から這出る亡者のように、森を割り這い出る小さき緑の蛆。
一つ一つは小さく弱い力であっても一つの目標に向けて纏れば、それは全てを飲み込む濁流へと変貌する。
濁流は閃光へと向け、通り過ぎた全てを呑み込みながら突き進む。
濁流が閃光へと到達すると、波を割っていた筈の閃光が逆に割られ、後方の渦もまた荒れ狂う濁流によって飲み込まれ掻き消されていく。
阻む障害を飲み込んだ濁流は、勢いを増し岩塊を飲み込み、勇敢な戦士達をも飲み込もうと襲い掛かる。
戦線が完全に崩壊した人々は成すすべなく飲み込まれるしか無い。
かに思えたが、
「殺らせるかよぉぉぉ!!」
「未だだ…… まだ届かせる訳にいくかよぉ!!」
鉄の親子が叫び、濁流へと追い着いて全力の一撃を叩きこむ。
叩き込まれ衝撃で濁流は一瞬だけ砕けるが、続く濁流は衰える事無く鉄の親子を飲み込もうとする。
けれど、
「守るって約束したんだ。 だから……お願い届いて…… [風の妖精の加護]」
少女の祈りに答えるように蒼碧の風が親子を守る様に濁流を散らし、
「アンタはもーう! [水龍の竜巻]!! ちっ、スラン様、お願い!!」
褐色の少女が再び撒き起こした水渦に巻き取られるが、それでも濁流は発生した水渦を交わすように流れを変える。
「停まれェェぇぇぇ!! [多重魔法の障壁]!!」
しかし二色の防壁が、その流れを塞き止めるように発生し、濁流の行く手を完全に封じ込めた。
「残ったワイヤーをかき集めてくれ!! 速く!!」
その隙に風の加護に守られながら親子は、戦士たちと防衛線を築き上げる。
二色の防壁と水渦が消え再び濁流が流れ始めるが防衛線に張られた絆によって、その身を切り裂かれていく。
それでも……
「もう…… もう持ちません!!」
「数に物を言わせやがって…… このクソ蟲ぃィィィ!!」
戦士の叫びと共に絆は濁流の重みに耐え切れずに、悲鳴にも似た金属音を上げて断ち切られた。
それでも絆が無意味だった訳では無い。
絶望的に思えた、数の暴虐の形をした濁流をその身に変えてでも抑え、
「未だ諦めるな!! 守るべき者の姿を思い出せ!! そして生きて…… その者の笑顔を勝ち取れぇぇぇ!!」
老兵の鼓舞に戦士達は剣を握り濁流を斬り止める時間を作った。
そして鼓舞され剣を握る戦士達は、守るべき…… 守りたい人の笑顔を心に浮かべ、その思いに突き動かされ命の炎を再び剣に込めて振るう。
長く続く戦に疲弊する肉体であっても、心にある願いの力で人は光を放って絶望に抗える
それでも戦況は五分と五分……どちらが先に崩れるかは……
「はぁはぁ…… いったい何時まで…… っち、休む暇もなしかよ、クソがぁ!! いい加減消し飛べよ!!」
火を見るより明らかだった……
「きゃぁぁっ!! はっ! 来ないで…… 来ない……で…… 嫌っ… イヤァァァァァ」
一つの悲鳴と続く絶望の嘆き声が木霊した。
そんな声に濁流は一切の情など無く、倒れ涙を流す一人の少女へと群がるように呑み込みこもうとする。
暗闇に心を呑み込まれ、膝から崩れ落ちる少年。
しかし少年の心に、
お前は全力を尽くしたか? 守るって決めたんじゃないのか?
黄銅色の炎が語り懸け、
でも…… 今動いたら…… それに俺には……
弱音を吐く少年の心。
それでも、
なんだ、そんな事かよ…… 馬鹿野朗がァァァ!! 全力も出さずに諦める奴が人なんて守れるかよぉぉ!! その腰に在る誇りは唯の飾りか? お前の決意は唯の戯言だったのか? そんな餓鬼に俺の心を託した覚えなんて無いぞ!!
黄銅色の炎が熱量を上げて少年を包む暗闇を照らし始め、
少年もまた、その熱に反応するように、苦しむように首を振り、
あぁぁぁぁ!! 抜けろ…… 抜けろ……
雄叫びを上げて、誇りを手にモガキ始める。
そうだ…… そうやって自分の弱さに抗え。抗って抗って思い出すんだ。お前が今、本当に守りたい人を、守りたい願いを。そして…… 己の信念に命を懸けろ
黄銅色の炎が消える寸前に言葉を残した。
その言葉に少年の心は、天使の笑顔を映しだした。
「届けえぇぇぇ!!」
少年は雷電をその身に迸らせ、思いの丈を込めた祈りを叫び大地を踏み込んだ。
祈りは音を超え、迫る全てを吹き飛ばし、その思いを届けさせる。
届いた思いに押されるよう誇りが暗闇から光を放って、飲み込む絶望を薙ぎ斬つ。
そしてフランの目には、光を担ぐ少年の姿が映り、
「ヒルト君…… 約束…… ありがとう」
涙と言葉を零した。
「泣いてんなよ。約束したろ、守るって」
俺はその言葉と共にフランの瞳から零れる涙を拭取った。




