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会いに来たぞ

 少女の傍には足元に色とりどりの花、背後には桜の樹や、イチョウ、杉の木などちょっと常識的じゃない光景が広がっていた。

 俺は、少女の目が獲物を狙う肉食獣のように鋭くなったと感じた。


「ああ、バレちゃったか。隠す気でいたんだけどな」


 少女が大きく伸びをした後、一歩踏み出す。すると、そこからツタ状の植物が生えてきた。植物はみるみる育って少女の身長ほどまで伸びた。ツタの先端はまっすぐ卓也の体を捉えている。


「なんだこれ、超能力か?」

「今すぐ帰るなら見逃してあげよう」


 超能力。それは科学の法則から外れ、世界を思うがままに塗り替える力である。

 少女の足が触れた部分から植物が生えてきた。駄目押しに少女は鳥居に手を触れ、そこからもツタ状の植物が生えてきた。

 どうやら触れたところから植物を生やすことができるらしい。しかも自在に動かせるようだ。少女自身も鳥居の外に出るのがアウトで、触るのは問題ないようだ。

 俺はあたりを見回す。通行人は俺の方を不審そうに見ているが植物については気づいていないらしい。


「見えないからって触れられないわけじゃないよ」


 少女が指差した方向に向かって少女は植物を伸ばした。そして通行人の鞄のひもを千切った。通行人は驚いた様にかばんを見るが自然にひもが斬れたと思ったようだ。かばんを抱えるとそのまま歩道を歩いて行った。

 その様子を見て卓也に冷や汗が流れる。植物には物を壊す力と繊細さがあるらしい。

 しかも植物は普通の人には見えないときたもんだ。


「まさか、この植物たちは普通の人には見えないのか?」


 こんな怪奇現象が起こっているのに、人々は植物に気づきやしない。

 状況から考えれば明らかだが質問せずにはいられなかった。


「そうだね。むしろ何で君はこれが見えているのか不思議だよ」

「まあ、俺には()()()()があるけどな」


 内心の焦りを隠すように不敵に笑う。強さ以前に気持ちで負けてはいけない。

 少女の正体は植物を操る超能力者だった。そして彼女は俺を襲おうとしている。一応抵抗できなくもないが通行人がちらほらいるし……。この場合俺はどうするべきか。


「そもそも見逃すといったって俺は何か悪いことしたのか?」


 手始めに説得しようとしたが失敗した。

 少女の視線がカッターナイフよりも鋭く俺に刺さる。


「私の正体……、全部は分かっていないようだけど……、それでも超能力者とばれたから」


 少女の行動が理解できない。無感情すぎて読み取れないのではなく、子供のようにコロコロと変わり過ぎて掴みきれない。

 ここは下手に刺激せずに大人しく従うしかない。 


「分かった。俺は帰るよ」

「おお、納得して__」

「でも、明日また来る」


 少女が意外そうで、少し嬉しそうな顔をする。それは友達と遊ぶ約束をした子供みたいな顔だった。

 本当に、こういうところが分からない。さっきまで俺に対して怒っていたのかと思ったら、今度は急に嬉しそうにしだすもんな。

 まったく。放っておけない奴だ。


「明日神社に来るからまた会おうな」

「いや、急にそんなことを言われたも」

「別にいいじゃん。それじゃあ帰り道気をつけてなー」


 俺はさっさと後ろを向いて歩き出す。多少強引な会話だったかもしれないが女子との正しい会話方法なんて知らないし、こういう時は相手を気遣うセリフを言えばいいだろう。……たぶん。


 俺は街灯の明かりを頼りに家まで戻る。田舎の夜ってやっぱ怖いわ。植物の成長に関わるとか言って最低限の明かりしかつかないし、周りは畑とか田んぼで変わり映えしないし。

 というか良く考えたら高校生が夜十時過ぎて出歩いてるってヤバイよな。お巡りさんに見つかったら補導されてしまう。

 しかも、深夜に出歩いた理由が少女と遊んでましたとかイメージが悪すぎる。

 都会から久々に戻って神社の祭りに参加したら超能力少女に出会った。

 改めて考えると忙しい一日だな。特に超能力者と会うところが。あ、なんか眠くなってきた。

 

「そういえば、明日何時に神社に行くか伝えるの忘れて――」


 気が付いたら鳥居の前に立っていた。自分の体が光に照らされて暖かくなっている。太陽の傾き具合から午前中であることが分かる。

 ……ただ、どういう経緯を経てここまで来たのか思い出せない。これが若年性アルツハイマーなのだろうか。ちょっと怖いな。


「やっほー。思ったより早かったね」


 少し悩んでいたら頭の中に声が響いた。たぶん昨日の少女だ。だが、声がするだけで姿がよく見えない。


「あれ、どこに居るんだ?」

「さあて、どこでしょう。探してみてね!」


 少女は悪戯っぽく喋る。ただ、探してねと言われると逆に探さなかったらどうなるか気になってしまう。

 俺の天邪鬼的な性格が体を後ろに向けさせた。



「……面倒だし帰ろうかな」


 そして小声でぼそっと呟く。すると慌てたような少女の声が聞こえた。


「わあっ! そっちから来るって言うからもてなす用意をしたのに。もう帰っちゃうの!?」

「冗談だよ冗談」


 あんまりしつこくやっても嫌がるだろうしすぐに探しに行くか。

 まずは昨日少女が居た林の奥に向かう。草や枝をかき分けて進むが一向に開けた場所に出ない。


「あれー、昨日はこの辺に木があったのになー。おかしいなー」


 わざとらしく言葉に出してみたが少女からの返答はなかった。昨日は道が暗くてよく見えなかったから場所を間違えたのだろうか。

 俺がそう考えているとまた声が聞こえた。


「…………はずれ」

 

 どうやらここははずれらしい。長い沈黙の後ようやく聞こえたのは「はずれ」の一言だった。

 少女とあのでかい木はどこに消えたのだろうか。謎は深まる。

 仕方がないので別の場所を探した。神社の境内をぐるっと回ったり、屋台を一か所一か所調べたが手がかりはゼロだった。ただ「はずれ」と答えるばかり。さすがにこれだけだと探す気も失せるよ。


「……頑張って。ちゃんとご褒美はあるから」


 すると、俺の内心を見透かしたように少女が語りかけてきた。そういえばこの声は俺だけしか聞こえていないのかな。周りの人は気が付いていないみたいだし。

 あと行っていないのは本殿の方だけかな。

 お正月と違って祭りのときは本殿に行かない。本来、祭りには重要なんだろうけど飾りがあるだけで屋台はないし。

 正直ここが外れていたら降参するしかない。


 俺は本殿の方に向かう。

 そこには飾りとかがいっぱい付けられていた。さすがお祭り。

 よく見ると手水舎の近くにあの少女が居た。


「やっほー、こっちこっち!」


 少女が凄くにこやかな笑顔をしている。少女の足元にある石畳にはたくさんの菜の花が咲いてあった。


「やっと見つけたよ」

「お疲れ様。はい、これご褒美」


 そう言って渡してきたのは植物で編みこまれたお守りだった。

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