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ある日の夜

 超能力。

 それは、物理法則から離れ世界を思い通りに変える力である。

 公には知られていないその力を、利用しようとする勢力は多い。皆、超能力が持つ不思議な魅力に憑りつかれたのだ。

 二人の少年少女の運命もまた、超能力によって変えられた。

 超常の力を持つ者たちの出会いは、それだけで世界を変えるほどの力を秘めていた。 

 

 四月一日の日曜日。高校二年生になった少年、火口卓也(ひぐちたくや)はお祭りに参加した。

 普段卓也は、都会にある学生寮で一人暮らししている。だが、今は春休みなので地方にある実家に帰ってきた。

 数か月ぶりに家族に挨拶をすると、卓也は神社でお祭りをやっていることを聞かされた。

 少し考え、卓也は夜に出掛けることにした。

 電車で長距離移動したばかりなので、すぐに出かけるのは面倒くさい。それに両親との久々の会話や妹にお土産を渡さなければいけない。

 もろもろの理由で卓也は日が傾き始めた辺りで家を出た。

 

 卓也が神社に着くころにはもうすっかり暗くなっていた。

 夜の祭りは昼とは違った雰囲気になる。特に神社の境内は顕著だ。提灯の赤みがかった明かりが、何とも言えない風情を醸し出す。

 まず卓也はどんな屋台があるか見て回った。クレープ、チョコバナナ、射的、金魚すくい等色々ある。

 卓也はまずクレープ屋に向かおうとしたとき、あることが気になった。黒い浴衣を着た女の子が明るい道から外れ、林の中に向かったのだ。


「女の子が一人で暗い所に行くとは不用心だな。立ち入り禁止と書いてあるのが見えなかったのかな? 注意するか」


 卓也は少女の跡を追って林に入った。

 当たり前だが林の中は暗い。国道には街灯があるし、神社には提灯が飾られている。だが、林の中にはわずかな月明かりしかない。

 歩き続けたがなかなか少女は見当たらない。

 行っても行っても木、ばかり。あと少しして少女が居なかったら帰ろう。そんな気持ちが現れる頃に、視界に変化が起きた。


「すげえ!」


 そこには、樹齢三百年は超えるであろう大木があった。太く、立派な幹は大人が五人で手をつないでも囲いきれないだろう。木の高さは二階建てのアパートを余裕で越しているに違いない。


 卓也は近くに女の子がいないか探した。すると、木の傍に少女が居ることに気付いた。

 卓也は声を掛けようとしたがためらった。

 少女が、寂しさで震えているような、涙をぬぐっている様な仕草をしたからだ。

 何か悲しい事でもあったのだろうか。邪魔してはいけないとその場から離れたとき、卓也はうっかり足元の石を蹴ってしまった。コツッという音があたりに響く。


「誰?」


 不意に少女が振り向いた。暗くてよく見えなかったが、卓也には少女が不思議そうな顔をしていると感じた。


「ここは立ち入り禁止だよ。看板が見えなかったの?」


 少女は心配するような声をだす。

 卓也は注意をするつもりが逆に注意されてしまった。これじゃあ何のためにここまで来たか分からない。


「君だってそうだろ。女の子がこんな所に一人でいちゃ危ないだろ。帰ろう」


 その言葉を聞くと、少女は一瞬意外そうな顔をした後笑い出した。


「ふふふ。心配してくれてありがとう」


 少女はお礼とともに卓也に近づいた。


「それじゃあ戻ろう」

「お、おう」


 思った以上にあっさりと了承されて卓也は拍子抜けした。

 泣いていたように見えたのは気のせいだったかも。卓也は心の中で思った。 

 二人は暗い林の中を歩いた。しばらくして、二人は明るい所まで戻ってきた。


 そのとき、卓也の腕に柔らかい感触がした。

 振り向くと、少女が卓也の左腕にからみついていた。

 思わずドキッとしてしまう。明るい所に来たから少女の姿がよく見えた。

 高校生……いや、中学生ぐらいだろうか。腰まである長い髪は、まるで夜空のように黒く輝いており、少女の瞳はガラス細工のように透き通っていた。

 一言で表すなら可愛い。丁寧に言うならフワリとゆれる髪と相まって凄く可愛い。そんな少女だった。


「一緒に回らない?」

「喜んで」


 この状況で断れるやつがいるなら見てみたいもんだ。卓也は少女と歩きながら思った。

 と、ほどなくして、少女が声を上げる。


「あれ美味しそう」


 少女が指差した方にはクレープの屋台があった。


「そうだね」


 卓也がそう言うと、少女はやれやれといった風に首を振った。


「女の子があれ、美味しそうだねと言ったら男は『じゃあ買ってくるよ』と言うものだよ!」

「そういうもんなのか?」

「そういうもんです」


 なるほどと卓也は納得してクレープを二人分買った。

 それからも卓也にはちょくちょく少女から指摘があった。


「歩くのが速いよ。もう少し歩幅をゆるめて」

「……ああ……悪い」

 

 これが二人で歩くという事だろうか。歩幅を少女に合わせた後も、卓也は新鮮な気持ちで歩いた。

 思えば女の子と二人っきりで出かけたことはほとんどない。妹となら何度もあるが、家族は参考にならないだろう。


 そこまで考えてから卓也は少女の方をちらっと見た。彼女は今、何を思っているのだろうか。もっと彼女のことを知りたいな。

 趣味とか、どこに住んでいるのだとか。そういえば名前も聞いていない。


「そういえば、君のなま__」

「あ、迷子」


 卓也が名前を聞こうとする直前、少女が走り出してしまった。卓也は名前を聞くタイミングを逃し、そのまま少女を追いかける。


「一体どうしたんだ」

「いや、迷子を見つけて」


 よく見ると、神社の本殿の前で小学生ぐらいの男の子が泣いていた。


「う……、ひっく、うう……」

「泣かないで」

「う……、ひっく……」


 なくのに忙しいのか男の子はあまり少女の声が聞こえていないようだ。

 ちらっと少女が卓也の方を見た。

 はぁ。ため息をつくと卓也は少女に声を掛けた。


「俺も探すのを手伝おうか?」

「ホント? いいの?」


 少女は嬉しそうにそうに笑った。

 

 辺りはすっかり暗くなってしまった。屋台は畳まれ始め、通行人も減っている。もう夜の十時過をぎているだろう。

 何故なら少女は男の子を送り届けた後もゴミ拾いをしたり、落書きをしていた少年たちに注意をしようとしたりとせわしなく動いていたからだ。流石に一人で少年たちに向かおうとした少女を卓也は止めたが。

 卓也は結局名前を聞けていない。分かったことと言えば少女が真面目すぎることぐらいか。迷子を助けたりゴミ拾いをしたりするまでなら善人だが、不良少年に注意をするのは善人と言うより子供っぽいとか向こう見ずと言うべきだろう。

 神社の出口、鳥居の近くで卓也は少女に声を掛けた。


「もうすっかり暗くなったな。時間も遅いし家まで送ろうか?」


 だが、少女は残念そうに首を横に振った。


「ううん、家が近いし一人で帰れるよ」

「そっか……」


 卓也は心配そうな顔をする。やっぱりこんな遅い時間に一人で女の子を帰らすのはまずいんじゃないだろうか。それにこの子はお人好しというか自分が女の子だという自覚が薄い気がする。

 卓也がそう考えたとき、突如強い風が起こった。


「うわっ」

「大丈夫か」


 卓也がとっさに手を出そうとしたとき、信じられないことが起こった。

 少女が神社から出そうになったとき、まるで逃がす気はないというように透明な壁に弾かれたのだ。


「きゃッ」

「大……丈夫……か……」


 卓也は振り返ったとき、驚くべきものがあった。そこには大小、季節を問わない様々な植物が少女を取り囲んでいた。

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