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僕はホームに帰れない。

作者: あまね

やるべき事は沢山ある。

やらなきゃならない事も沢山ある。


それなのにやりたい事がない。


つい先日まで、皆がうだるような暑さのグランドで、一人声をだして部活動をしていた人物は、僕じゃなくて別の誰かだったのだろうか。


もしくは中身が、そこらへんの埃とかカビで、合成されて入れ替わっているんじゃないかと思う程に、あの部活の時間と、今の無気力にファーストフード店で、時間を潰している姿と一致させる事が、僕自身できていない。


夏の大会最後の試合後となら一致するのにと思う。


ただ一人残された3塁ベースで佇んでいたあの時間となら一致する。


僕の次の打者は見逃しの三球三振。

ヒットは結局僕の三塁打一本の試合。

僕以外は一塁を踏むことすらできなかった。


1対0とは思えないほどの完敗だ。


そのゲームの反省会で、皆が僕を責め立てた。


何で、あそこでホーム迄こなかったのか。

何で、千載一遇のチャンスを潰すのか。



負けたのは全員の力が足りなかったといつもの様に総括しながら、目はいつもと違い、僕しか見ていない監督だ。


ただ戦犯のお前がいるのみだと言わんばかりだ。



チームが、あるいは監督が、ずっとそうならば、僕だって、まだグランドで声をだしていたかもしれない。


誰にでもそうであるなば、歪んでいる様に見えて公平であるのだと言い聞かせる事ができるから。



そうではなかったのだ。


誰かのミスはチームのミスであったし、誰かのファインプレーはチームの喜びであった。



チームの一員でなかったのかもしれない。


アウトになると確信したホームベースを踏むことができなかったからだろうか。


僕が次の打者に期待したからだろうか。


言葉通りホームに駆け抜けてほしかったのだろうか。


一人だけ褒めるより一人を貶した方が荒波が立つのは少ないと思われたのだろうか。


全くわからない。


勝つ喜びも味わえず、負けた悔しさも共有できず、ただただ三塁ベースの上で立ち尽くしている。



やるべき事は沢山ある。

やらなきゃならない事も沢山ある。


例えば、そろそろ試験の時期だから勉強をしなければならない。


そう例えば、もうファーストフード店から立ち去らなければならない。


部活帰りにこの店へと立ち寄う元チームメイト達がゾロゾロと集合してくるだろう。


いつか謝らなければならない。


いつか、監督に頭を下げればならないだろう。


何かと折り合いをつけなければならない。


だけど、やりたい事はない。


僕は二度とうだるような暑さの中、一人声をだして、部活をする事はないだろう。


うだるような暑さは終わったのだ。




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