第5話 路地裏の神、どちらに陽を射す
written:ひな月雨音
よつ葉が女性の傷の手当てをしていた頃──
「そこまでよ! 人様の物を盗んで、私達と同じように陽の光を浴びて、のうのうと生きているなんて……許せないわ」
このアーケード街は、ひな月の生活圏内の為、小さな路地裏のひとつまで頭に入っている。
「うるせえ! 邪魔するな!」
追い詰められた男はバッグを叩き捨てると、刃物を手にしながら、鋭い眼光をひな月に刺した。
「はぁ……バッグを捨てるなら最初から盗むなっての。まあ丁度いいわ。今日は“まだ”だし……」
「ごちゃごちゃと口うるせえ女だ! 丁度いいのはこっちも同じこと。こんな路地裏じゃあ、誰も来ないだろうからな」
最短距離でひな月へ向かってくる男。
「……あと半日、何事もなく過ごせますように」
ひらりと身をかわし、近くの壁を蹴ると、蹴り上げた足を刃物を持っている方の肩へと振り下ろした。
男は攻撃をかわされたことで気が動転したのか、形振り構わず刃物を振り回す。
空中で体勢を崩し、地面に落ちるひな月と、刃物を弾かれ肩を押さえる男──
「痛っ……やばっ」
ひな月の左足首はパックリと裂け、自力で立ち上がることは困難を極めた。
男の方はというと、鎖骨を砕かれたようで、唸り声を上げながら、より鋭い眼光をひな月へ向けている。
「……もう“あれ”を使うしかないか」
そのときだった──
何かを覚悟したひな月の耳に飛び込んできたのは、傷の処置を終えて、ひな月の後を追って来たよつ葉の声だった。
「ひ……ひな月さん! えっ! ひどい怪我!」
「よつ葉ちゃん?! (これじゃあ使えないわね。どうする……私)」