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決闘(2)

 カルロから放たれた青い炎はミリアムの守護魔法陣のみならず、石造りのステージを焦がし魔法障壁へも攻撃を加えていた。


「うわぁっ」

「壁が……」


 魔法障壁を張っていた男たちから恐怖の声が上がる。

 ミリアムが驚いて見ると、障壁に大きな亀裂がいくつも走っていた。見ている間にも亀裂が大きくなっていく。


「このままではもちません」


 男の悲鳴にも似た声にスザンナが声を上げた。


「私が力を貸しましょう」


 スザンナがそう言うと障壁の亀裂が直っていく。

 魔法障壁が修復されるのを見てホッとしたミリアムだが、自分を守っている魔法陣のダメージはそのままだと気付いて慌てる。

 慌てるが、ミリアムに出来ることはない。

 ミリアムがただオロオロしていると彼女の耳が声を拾った。


『フィアンマ様の魔力だ!』

「え?」


 頭に軽い物が落ちてきたような、小さな衝撃を受けて上を向こうとすると「そのまま」と頭を叩かれて前を向く。


「あなた、今朝の子?」

『聞かれちゃってたか。でも、今はそんな話をしている場合じゃないよ』


 前方に意識を戻すと魔法陣のヒビは大きくなり、今にも割れそうな状態だった。

 限界を意識してミリアムは胸に当てた手を握りしめる。


『手を前に出して』

「なんで?」

『いいから、早く』


 魔法陣が消えかかっている。

 生きるか死ぬかの瀬戸際に意味を考えても仕方ないと腹を括って、ミリアムは胸の前で握っていた手を前に出す。

 すると、青い炎が魔法陣をすり抜けてミリアムの掌に吸い込まれていく。


 熱は感じないものの、恐ろしくなってミリアムは手を引きそうになるが『そのまま!』と頭上から声がかかる。

 十数秒ほど経って、全ての炎を吸い込んだのを確認した頭上にいるものから『よし』と許しを得てようやく手を下げた。


『フィアンマ様の手掛かりが掴めたから、お礼だよ』


 声と同時に頭の上にあった重みは消えた。上を見ても誰の姿も確認できない。

 掌を確認してみるが、焦げても赤くなってもいない。

 青い炎は幻だったのだろうか、とミリアムが思いかけた時、


「くそっ!!」


 カルロが忌々しげな声を吐き出し腰に差した剣を抜いてミリアムに向かってきた。


 慌てたミリアムもまた左手に持っていた短い物干し竿を構えるが、ミリアムにはカルロに対抗する自信などなく、それを示すかのように物干し竿は小刻みに震えている。


 カルロは走っていなかったが距離はすぐに縮まった。


「僕相手なら木の棒で充分だと?」


 ミリアムは首を振って否定をする。

 しかし、その動作も手足の震えも、怯えて涙を浮かべながらカルロを見上げる眼も彼を苛立たせるばかりだ。


「バカにしやがって」


 怒りを乗せてカルロが剣を振ると、ミリアムが構えていた物干し竿に当たり、派手な音を立てて手から離れた。

 物干し竿が弾かれた衝撃で手が痺れた。

 遠くに転がっていった物干し竿を見て、ミリアムはとうとう闘う術を失った事を悟り呼吸を忘れた。


 ミリアムの動揺に構うことなくカルロは再び剣を振り上げる。とっさに足を後退させたミリアムだったが、足をもつれさせて尻餅をついた。

 カルロの剣はミリアムの頭の上を過ぎていった。


 頭上から聞こえた舌打ちに心臓が痛くなる。

 カルロが剣を振るうために腕を動かしたのをミリアムは目で捉えたが、逃げるための力が出ずに目を強く閉じた。


 ガキィィン


 重い金属同士がぶつかる音がしたかと思うと、遠くに何かが落ちる音がする。

 ミリアムがそっと目を開くと、よく知っている背中が目の前にあった。


「ベルナルド」

「お怪我はありませんか? ミリアム様」

「ない……けど」


 ベルナルドは視線をカルロに向けたままいつもと変わらない声でミリアムに尋ねた。

 ベルナルドの剣はカルロの首筋に突きつけられている。


「お前、主家の決闘に横槍を入れるなんてどういうつもりだ」

「ベルナルド、剣を下げなさい」


 カルロが凄んで見せても反応を見せなかったベルナルドだが、スザンナの一言で剣を鞘に収めてスザンナに向かって膝をついた。


「ベルナルド、何故このようなことをした?」


 マッテオの儀礼的な問いにベルナルドは特別緊張するわけでもなく、小さく頭を下げてから答える。


「ミリアム様は剣術の心得がありません。害される恐れがありましたので」

「ふざけたことを。決闘とはそういうものだ。

 お爺様、ミリアムは失格。ベルナルドには罰を」

「待ってください!」


 立とうとしたが、足に力が入らなかったミリアムは両手をついて祖父を見上げた。


「ベルナルドは何も悪くありません。

 罰なら私がベルナルドの分まで受けます」

「そんな、私が勝手にしたことです」

「勝手も何もない。私を助けてくれたベルナルドを見捨てられない」

「そんなことを言われたら私が貴女を助けた意味がなくなる」


 ミリアムとベルナルドが言い合いをしているのを見ていたマッテオが一つ手を打って注目を集めた。


「もういい」

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