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決闘(1)

 箱に入っていたレースとフリルがあしらわれた深緑色のワンピースを着たミリアムは冷や汗と共に疑問を口にする。


「こんないい服で決闘するの?」


 都会へ出掛ける時にも着たことがないような服を着せられて「いつもの服でいい」と言い始めるミリアムにスザンナがため息をつく。


「格好で舐められちゃもったいないでしょう?」


 スザンナの堂々とした物言いに「そういうものなのか」と納得しないまでも文句を言うのをやめたミリアム。彼女の服と髪を整えたエレオノーラはにっこりと笑った。


「よくお似合いですよ」


 肌に触れる柔らかな生地も身体にぴったり合った服も、あまりに慣れないため落ち着かない。

 それでも、エレオノーラの手腕により鏡に映るミリアムの姿は様になっていた。


「ありがとう。エレオノーラさん」

「じゃあ、行きましょうか」


 部屋から出ていくスザンナとエレオノーラの背を見ながらミリアムは立ち上がれない。

 鏡台の前に座ったまま手を握り締めるミリアムを見て、ベルナルドは彼女の前に膝をついてその目を見つめる。


「大丈夫です。何があってもミリアム様は私が守ります」


 そう言ってベルナルドは手を差し出す。

 今までと同じ、頼りになる兄のようなベルナルドに安心したミリアムは彼の手をとって立ち上がった。



 □■□■□■□■□■□■



 舞台は屋敷の裏庭に整っていた。

 石造りのステージができており、カルロが腕を組んで立っていた。


「少しは見れる格好になっているな」

「ありがとうございます」


 隅にあった階段を使ってミリアムもステージに上がる。

 屋敷を背にしてマッテオが座り、その右隣にスザンナ、左隣はミリアムには見覚えのない男が座っていた。

 エレオノーラとベルナルドはスザンナの後ろに立っている。


 ミリアムは心臓が握られているような緊張を感じ、右手で短くなった物干し竿を握りしめ、左手を胸に当てて深呼吸をした。

 深く深く息を吐いていくと、緊張は残るものの足の震えは幾分かおさまった。


「双方準備はいいか」

「はい!」

「……はい」


 ミリアムもここまできては仕方ないと観念して返事をする。


「魔法障壁を」


 マッテオの指示でローブを着た四人の男がステージの角にそれぞれ手をかける。すると、ステージを覆うように白い光の壁が出てきた。


 光が淡いおかげで外の様子もよく見えるが、ミリアムは檻に入れられた気分になった。落ち着かずに辺りを見回していると、マッテオが説明をし始める。


「その光る壁は内側からの魔法を防ぐことができる。存分に実力を発揮するがいい」

「ありがとうございます、お爺様」

「ありがとうございます」


 カルロにつられるように礼を言いながら、発揮する実力もないことに申し訳ない気持ちが生まれる。

 余計なことを、とも思わないでもなかったが。


「では、双方中央に。背中合わせに立ちなさい」


 中央で向かい合うとカルロはミリアムを一睨みして、眼を逸らすように背を向けた。その態度に少し傷付きながらミリアムも背を向ける。


「そこから双方5歩進む」


 1……2……3……4……5……

 心臓が耳に移ってきたのかと思う程にうるさい。


「振り返って開始」


 マッテオの声に導かれるように振り返ると、カルロの腕に炎が渦巻いていた。


「あ……」

「驚いたか」


 得意げに笑うカルロを見ながらミリアムは頷く。

 カルロの出している炎はエレオノーラがつけたキャンドルの灯とは比べものにならない。


「熱くないんですか?」

「熱いわけがあるか! 魔力調節くらいできる!」


 ミリアムとしては心配から出た言葉だったのだが、カルロを怒らせるだけの結果に終わった。


「余裕を見せていられるのも今のうちだ」


 そう言ってカルロが腕を前に出すと、渦を巻いていた炎がミリアムに向かってきた。


 咄嗟に強く目を閉じて腕で顔をかばうが、そんなことで防げるとは思ってもみずにミリアムは死を覚悟した。


 しかし、一向に炎も熱もやって来ない。

 恐る恐る目を開き腕を下げると、白い魔法陣が盾のようにミリアムを炎から守っている。


「なんだ、これは」


 カルロが眉間にしわを寄せて呟くと、マッテオが感心したように答えた。


「守護魔法陣だな。

 ロッソ家の者なら生まれた時に施されるが、発動しているのは初めて見る」

「魔力量か……」


 奥歯を噛み締めてカルロはミリアムを見る眼を鋭くする。


「それなら僕も攻撃を強めるだけ!」


 威力を増した炎がミリアムを包むが魔法陣により攻撃は届かない。

 次第に炎は力を弱めて消えていく。


 ミリアムは安堵の息をつくが、カルロは悔しげに膝をついた。


「この手は使いたくなかったが」


 カルロが掌をステージについた。それだけなのにミリアムの背筋をぞわりと悪寒が走る。


 無意識に息を止めてミリアムが様子を見ていると、カルロがついた手から青い炎が立ち上がった。

 二度の魔法とは明らかに違う圧力をその炎から感じる。


「これならどうだ」


 青い炎がカルロを中心にして放たれる。

 再び守護魔法陣が発動されるが、今度は魔法陣にヒビが入った。

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