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決闘の武器は木の棒

『本当にミリアムだ』

『髪が短いからマッテオが残念そうにしてたな』


 子供のような高い声にミリアムの意識が揺り起こされる。


『仕方ないさ。あの国では赤い髪は嫌われてるからな』

『ミリアム早く目を覚まさないかな~。

 紫の目が見たいんだけどな~』

『ダメだって。先にフィアンマ様を捜さないと』


 徐々に意識が覚醒されてきたミリアムの耳に聞き覚えのない名前が飛び込んできた。


「フィアンマ様ってだれ……?」


 目を擦りながら身を起こし、辺りを見回してみるが誰の姿もなかった。

 どういうことだ、まだぼんやりしている頭を悩ませていると、扉をノックする音が響いた。


「ミリアム様、お目覚めですか?」

「いま起きた」


 ミリアムが返事をすると「失礼します」と声を掛けてエレオノーラが入ってきた。

 ベルナルドの母と言うよりも姉といった方がしっくりくるような綺麗な顔が今は青ざめている。


「何かあったの?」

「カルロ様から決闘の日時連絡がありました」

「いつ?」


 本当にするのか、と頭の片隅で思いながら尋ねていた。


「本日、正午です」

「早過ぎでしょう……」


 ため息混じりに呟いて布団に顔を埋める。

 何の気なしに窓から見える空を確認してみれば重い雲が空を覆っている。


「雨天延期とか、ないかな?」


 ミリアムの憂鬱ながらどこか呑気な言葉にエレオノーラはおかしくなって笑ってしまった。


「ありません」

「エレオノーラさん、笑いごとじゃないよ」

「そうですね。では、朝食にしましょう」

「エレオノーラさん……」

「お腹が空いていては逃げる事もできませんよ?」


 エレオノーラの言う事ももっともだと諦めてベッドから降りる。

 鏡台に置かれた洗面器で顔を洗い、エレオノーラから渡されたタオルで顔を拭いていると部屋の扉がノックされた。


「食事を持ってきたわ」


 食事を乗せたワゴンを押して部屋に入ってきたのはスザンナだった。

 いつもは一つに括った髪をまとめ上げて、高価そうな服を着ている。


「仰ってくだされば運びましたのに」

「エレオノーラはミリアムを起こしてくれたからいいのよ。

 隣の部屋に準備をしておくわね」


 着替えを済ませて隣の部屋に移ると朝食の準備が整っており、スザンナとベルナルドは席に着いていた。


 バターの効いたスクランブルエッグとカリカリに焼かれたベーコン、彩りのいいサラダとまだ温かく柔らかなパンに黄金色に澄んだコンソメスープと冷たいミルク。

 いつもの朝食を何倍も豪華にしたような食事を終えるとエレオノーラが淹れたコーヒーを飲む。


 お腹は満たされた。

 コーヒーを飲んで一息ついて、ミリアムは意を決して隣に座る母を見た。


「母さん。私の武器について教えて」

「魔法陣と魔法道具ね」


 微かに笑みを浮かべるスザンナに頷くが、スザンナの返事はつれないものだった。


「どちらも今は教えられないわよ」

「なんで」


 登ってみた途端に梯子を外された気分のミリアムは非難を込めて聞き返すが、スザンナは「何を当たり前の事を」といった表情をしている。


「生兵法は怪我の元、っていうでしょ」

「じゃあ、今日の決闘は」


 ミリアムは事態を飲み込むにつれて、血の気が引いていくのを感じた。


 当主を継がない宣言をして決闘を回避すれば誰かの命が危うくなる。だからと言ってミリアム自身に戦う術はない。

 さすがにスザンナも娘が可哀想になる。


「持ってきた物に何か武器になりそうなものはないの?」


 スザンナの言葉を聞いて魔法のカバンを持ってきたベルナルドからカバンを受け取って、次々と中身を取り出していく。

 本、鍋、服、靴、調味料の入った壺などなど。

 攻撃力の高そうな物と言ったら、包丁やナイフ、ハサミくらいだ。

 しかし、下手をすれば相手を殺しかねない物で決闘をする度胸などミリアムにはない。


「使えそうなのは……」


 並べられた物を物色していたスザンナは端の方に転がっているものに目を留めた。


「これ位かしらね」


 そう言って彼女が拾い上げたのは、何でも入る魔法のカバンを面白がってミリアムが入れた物干し竿だった。


「少し長すぎるから短くしておきましょう。手を出して」


 ミリアムに物干し竿を持たせて、その様子をスザンナが見ていると竿が短くなった。床を見れば切れた竿の端がカーペットの上に落ちている。


「ほら、両手で持って構えて」


 言われるがままに短くなった物干し竿を構えるミリアムを見てスザンナは満足そうに「良さそうね」と笑う。


「……え、これで決闘するの?」

「そうよ。あ、決闘にはこの服を着てね。私とエレオノーラからのプレゼントだから」


 スザンナが持ち出してきた緑色の箱に入ったワンピースを見てミリアムは途方に暮れた。

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