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実は人間じゃなかった?

初投稿となります。

更新は遅いかもしれませんが、よろしくお願いします。

「あなたの本当の名前はミリアム・ディ・ロッソ。

 この国で『魔王』と呼ばれる人の子孫よ」


 15歳の誕生日の朝、ミリアムは母からそう聞かされた。


「今夜、国へ帰るわよ」


 理解が追いつかずに呆然とする娘に構わず母が話を進めていくと、ミリアムの口からようやく掠れた声が出てきた。


「うそ。わたし、魔法なんて使えない」

「うそじゃないわ。あなたは一族で一番の」

「うそっ!!」


 もう聞きたくない。

 そう言う代わりに力の限りに叫んで母の言葉を遮ると、ミリアムは背を向けて家を飛び出した。



 ミリアムが物心ついた頃から住んでいるルマーノ王国の北に位置するこの町は、人間達から魔族と呼ばれる魔法を使う種族が住む国と大河を挟んで隣接している。

 そして、近くに魔族が住んでいるせいか、町の人は魔族に関して神経質なところがあった。


 昔話に出てくる魔王と同じ赤い髪に紫の瞳をしているミリアムは、同年代の子供から石を投げられては「魔族の国に帰れ」と言われたり髪を引っ張られたりしていた。

 子供の母親はそれを見てたしなめたりするものの、ミリアムを積極的に助けるような町の人はほとんどおらず、ミリアムを助けるのは大抵彼女の兄代わりであるベルナルドだった。



 日が傾きはじめた休日の午後、噴水のある中央広場は人出が多かったがミリアムはベルナルドを探して辺りを見回す。

 高い背に緩いウェーブのかかった黒い髪、夏空のような濃い青の瞳、背筋を伸ばして堂々と歩く姿を探しても見つけられない。


 諦めて他の場所を探そうと足を動かしたとき、後ろから声をかけられた。


「よぉ、魔王」


 振り返った先にいたのは、かつてミリアムをいじめていた同い年の少年、フランクだった。

 ミリアムの眉が寄り、意識せずに不機嫌な声が漏れた。


「……魔王じゃない」


 言うことだけ言うと、家を飛び出す前に母から聞かされた話を思い出してミリアムは胸の奥が苦しくなった。


「お、おい」


 戸惑いまじりのフランクの声を振り切るように背を向けてミリアムは再び走り出した。



 町の西側にある丘の上まで全力で走ったミリアムは息を切らして木の根元に座り込んだ。


「おまえ、どうしたんだよ」


 ミリアムの後を追いかけてきたフランクが手の甲で汗を拭いながら彼女の隣に座る。


「なんで追いかけてくるの?」

「泣いて走り出したヤツを放っておけるか!」


 怒鳴るような強い声だったが、真っ赤になった顔には全く迫力がなかった。


「どうしたんだよ」

「……ひみつ」

「はあ?」


 ふざけるなと言いたげなフランクに少し笑ってミリアムは視線を外す。

 ミリアムが向けた眼の先には国境の砦がある。

 砦の向こうには大きな河があり、対岸に見える森は魔族の国だ。


「オレは卒業試験に受かったら砦の警備隊に入るんだ。おまえは?」

「わたしは」


「卒業を待たずに国を出るんだ」

 口に出そうとした言葉が喉に引っ掛かって出てこない。


「わかるぞ」


 黙っているミリアムに何を察したのか、フランクがミリアムの肩を叩いた。


「就職先も嫁の貰い手も見つからなかったんだな」


 嬉しそうに笑うフランクに腹は立ったが、間違ってはいなかった。


「そうじゃなくて、引っ越さなきゃならなくなったの」

「引越し? いつ? どこに?」

「すぐだって。町の外……遠くみたい。わたしもさっき聞いたの」


 ミリアムがじっと見ているとフランクは納得したように視線を正面、砦の方に向けた。


「それで泣いてたのか」


 違うけど。

 そう思いながら黙っているとフランクが言葉を継いだ。


「おまえは、どこでもやっていける」

「え?」


 予想外の言葉にミリアムが聞き返すがフランクは真面目な顔のまま話を続けた。


「オレがおまえに石投げたの覚えてるか?」

「おデコに当たって、ちょっと血が出たね」


 今では痕も残っでいないような傷だが、当時のミリアムは大泣きした。

 今ならどうするだろうかと考えているとフランクが小さく謝った。


「え?」


 聞きなれない謝罪に耳を疑い、彼をまじまじと見つめているとフランクの顔がだんだんと赤くなっていく。


「悪かったと思ってる。ケガさせるつもりも、傷つけるつもりもなかった」


 フランクを見ているうちに、ミリアムは彼の方が傷付いているように見えた。


「もういいよ」


 怪我も傷ももう見えない。

 全て治ったのかもしれないし、どこかに傷痕が残っているのかもしれない。

 甘いかもしれないし、間違っているかもしれない。

 それでも、自分が彼に言えるのはそれくらいだろうとミリアムは思った。


 ミリアムが笑うと、フランクは安心したように頭を掻いた。


 そんな彼の様子を見て、ミリアムはどうしても聞きたくなってしまった。


「もし、わたしが本当に魔王だったらどうする?」


 目を丸くするフランクの顔を見て、ミリアムは自分の失言を悟った。

 慌てて「冗談だよ」と取り繕おうと口を開いたが、フランクが返事を口にする方が早かった。


「どうもしねぇよ」


 今度はミリアムが目を丸くする番だった。

 拍子抜けしたミリアムの顔がおかしくてフランクは少し笑った。


「おまえが人間に危害を加えたり、滅亡させたりするのなんて想像できないし。

 おまえが今までと同じなら、オレだって急に態度変えたりしねぇよ」

「そっか」


 特に仲の良い相手というわけでもないはずだったが、ミリアムはやっと息がつけた気分になれた。


「ありがとう、フランク」

「おう。引越し先でうまくいかなかったら帰ってこいよ」


 その時はちゃんと国境を越えられるんだろうか。

 そんな思いを抱きながらもミリアムは嬉しくなって笑った。


「そうする」

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