「状況を分析しよっか」
ダリアは俺のベッドに腰掛けると、分厚い本を開いた。
これは、都市国家コーフにおけるモンスター博物学の本なんだそうだ。
妹は、俺と一緒にモンスターに襲われた所を、クロスボウ使いのワンダラーに助けられた。
そこで、ワンダラー萌えに目覚めてしまい、今では若くして、コーフ最高学府の研究員をしている。
「それじゃ、お兄とシェレラの馴れ初めからよろしく!」
「待て! 馴れ初めとシェレラとどう関係が……あるな」
そもそも、人狩りに襲われていた彼女を助けて、パーティを組んだのだった。
だが、馴れ初めというにはまだまだ俺たちが出会ってから、時間は経っていない。
「むしろ、俺たちが初めて仕事に出た時から、色々おかしなことが起こっててな。パープルラプトーンが大量に発生したり、グルルドーンが出たりとか」
「グルルドーンがコーフまで!? ちょっとあり得ないなあ。この土地には、彼らの食事になる流紋岩が少ないんだよ? そんなところまでやって来るなんて、よっぽどの事があったのか……あ」
ダリアも思い至ったようだ。
最近起こったよっぽどの事と言うと、北方の獣人王国を滅ぼした、天壊魔獣ドグラマガーのこと。
で、シェレラの銀色の体毛は、高貴な獣人族にしか現れない特徴だとすると……。
「獣人王国のお姫様……だったり?」
「当たり」
シェレラがにんまり笑った。
「だから分かるでしょ? ドグラマガーと戦うには、力がいるの。ワンダラーの手も借りないとだし、戦いの中心になる最強の戦士もいないといけないの。ちなみに最強の戦士がダンね」
俺の二の腕をぺちぺち叩くシェレラ。
まあ、力こぶを作ると、そこだけでシェレラの腰回りくらいの太さにはなるな。
「そうね。お兄がハンマー持ったらコーフ最強だと思うわ。だけどこの人クロスボウしか使わないから」
「俺の誇りなんだぞ!!」
ここはちゃんと主張しておく。
「でも、その金属板がついたクロスボウはいいと思うわね。お兄のファイトスタイルに合ってるんじゃない? それ、装甲獣ガキーンの皮でしょ」
「……そうなのか?」
「そーなの。どうせカリーナ姉がやったんでしょ? そんなもん加工できるの、あの人くらいだもん」
「三十分でやったとか言うやっつけ仕事だぞ」
「あの人本当に天才だよね。お兄も天才のはずなんだけど、何故活躍できないのか」
「世の中が悪い」
俺が即答すると、ダリアは俺の腹筋をぼすぼす殴った。
すぐに拳が痛くなったらしく、手を擦りながら涙目で撤退していく妹。
「まあいいや。シェレラと二人でパーティ組めるんなら、これからどんどん仕事受けられるでしょ? 問題は、ドグラマガーに住処を負われたらしいグルルドーンのこと。ギルドが問題視するくらいだから、被害が出てるんだと思う。これはチャンスじゃない?」
「そうか、そうだな! ワンダラーランク2から大きくアップするチャンスか!」
「やったねダン! 二人で一気にワンダラーランク10を超えちゃおう!!」
わーっと、俺とシェレラ二人で盛り上がる。
「竜人とか言うのもぶっ飛ばせば、もっとランク上がるかもな!」
「ちょっと待ってお兄! 竜人? そんなのが出るの?」
「ギルドマスターが言ってたな。で、竜人ってなに」
ダリアはでっかいため息をついた。
そして、物を知らない俺とシェレラのために講義を開始する。
「あのね。モンスターはそもそも、古代の文明で作られた生きた武器だったそうなのよ。で、そのモンスターと一体になろうとする人たちがいたわけ。ほとんどみんな失敗して死んだけれど、ごく一部だけはモンスターと一体になれたそうなの。それが竜人。人とモンスター両方の姿をとれて、さらに下位のモンスターを操ることができたそうよ。ほとんど伝説上の存在だけど、まさか本当に現れるなんて……」
「つまり強いんだな。これはワンダラーランクを上げるチャンスなのではないか」
「チャンスだね! 私たちってラッキー!」
俺の肩の上に駆け上がって、興奮するシェレラ。
うわーっ、尻尾で顔をぺちぺちしないでくれー!
「実際、ランクを上げることは重要よ。そうすれば、お兄たちにだってグルルドーンとかの討伐仕事が回ってくるようになるわけだし。いい仕事は報酬だって高いよ。お金が手に入ったら、強い装備も買える。強いモンスターを倒したら、強い素材が手に入る。素材が手に入ったら、カリーナお姉に装備にしてもらえばいいしね!」
「なるほどな。……あれっ!? 俺って、エイラからギルドの話を聞けて、ダリアからはこうして説明をもらえて、カリーナには武器や防具を作ってもらえるとすると……すごく恵まれてるんじゃないか?」
「今更気付いたか、バカお兄」
「ダン、私は私はー!?」
シェレラは俺をぴょーんと飛び越えると、反転しながら背中にしがみついた。
「シェレラは、俺を外の世界に連れて行ってくれた! っていうか、ようやく外に出られたばかりだけどな!」
これで色々と整理できた。
俺は今まで、めちゃめちゃみんなにお世話されっぱなしだったんだなあ。
だが、シェレラの登場で、とうとうこの俺もみんなのサポートを得て活躍できるようになった。
「よっしゃ、やるぞー!!」
「やろーう!!」
俺とシェレラは雄叫びを上げた。
「うるせえぞダン! 彼女ができたからって昼間から盛ってるんじゃねえー!」
下から親父の声が聞こえたのだった。