表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/31

「状況を分析しよっか」

 ダリアは俺のベッドに腰掛けると、分厚い本を開いた。

 これは、都市国家コーフにおけるモンスター博物学の本なんだそうだ。


 妹は、俺と一緒にモンスターに襲われた所を、クロスボウ使いのワンダラーに助けられた。

 そこで、ワンダラー萌えに目覚めてしまい、今では若くして、コーフ最高学府の研究員をしている。


「それじゃ、お兄とシェレラの馴れ初めからよろしく!」


「待て! 馴れ初めとシェレラとどう関係が……あるな」


 そもそも、人狩りに襲われていた彼女を助けて、パーティを組んだのだった。

 だが、馴れ初めというにはまだまだ俺たちが出会ってから、時間は経っていない。


「むしろ、俺たちが初めて仕事に出た時から、色々おかしなことが起こっててな。パープルラプトーンが大量に発生したり、グルルドーンが出たりとか」


「グルルドーンがコーフまで!? ちょっとあり得ないなあ。この土地には、彼らの食事になる流紋岩が少ないんだよ? そんなところまでやって来るなんて、よっぽどの事があったのか……あ」


 ダリアも思い至ったようだ。

 最近起こったよっぽどの事と言うと、北方の獣人王国を滅ぼした、天壊魔獣ドグラマガーのこと。

 で、シェレラの銀色の体毛は、高貴な獣人族にしか現れない特徴だとすると……。


「獣人王国のお姫様……だったり?」


「当たり」


 シェレラがにんまり笑った。


「だから分かるでしょ? ドグラマガーと戦うには、力がいるの。ワンダラーの手も借りないとだし、戦いの中心になる最強の戦士もいないといけないの。ちなみに最強の戦士がダンね」


 俺の二の腕をぺちぺち叩くシェレラ。

 まあ、力こぶを作ると、そこだけでシェレラの腰回りくらいの太さにはなるな。


「そうね。お兄がハンマー持ったらコーフ最強だと思うわ。だけどこの人クロスボウしか使わないから」


「俺の誇りなんだぞ!!」


 ここはちゃんと主張しておく。


「でも、その金属板がついたクロスボウはいいと思うわね。お兄のファイトスタイルに合ってるんじゃない? それ、装甲獣ガキーンの皮でしょ」


「……そうなのか?」


「そーなの。どうせカリーナ姉がやったんでしょ? そんなもん加工できるの、あの人くらいだもん」


「三十分でやったとか言うやっつけ仕事だぞ」


「あの人本当に天才だよね。お兄も天才のはずなんだけど、何故活躍できないのか」


「世の中が悪い」


 俺が即答すると、ダリアは俺の腹筋をぼすぼす殴った。

 すぐに拳が痛くなったらしく、手を擦りながら涙目で撤退していく妹。


「まあいいや。シェレラと二人でパーティ組めるんなら、これからどんどん仕事受けられるでしょ? 問題は、ドグラマガーに住処を負われたらしいグルルドーンのこと。ギルドが問題視するくらいだから、被害が出てるんだと思う。これはチャンスじゃない?」


「そうか、そうだな! ワンダラーランク2から大きくアップするチャンスか!」


「やったねダン! 二人で一気にワンダラーランク10を超えちゃおう!!」


 わーっと、俺とシェレラ二人で盛り上がる。


「竜人とか言うのもぶっ飛ばせば、もっとランク上がるかもな!」


「ちょっと待ってお兄! 竜人? そんなのが出るの?」


「ギルドマスターが言ってたな。で、竜人ってなに」


 ダリアはでっかいため息をついた。

 そして、物を知らない俺とシェレラのために講義を開始する。


「あのね。モンスターはそもそも、古代の文明で作られた生きた武器だったそうなのよ。で、そのモンスターと一体になろうとする人たちがいたわけ。ほとんどみんな失敗して死んだけれど、ごく一部だけはモンスターと一体になれたそうなの。それが竜人。人とモンスター両方の姿をとれて、さらに下位のモンスターを操ることができたそうよ。ほとんど伝説上の存在だけど、まさか本当に現れるなんて……」


「つまり強いんだな。これはワンダラーランクを上げるチャンスなのではないか」


「チャンスだね! 私たちってラッキー!」


 俺の肩の上に駆け上がって、興奮するシェレラ。

 うわーっ、尻尾で顔をぺちぺちしないでくれー!


「実際、ランクを上げることは重要よ。そうすれば、お兄たちにだってグルルドーンとかの討伐仕事が回ってくるようになるわけだし。いい仕事は報酬だって高いよ。お金が手に入ったら、強い装備も買える。強いモンスターを倒したら、強い素材が手に入る。素材が手に入ったら、カリーナお姉に装備にしてもらえばいいしね!」


「なるほどな。……あれっ!? 俺って、エイラからギルドの話を聞けて、ダリアからはこうして説明をもらえて、カリーナには武器や防具を作ってもらえるとすると……すごく恵まれてるんじゃないか?」


「今更気付いたか、バカお兄」


「ダン、私は私はー!?」


 シェレラは俺をぴょーんと飛び越えると、反転しながら背中にしがみついた。

 

「シェレラは、俺を外の世界に連れて行ってくれた! っていうか、ようやく外に出られたばかりだけどな!」


 これで色々と整理できた。

 俺は今まで、めちゃめちゃみんなにお世話されっぱなしだったんだなあ。

 だが、シェレラの登場で、とうとうこの俺もみんなのサポートを得て活躍できるようになった。


「よっしゃ、やるぞー!!」


「やろーう!!」


 俺とシェレラは雄叫びを上げた。


「うるせえぞダン! 彼女ができたからって昼間から盛ってるんじゃねえー!」


 下から親父の声が聞こえたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ