「ダンの部屋に泊めて!」
「それで……実は泊まるところが無いので、ダンの部屋に泊めて! 昨日はギルドに泊めてもらったんだけど……お金も節約しないとだし!」
シェレラがいきなりそんな事を言ってきたので、俺はぶっ飛んだ。
「お、俺の部屋に!?」
「そうよ! ダンって体が大きいでしょ? なら、部屋も広そうじゃない! 私、絨毯の上でも寝られちゃう子だから大丈夫よ!」
一国のお姫様が何を言っているんだ。
「なんなら、カリーナに言って泊めてもらっても……」
「やーよ! カリーナの家、大きな炉が本体じゃない! 毛皮にも金属が溶ける臭いがついちゃう! っていうか、毛皮燃える!」
「それで獣人の鍛冶師って一人もいないのか……」
獣人は嗅覚が鋭いのと、体毛が長いため、鍛冶の仕事には向いていないんだろう。
かと言って、エイラの家は、割と両親が厳しかったはずだし……。
獣人ってだけでいい顔をしない人はいる。
「うちしかないかあ」
「やったあ!」
シェレラがぴょんぴょん跳ねた。
「だけどシェレラ、俺も男だぞ! 夜中に君の尻尾にむらむらして、襲ってしまわないとも限らない。それでもいいのか?」
「あら、だとしたら、ダンに責任を取ってもらうもの。私は王女のシェレラじゃなくて、今はもうただのシェレラなんだから」
「うっ、完璧な返し……!!」
俺は何も言い返せなくなってしまった。
「おう坊主、おかえ……り……? 母さん!! 母さーん!! ダンが! ダンが女の子を連れてきた!!」
親父は俺が女の子を連れてきたのを見て、腰を抜かした。
援軍であるおふくろを呼ぶ。
親父は俺に似て……というか俺が親父に似て、でかい。対して、おふくろは小さい。
「ええっ! ダンが女の子を!? 18になるまでクロスボウ使いになるとか言って、まともにワンダラーとしても仕事ができなかったダンに、女の子が!?」
俺の家は雑貨屋を営んでいる。
ギルドの外で薬草やら、飲み薬を買おうと思ったら、俺の家で買うことになるのだ。
ということで、さっき採った薬草は、方って置いても我が家に納品される。
今も、店先では仕事帰りのワンダラーが、消耗した雑貨の補充をすべく品物を選んでいる。
そんなところで、親が二人、大声で叫ぶのだ。
「うおー! しかもこりゃあ可愛い獣人の女の子じゃないか! 狐かい?」
「ええ! 私、銀狐のシェレラよ!」
「素敵な毛並みね! なるほど、この尻尾で息子はイチコロだったのね。良かったー。良かったわー。本当に芽が出ない子でねえ。あんたの体格なら、ハンマーや大剣がいいわよって言うのに、クロスボウにするって聞かなくて。それで万年ワンダラーランク1でしょう? もう、ワンダラー止めて雑貨屋の跡を継がせて、カリーナちゃんにお婿にもらってもらおうかと……」
「や、やめろ、おふくろーっ!!」
俺のプライベートが赤裸々にされてしまう!!
俺はおふくろを拾い上げて、そのまま店の奥へと駆け込んでいった。
すると、二階からドタドタと駆け下りてくる足音がするではないか。
「お兄が女の子連れてきたって!? 一大事じゃん!!」
おふくろ似の我が妹、ダリアである。
間の悪いことにシェレラも俺の後にくっついてきていて、ダリアと目が合ってしまった。
「よろしくね!」
「わほー!! 銀狐の獣人!! いや、待って! 金属光沢の毛皮を持つ獣人って確か彼らの上位種族で、しかも王族とかになってることが多いから希少だってこの間読んだ本で……!!」
「ダンにクロスボウを教えるために来たのよ! あと、泊めてもらうの!」
「お兄にクロスボウを!? 正気!? お兄はあのクロスボウのワンダラー様みたいには絶対なれないって、私口を酸っぱくして言ってるのに!」
「いけるいける!」
シェレラが無責任に言って、任せて! とばかりに胸を叩いた。
……今まで耳と尻尾に目が行っていて気付かなかったけど、彼女の胸元もそれなりのボリュームがあるんだなあ。
「ね? ダンったら色気づいてるだろ? こりゃ、あたしらでサポートするしかないよダリア!」
「そうだねえ。まあ、私はこのまま雑貨屋を継ぐんでもいいんだけど」
「やめてくれえ……」
家族の強烈さに、俺はすっかり参ってしまった。
だが、シェレラは明るく受け入れられたようだ。
この辺、うちの家族は人を見た目や境遇で区別しない。
「そんじゃ、ついてきて。お兄の部屋に案内するから。客間はないよ! ってことで一緒の部屋に泊まってね!」
ダリアがとんでもない事を言った。
妹は、一度自分の部屋に戻り、分厚い本を抱えて戻ってくる。
そして、俺の部屋の扉を開けた。
「どーぞどーぞ。汚い部屋だけど」
「おいー!」
「お邪魔しまあす! うわあ、ダンの匂いでいっぱい!」
真っ先に部屋に飛び込んだシェレラは、鼻をくんくんさせた。
部屋の床には、俺が穴が空くほど読み込んだクロスボウの教本に、伝説のワンダラーを語った英雄譚。
壁際には、子供の頃から使ってきた代々のクロスボウ……の残骸が飾られていた。
「うわあい!」
シェレラがベッドに飛び込んだ。
俺用の特別製ベッドなので、でっかいのだ。
シェレラなら三人横に並んで眠れるな。
「どこもここも、ダンの匂いがするよ? むふーっ」
「我が家に来てから、すっかりシェレラが狐みたいになってしまった……!」
「獣人らしくていいんじゃない? ……んじゃ、お兄、話してもらおうか! シェレラ、普通の獣人じゃないでしょ。で、お兄もワンダラーランクが上がったって言うじゃない。つまりこの娘とパーティ組んだんでしょ? 絶対……フツーじゃない事が起きてる。ワンダラー研究者のダリア様の目はごまかせないよ!」
確かに……。
昨日シェレラを助けて、パーティを組んで、それで今日の大立ち回り。
おまけに、竜人と火山竜グルルドーンが出てきて、何か大きな事が起ころうとしている気がする。
ここで一旦、話をまとめたほうがいいかもしれないな。