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「ねえ、ダン。私、ワクワクしてきちゃった。次はどうするの? どこに行こうか!」

 戦争めいた戦いが終わり、周囲は久々の静寂に包まれている。

 ああ、いや、異常に静かだと思ったら、俺の耳に土が詰まってた。


「……ン! ダンッ!!」


 頭を叩いて、耳に詰まった土を落としたら、シェレラの声が聞こえた。

 そして、いきなり全力でタックルしてくる。


「うおーっ! モンスターのタックル並の威力だ!」


 身体を起こし掛けた姿勢で、彼女の突進を受け止めた。


「ダン、やった、やったよー!! あいつをやっつけた! 本当に、ドグラマガーをやっつけちゃったよー!!」


「お、おう! やっつけたぞ! 実際、マジでやばいと思ったな! だが、俺のほうが強かったのだ」


 ぐっと力こぶを作ると、シェレラがそれにブラーンとぶら下がった。

 俺は彼女をくっつけたまま立ち上がった。

 そして、周囲を見回す。


 粉々になった、壊天魔獣の欠片があちこちに散らばっている。

 それでも結構な大きさだから、きっと後で素材として利用できるんじゃないだろうか。


「ねえ、ダン、あれ……! あれ見て!」


 ぶら下がっていたシェレラが、くるんと俺の腕で逆上がりして肩に飛び乗ってきた。

 そして、遠くを指差す。

 彼女が示す先にあるのは、瓦礫になったコーフの城壁だ。


「あれって……お、おおお!?」


 俺もまた、シェレラと同じ方向を見て目を剥いた。

 そこには、瓦礫を押しのけてどどーんと鎮座する、真っ黒なドームの姿があったからだ。

 そして、今ドームの中から、見覚えのある小柄な女性が這い出してきていた。


「ひいい……。シュバルガウスシェルターを作ってなかったら即死だったわ……」


「カリーナ!!」


 俺はダッシュした。

 周囲のシェルターから、ほうほうの体で這い出る兵士たちをぽいぽいっとかき分けてあちこちに放り投げる。


「うわー!」


「ひいー!」


 猛烈な勢いで迫ってくる俺を見て、煤で汚れて疲れた顔をしていたカリーナが、徐々にその表情を笑顔に変えていく。


「ダン……! すっかりシュバル装備がボロボロになってるけど、ダンが走ってきてるってことは……」


「勝ったぞっ!!」


 俺は大声で宣言した。

 俺の肩の上で、うんうん、とシェレラが何度もうなずいた。

 カリーナは起き上がると、物も言わずに抱きついてきた。


 普段は姉みたいな彼女だが、こうして見ると俺より随分小さいんだなあ。

 彼女の背中をポンポンっと叩くと、カリーナはより強くしがみついてきたので、そのままぶら下げておく事にした。


「カリーナの作った弓も、鎧もすごかったよー! 無かったら絶対死んでた……!」


「だな!」


「うう……! 私の作品で、二人が生き残ったのが本当に嬉しいよ……! 目にクマ作って体重減らして肌を荒れさせて頑張った甲斐があった……!」


 今回の戦いの殊勲賞は、間違いなくカリーナだ。

 シュバル装備が無ければ、この勝利はあり得なかっただろう。

 だから、間違いなく彼女が頑張った甲斐はあったのだ。





 ドグラマガーが倒されてしばらくすると、都市国家の反対側から、荷馬車の群れが近づいてきた。

 避難していた国民達だ。

 ギルドの非戦闘員な面々が、彼らを先導している。


 とても大きなキャラバンと言った見た目だが、その先頭で金髪の女性が手を振った。


「ダーンッ!」


「エイラ!」


 まだ遠く離れているから敵わないが、それでも彼女が目を潤ませているっぽい事が分かる。

 俺は目がいいのだ。

 きっとここに到着したら、エイラも俺にぶら下がるものの一人になることだろう。


 キャラバンの人々は、崩れた城壁の上に立つ俺を見て、誰もが顔をあげ、手を振る。

 俺の図体はでかいし、目印代わりに突き立てたシュバルガ・カノンはもっと目立つ。


 時刻は、ゆっくりと太陽が傾いていく頃合い。

 昼下がりだ。

 そう言えば腹が減ったな。


 キャラバンの中には、家族の姿も見えた。

 到着したら何か食わせてもらおう。

 普段なら何だって食えるが、今はただただ、美味い飯が食いたい……!


 妹のダリアは、何事か俺に向かって喚いている。

 今回の勝利の立役者の一人でもある彼女だが、きっとその興味は、既に倒されたドグラマガーに向いているに違いない。

 モンスター研究者というのは変わり者が多いらしいからな。


「っていうか、エイラの声、よく届いたねえ……。普段の見た目からは、あんな大きな声が出るなんて想像もできないんだけど」


「知らなかった? エイラはああ見えて、コーフのど自慢大会で二度の優勝経験を持ってるんだよ。拡声装置なしで会場の隅々まで声を届かせられるんだから」


「ああ。あの時は俺も度肝を抜かれた……」


「ただの受付嬢じゃなかったんだ……!!」


 まあ、大体俺の周りにいる女は普通じゃないな。


「だけど、その中でも一番凄いのはシェレラだからな?」


「へ? 私?」


 自覚がない、獣人王国のプリンセスであった。

 だが、危険な戦場の最前線で戦い続けるなんて、ベテランのワンダラーだって難しいだろう。

 あれだけの大型モンスターとの連戦だ。

 少しのミスが命取りになる。


 シェレラはそこを、生き残り続けた。

 それに、彼女の弓に助けられたことだって一度や二度じゃない。


「そうだね。ダンの相方が出来る女なんて、シェレラくらいのものじゃない?」


「違いないな! シェレラは最高だぜ!!」


 俺は彼女をひょいっとつまみ上げると、脇に手を差し入れて抱え上げた。

 彼女の銀の尻尾が、ふぁさふぁさっと揺れ動き、陽光を照り返して輝く。


「そ、そうかな!? えへ、えへへへ!」


「その発言だけは王女っぽくないよな」


「ダンとずっと一緒にいたから、染まっちゃったわね」


「ひどぅい!」


 一転して、腕をぐるぐる振り回して抗議するシェレラなのだった。






 その後は、忙しくて大変だった。

 俺とシェレラは、国とこの辺り一帯を救った英雄として祀り上げられることになったからだ。

 報奨金も出た。

 金額が大して多くなかったのは、国の復興により多くの金がかかるからだろう。


 各国から、ドグラマガーの戦場跡を見に来る人々が増えた。

 壊天魔獣の宿主となっていた、あの超巨大カタツムリは既に息絶えていて、岩山と化している。

 これは都市国家コーフにとって、新たな観光資源となるようだった。


 そしてその他にも……。


「お兄、このところ、世界中で厄災竜の目撃情報が相次いでるんだって。どれも竜人の出現と呼応してたりするみたいだから、何か起こってるのかもねえ」


「へえ! 厄災竜って、ドグラマガーの他にもいたのか!」


「ほえー」


 感心する俺とシェレラの顔を見回して、ダリアがため息を吐いた。


「いるに決まってるでしょー。ドグラマガーは、あくまでこの中部国家連合に伝わる厄災竜なの。四島国家連合とか、南部国家連合とかにも独自の厄災竜がいるというし……、何より、ここからすぐの中央国家連合は世界最大の平野だからね。狭い範囲に、たくさんの厄災竜が眠ってるらしいよ」


「なんだそれ! 興味あるな!」


「次の行き先はそこにしよっか、ダン!」


「だな!」


「……次?」


 おっと。

 これはまだ秘密なんだった。

 俺とシェレラは、都市国家コーフから旅立つ計画を立てていた。


 世界を巡り、様々な街を訪れ、そして見たこともないようなモンスターたちと戦う。

 今回の戦いで、ワンダラーランク20を得た俺とシェレラにとって、それは新しい夢だった。

 そして着々と、計画は進行している。


 カリーナとエイラの協力も得ているし、近々ダリアにも概要を話して、手を貸してもらわなければだ。


「ま、いいけど。でも、絶対私の知識は必要になると思うから、声かけてね!」


 ダリアもその辺りは察したらしい。俺たちに釘を刺すと、先に降りていった。

 ここは、再建が進むコーフの城壁。

 その一番高い見張り塔だ。


 山岳と森に囲まれた中部国家連合。

 この高さからなら、山間や森のなかにある、他の都市国家を望むことが出来る。


 そして、振り返ればそこに、広大な平野の姿。

 中央国家連合。

 世界の中枢となる、最も繁栄した巨大な都市国家の集まり。


「ねえ、ダン。私、ワクワクしてきちゃった。次はどうするの? どこに行こうか!」


 シェレラが見張り塔から身を乗り出しつつ、遠く望める平野を見つめる。


「そうだな! どこに行ったっていい。だけど、まず行くなら、たくさんの厄災竜が眠ってるって言う……」


 俺たちは、次なる夢を果たすための計画を練る。

 新しい一歩を踏み出すために。

 それは明日かもしれないし、もっと先かもしれないし……。


「だが計画とかめんどくさいな! よし、ダリアに話して夕方出かけよう!」


「賛成!!」


 こうして、いつも通り、行き当たりばったりに新たな冒険が始まったりもするのだ。




 終わり

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― 新着の感想 ―
[良い点] すごい面白かったです! ダンのハチャメチャな強さが最早爽快でした!
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