「つまり、力とクロスボウを使う俺の方が強いのだ!」
真の姿を現したドグラマガーは、何と言えばいいのか。
ぐるぐると螺旋を描いた体表模様の、手足も判然としない虫のようなモンスターだった。
でかさは、シュバルガウスよりも一回り大きい。
『しゅぎゅるるるるる』
そいつは名状しがたい声で鳴くと、宿主にしていたカタツムリのモンスターから這い出した。
紡錘上の頭には、八つに開く口吻が有り、その周りを囲むように赤い目玉がついていた。
「うえ、気持ちわる」
シェレラが嫌悪感をあらわに、舌を出す。
そうしながらも、容赦なく壊天魔獣に向けて矢を放ち続けているのはさすがだ。
これを、ドグラマガーはしゅるしゅると体をくねらせ、巧みに避けていく。
あの巨体でなんて動きだ。
赤と黒の体は細長く、その大部分を赤い尻尾が占めていた。
手足らしきものは見当たらない。
「なんていうか、寄生虫みたいなやつだな!」
俺はシュバルガ・カノンを向けて威嚇射撃をしようとした。
それを、シェレラに止められる。
「ダン、弾がもったいない!」
「あっ、そうですか」
しゅんとなって、モンスターがやって来るのを待つことになった。
いや、こっちから出迎えればいいのだ。
あいつはカリーナの仇である。
どうも、あの天才鍛冶師な幼馴染が死んだとは思えない俺がいるのだが、はらわたが煮えくり返っているのは確かだ。
のしのしと一直線に、ドグラマガーに向かっていく。
『しゅるるるるるるっ────きぃーっ』
魔獣は俺を認めると、カタツムリの半ばで停止した。
尻尾を縮め、身を低く構える。
俺の背筋にチリチリと来た。こいつは……。
「来るぞ! シェレラ、離れろ!」
「えっ!?」
「済まん、突き飛ばすぞ!」
俺は彼女を、片手で弾き飛ばした。
シェレラの体が、ノーバウンドで空中を飛んでいく。
それと同時に、モンスターは襲い掛かってきた。
全身をバネの様にたわめ、長く伸びた尻尾を使った反動で、すさまじい速度で飛び掛ってくる。
カタツムリの首の半ばからここまで、一呼吸ほどだろうか。
俺はこいつを、シュバルガ・カノンを握った腕で迎え撃つ。
「ふんぬっ!!」
『きぃ────ッ』
猛烈な衝撃が、俺に襲い掛かった。
今まで感じたことも無いような威力だ。
バキリ、とシュバルガ装備のどこかにひびが入ったのが分かる。
俺の体は奴の突撃で、周囲の地面を砕きながら、大地に埋め込まれた。
この突撃、でかかった時のドグラマガーよりも、何倍も重いぞ!
「こいつは流石に……なんともないとはいかないなっ!!」
みしみし音を立て、俺をなおも地面に押し込もうとする壊天魔獣。
しかも、あろうことか至近距離になった俺に対し、口を開こうとしているではないか。
そこから漏れ出る光。
都市国家を一撃で焼いた光線を、俺一人にゼロ距離でやろうってのか!
こいつはとんでもなく殺意が高いモンスターだ!
悪意しか感じないな。
「だが、お前、俺もゼロ距離なんだぜ!?」
俺は、空いた腕の拳を握り締める。
土の中に埋め込まれようが、シェレラが近くにいない今、この拳を縦横に振るっても巻き込む者はいない。
「おぉぉぉぉっらぁぁぁぁっ!!」
俺が拳を叩き込む動きで、周囲の地面が爆発したように巻き上がった。
漆黒の篭手が、今にも光線を放とうとしていた魔獣の横っ面に突き刺さる。
『しゅろろろろろッ!!』
放ちかけていた光線が、歪になった口からてんでデタラメな方向へ放たれた。
だが、奴も流石は厄災竜と呼ばれる存在だ。
殴られながらも、次の手を打ってくる。
長い尻尾が、俺に巻きついてきた。
これで、開いた腕と体の自由を奪われる。
「こなくそっ……! こいつの体、何で出来てやがるんだ!? ぬぬぬ、硬いっ!!」
「ダン! 援護するから!」
遠くからシェレラの声がした。
彼女は遠慮なしで、拡散型のシュバルガ素材の矢を放ってくる。
放物線を描いて、そいつは降り注ぎ、ドグラマガーと俺を攻撃した。
俺の鎧のあちこちが爆ぜ、砕ける。
同じ素材の武器と鎧なんだから当たり前だ。
少なからぬダメージもある。
だが……同じように、俺より何倍もでかいモンスターが受けたとしたらどうだ。
『しゅおるるるるるる!!』
魔獣が仰け反った。
その体には、ハリネズミの様に矢が突き刺さっている。
奴は俺を拘束していた尻尾を解き、周囲の地面を叩いて砕く。
それで生まれた岩を、すさまじい勢いでシェレラ目掛けてぶっ飛ばしていくではないか。
「うわわっ!!」
シェレラの悲鳴が聞えた。
そうする間に、ドグラマガーは体を高く持ち上げ、口を開く。
再び、あの光線が輝いた。
「シェレラ一人にぶっ放す気か! こいつ、理性ってもんがねえな!!」
まるで自動的に反応しているようだ。
俺はカノンと拳で地面をぶっ叩いた。
猛烈な土煙が巻き起こり、反動で俺が外に飛び出す。
視界を奪われたドグラマガーだが、奴は光線を放つことを止めようとしない。
手当たり次第に撃ち込むつもりなのだ。
「だがな! てめえが口をあけたってことは、俺もてめえの中に弾をぶち込めるってことなんだぜ!!」
手を伸ばす。
光線となるであろう、すさまじい熱量の光を湛えた口を、俺は鷲掴みにした。
すげえ熱い。
だが、最高のチャンスだ。
俺は、奴の口の端に片足を突っ込み、全身でこじ開けた。
『しゅごぉぉぉぉぉっ!?』
「もってけ!! 連発だ!!」
光線の中目掛けて、シュバルガ・カノンをぶち込む。
そして、トリガーを引きっぱなしだ。
弾の構成は、初弾が貫通弾、そして炸裂弾、炸裂弾、炸裂弾、炸裂弾、炸裂弾だ!
ドグラマガーの中で、猛烈な爆発が立て続けに起こり始めた。
俺が撃ち込むたびに、紡錘状の巨体が、体内の爆発で膨れ上がる。
六発全弾を叩き込んだ時点で、奴はまるで風船のようになっていた。
「これで……終わりだっ!!」
ポーチに突っ込んでいた未装填の弾を、俺はそのまま奴の腹の中にねじ込んだ。
そいつが、連続した爆発にさらされ、更なる爆発を巻き起こす。
爆発と、暴発する光線。
俺はそいつに巻き込まれ、吹き飛ばされた。
地面に叩きつけられてバウンドし、ごろごろ転がる。
「ふんっ!!」
だが、無理やり地面を掴んで勢いを止めた。
周囲の地面に亀裂が走る。
『きょるるるるるるるるるるっ!!』
ほぼ真円状にまで膨らんだ魔獣は、断末魔の叫びを上げていた。
奴の体のあちこちに、穴が開く。
そこから漏れ出すのは、都市国家を焼いた光線だ。
人と都市を焼く光線で、てめえが焼かれていやがる。
長く伸びた尻尾がのた打ち回り、大地を削り取る。
暴れるたびに、地面が振動する。
とんでもない馬鹿力だ。
だが、俺も力には自信があった。
「つまり、力とクロスボウを使う俺の方が強いのだ!」
やがて、ドグラマガーから漏れ出る光は正視できないほどになり……。
『きょぉ────────』
耳をつんざく叫びを残して、奴はてめえで放つ光線に呑まれて行ったのだった。




