「テコの原理ってやつだ!」
ドグラマガーが身じろぎした。
全身を束縛されながら、無理やり前進したのだ。
向かってくる俺を意識して、身体をぶつけてきた。
「ふんっ!!」
そいつを、俺は真っ向から受け止める。
もう、重量差とかそういう次元の問題ではない。
人間が山とぶつかり合うなんてこと、冗談でしかない。
どうして、人間が山と対抗できるなんて思える?
「出来るに決まってるだろうがぁっ!!」
俺は地面を激烈に踏み込みながら、満身の力を込めて超重量をカチ上げた。
強烈な炸裂音が、周囲に響き渡る。
「おいおい、冗談だろ……!?」
「や、山が……浮いた!?」
周囲でぶっ倒れているワンダラー達が、呻いた。
どうだ、びっくりしただろう。
ちょっと重かったが、あれだ。
「テコの原理ってやつだ!!」
壊天魔獣は、下から打ち上げられ、生まれて初めて感じるであろう衝撃に戸惑っている。
ばらばらと、奴の身体から剥がれた岩がこぼれ落ちてきた。
「お前ら、避けろ!! ここからは、俺がやる!!」
モンスターに引っかかった肩アーマーが、流石にひしゃげている。
だが、俺の肩は無事だ! なんともないぜ!
「支援するよダン! ふっ……!!」
拡散するシュバルガウス素材の矢が飛ぶ。
そいつは、ドグラマガーの装甲を易々と貫き、潜り込む。
そして、内部で炸裂した。
悶える巨獣。
おっと、奴が動いて、流石に俺の鎧もミシミシ言ってきた。
「ふぅんっ!!」
俺は満身の力を込めて、カチあげたそいつを真横へと流した。
山のような巨体が傾ぐ。
置き土産のつもりか、俺に触れた部分が破れ、そこから触手のようなものが飛び出してきた。
「次々に新しい芸が出てくるな! だが、俺は肩を使ってるから両手は空いてるんだぞ!!」
俺目掛けて突っ込んできた触手は、太さだけなら俺の背丈くらいある。
こいつを……俺は空いていた拳で殴り飛ばす。
触手が地面に叩きつけられ、半ばまで千切れる。
ドグラマガーは俺の脇に胴をつけ、大きく首を曲げながら俺を睨みつける。
その腹が破れ、次々と触手が降り注ぎ始めた。
「ぐわあ!?」
「ぎゃあ!」
あちこちで逃げ遅れたワンダラー達の悲鳴が聞こえる。
「おいおい!! 逃げろお前ら! さっさと逃げろ! ええい、触手邪魔だ!!」
降りかかる触手を無理しながら、俺はぶら下げていたアーバレストを構える。
カノンにまで触手が巻き付いてくるが、まあ、触手の一本二本は無視していいよね。
「おらあっ!! 拡散弾発射!!」
特殊弾をぶち込み、火薬をザラザラと注ぎ込む。
トリガーを引くと、一瞬アーバレストが膨れ上がった。
響き渡る轟音。俺の肌がビリビリと震える。
こいつを至近距離でまともに喰らった触手が、あちこちを爆ぜさせながら千切れ飛ぶ。
放たれるのは、真っ黒なバカでかい弾丸だ。
そいつが空中に飛び出したと同時、バラバラになり、四方八方へと飛び散る。そして当たるを幸いと、触手の雨を片っ端から破壊し始めた。
「今だ! 逃げろ逃げろ!」
「ダン! 次のアーバレストだ! 受け取れー!!」
逃げろって言ってるのに、装填済みのアーバレストを台車に乗せて走ってくるワンダラーたち。
「おいおい! だがありがとうよ!」
運ばれてきたアーバレストを受け取り、俺はこいつをドグラマガーに叩きつけた。
「おらァ!!」
岩肌を砕きながら、そいつの身体に叩きつける。
そしてトリガーを引くのだ。
アーバレストの砲身が爆発しながら、内蔵した炸裂弾を解き放つ。
弾丸が、厄災竜の肉を削ぎ落とし、奴に絶叫をあげさせる。
「いけるよ、ダン!」
巧みに俺を盾に使いながら、時折飛び出しては、俺が開けたドグラマガーの装甲の穴に、確実に射撃を決めるシェレラである。
いい感じの押せ押せムード。
圧倒的じゃないか、俺たちは!
そんな雰囲気は、どうやらコーフ側でも感じ取っていたらしい。
勢いづき、城壁に設置されたアーバレストが一斉に装填されていく。
「えーっ! 私たちがいるのに砲撃してくる!!」
弾や矢が、姿勢を崩したドグラマガーめがけて降り注ぐ。
俺とシェレラがいるのにお構いなしだ。
俺は慌てて、シェレラを守りに走った。
そろそろシュバルガ・カノンの装填は終わってないか?
まだか?
背中で激しい音を立てて、矢や弾丸が弾ける。
これが全部味方側の攻撃ってのが何だな。
「もう、調子がよくなったらこうなんだから! みんなダンのお陰じゃない! ダンが一人で情勢をひっくり返したのに!!」
「いやあ、どちらにせよアレだ。カノンの装填が終わらなきゃなんともならねえ! さっきまでの攻撃、効いてるようだけどあいつはびっくりしてるだけだぞ」
「えっ!?」
「手応えが無いんだよな……。まるで、バカでかいガワを殴ってるみたいでな……!」
「ガワって……」
シェレラが、青ざめた。
俺は、ドグラマガーと戦いながら違和感を感じ始めていたのだ。
確かに奴はでかく、そしてパワフルだ。
しかし、これはでかいだけだ。
触手はまあ強烈な攻撃だし、降ってくるボウガンの雨もシュバルガ装備クラスでなきゃ厳しいだろう。
「あれだけでかきゃ、どんなモンスターだってあんなもんだろう」
「そう思うのはダンだけじゃない……?」
「見てろ」
降り注ぐ、矢と弾の雨。
だが、その中でドグラマガーはゆっくりと瞬きをし、身をよじった。
野郎、休んでやがる。
壊天魔獣目掛けて、次々に射出式の罠が放たれる。
電撃を放つしびれ罠、爆薬で地面を掘る落とし穴、束縛型のワイヤー罠。
散々足止めされても、イマイチ効きが悪かったように見えたのは、こういう事か。
巨体は、岩のような肌をボロボロと崩れさせ、一見して効いているように見える。
だが、あいつの動きを見てみろ。
まるで……自分の体がどうなるかを全く気にしていないみたいじゃないか。
厄災竜ドグラマガーは、弾雨の中、大きく目を見開いた。
その全身がひび割れていく。
何か出てくるぞ……!
恐らくそいつが、あのカタツムリ野郎が厄災竜だと呼ばれる理由になったような存在だ。
こいつを壊天魔獣と異名を付けた大昔の奴らは、きっとそれを知っていたのだろう。
そして。
「ダン!」
聞こえたのは、カリーナの声だ。
砦の上から、ラッパの口みたいな奇妙な道具を使って、声を大きくしている。
「ようやくできたぞ! シュバルガ・カノンのカートリッジだ! 一発目を込めさえすれば、これで連続して射撃ができる! 今送るから……!」
ドグラマガーが、ゆっくりと体を起こしていく。
剥がれ落ちる肌。
下から現れる何か。
それは、壊天魔獣……いや、カタツムリの目玉を突き破りながら出現した。
漆黒と赤の螺旋をその身に宿した、一匹の竜である。
奴は口と見える先端部を8つに開き、そこから……光り輝く弾丸を放った。
俺には、その動きがスローモーションに見えた。
頭上を飛翔する光弾。
一直線にコーフの城壁へと炸裂し。
爆発する。
「カリーナ!?」
一瞬遅れて、凄まじい爆音が響き渡った。
爆発は強烈な光を呼び、空が真っ白に染まって見える。
壊天魔獣。
天を壊す魔獣だ。
現れたこいつこそが、ドグラマガー。
コーフから放たれていた弾の雨は止み、戦場は静寂を帯び始めている。
頭上から、何かが落下してくる音がした。
差し出した俺の手に、シェレラの腰ほどもある太さの筒が収まる。
「ダン! コーフはダメだ、やられちまった! 仇をとってくれ、ダン!!」
装填が完了したシュバルガ・カノンがやってくる。
俺はこいつを無言で受け取る。
目線を離す気は無い。
「ドグラマガー……! ここで、叩き潰してやる!!」
真の姿を表した壊天魔獣と、炎上する都市国家コーフ。
戦いは最終局面だ。




