「ダン、こいつもゼロ距離でやるつもり?」
次々に、アーバレストから弾が放たれる。
弾と弾は太い鎖で繋がれていて、これがドグラマガーの動きを邪魔するのだ。
魔獣は怒りの感情にか、目玉を真っ赤に染めながら、一直線に都市国家コーフへと向かってくる。
発動する落とし穴や、爆発する罠。
ドグラマガーが動きを止める度に、待機していたワンダラーや兵士たちが飛び道具で攻撃を仕掛ける。
あるいは、勇敢な者は奴の背中に飛び乗って行き、そこから攻撃を仕掛ける。
壊天魔獣の反撃は、背負った街から降り注ぐクロスボウの斉射。
「さて、どうしたもんかね」
俺はシュバルガ・カノンを構えて呟いた。
既に弾丸は装填済みだ。
狙いを定めなくても、視界いっぱいにカタツムリに似たこの巨大なモンスターが広がっている。
「ダンはもっと引き寄せてからね! それ、一発一発がすっごく貴重なんでしょ?」
「ああ。シュバルガウスの牙で出来てるとかな。そのかわり、威力が凄まじいらしいけど」
シェレラは次々に、漆黒の弓から貫通型の矢を放っている。
それが次々にドグラマガーの身体に吸い込まれていき、そこここで小さな爆発が起こる。
矢に繋がれた爆薬のためだ。
「私がこうして引き寄せてるから、ギリッギリになったらお願い! あー、もう。大きすぎて効いてる気がしない! 悔しいー!!」
「いや、効いてる効いてる! だってあいつ、俺たちの事を見ながら一直線に向かってくるぜ」
「それは私たちが、コーフの入り口の真ん前に立ってるからだよ!」
シェレラはそう言うものの、奴は俺たちを見てると思うなあ。
少なくとも、シュバルガウスを倒した時、俺が感じたあの視線。
同じものが自分に注がれていると分かる。
「よしっ! 待ってるだけでも何だな!」
俺は砦となった都市国家入り口に走り、設置された巨岩に手をかけた。
これは本来なら、複数人で押し出し、壊天魔獣の進行を邪魔するためのものだ。
「ふんっ……! ぬうおおお!」
これを、正面から……持ち上げていく!
岩を転がすために待機してた兵士たちから、驚きの声が上がった。
「ちょっと、借りる、ぜっ……!!」
頭上まで持ち上げきった岩を、満身の力を込めて投擲する。
普段なら当たらないだろうが、相手はあのでかいなんて次元を超えたモンスターだ。
放物線を描いて飛んだ巨岩が、ドグラマガーの背負った街の一角に炸裂。そいつを粉々に砕いた。
叫び声を上げながら、魔獣が僅かに傾ぐ。
「よっしゃ、効いてる効いてる!」
「うん、あれは効かなきゃ嘘だね! 城壁だって穴を開けかねないじゃん! ……あっ、なんかめちゃくちゃこっち見てる! 背負ってる街がキラって!」
「やべえ!」
俺は慌てて、シェレラを背後に隠した。
兜の両脇に展開している面頬を閉じて、顔をガード。
これでよし。
俺の準備が終わるが早いか、モンスターは背負った街から、無数の弾丸を降らせてきた。
これはもう、弾の雨だ。
避ける場所、逃げる場所なんてありゃしない。
シュバルガウスの鎧が、ガンガンギンギンと凄まじい音をたてる。
強烈な衝撃、弾丸の圧、というものを感じた。
俺の体が、降り注ぐ攻撃に晒されて少しずつ後ろへと追いやられていく。
これだけの攻撃を食らってしまったら、並のワンダラーならひとたまりも無いだろう。
あの巨体に、これほどの広い範囲を制圧する攻撃を持つとは……!
ドグラマガーはとんでもないモンスターだな!
「だが、流石シュバルガウスの鎧だ! なんともないぜ!!」
「もう、ダンの頑丈さって異常だよね!?」
「これは鎧が凄いんだ! 流石の俺も生身だったら耐えられなかったぜ!」
「普通、この攻撃の中で私相手にそんな冗談言う余裕ないから! ……あっ」
「止んだな」
俺は振り向く。
弾丸の雨の中、ドグラマガーは着実に距離を詰めていたようだった。
既に、目と鼻の先にいる。
巨体は、纏わり付いた岩を振り落としながら、甲高い叫び声を上げた。
俺は、後ろに見えるように腕を振り上げる。
腕と共に、シュバルガ・カノンが持ち上げられるから、遠目にも視認できるはずだ。
これを合図に、いよいよ都市国家の反撃が始まった。
アーバレストが次々と放たれる。
地面にまだらに配置された落とし穴が、ドグラマガーの進行を妨げ、横合いから次々に、鎖のついた大型の矢が打ち込まれた。
壊天魔獣が絶叫する。
「じゃあ、行ってくる」
俺は歩みだす。
「ダン、こいつもゼロ距離でやるつもり?」
「当たり前だろ。万が一ってことがある。絶対に当たる距離まで近づくぜ!」
地面に突き立った、ドグラマガーの弾丸を踏み越えながら、俺は駆け始めた。
シュバルガ・カノンを構える。
山のような大きさの魔獣は、すぐ手の届く所。
コーフからの攻撃で足止めされ、身じろぎをしたその時だ。
俺のカノンが、奴の腹に叩きつけられた。
砲口そのものがハンマーのようなデカさと重さ、そして強度を持つ武器だ。
岩のような肌をぶち砕きながら、このクロスボウはドグラマガーの肉へと潜り込む。
「まずはこいつを……喰らいな!!」
弾種は炸裂弾。
それをゼロ距離で射出!
次の瞬間、俺の目の前で大爆発が起こった。
まるで、モンスター爆殺用の大型爆弾を、まとめて十発も炸裂させたような大爆発だ。
ドグラマガーの腹が、直径10メートル近く抉れ、削り取られる。
モンスターは叫び、のたうち回る。
こいつを捕縛していたチェーンが千切り取られ、頭上からはドロドロとした粘液がこぼれ落ちてきた。
この野郎、痛みのあまり吐きやがった!
俺はこいつを躱すため、カノンを力任せにぶっこ抜きながら、思いっきり跳び下がった。
カノンの砲口から、黒い煙が上がっている。
取っ手まで伝わってくるような熱さだ。こりゃあ、とんでもない武器だな!
だが、とても装填をしている余裕が無い。
「ダン! こっちだ!」
横合いから声がした。
そこには、メガ・アーバレストを担当している兵士たちがいた。
「そいつは俺たちが装填してやる! その間、こいつを使って暴れてくれ! こんな事もあろうかと、全てのメガ・アーバレストは、お前専用のグリップが取り付けられてる! 重心なんか無視した、こいつを鈍器として扱える奴専用のグリップがな!」
「おお、そいつはありがたい!」
俺は彼らに向かって、カノンを放り投げた。
兵士たちは真っ青になって、カノンの落下地点から逃げ去る。
「ば、馬鹿野郎! 投げるなよ! 下敷きになったら死ぬだろうが!」
「おお、済まん! じゃあ、装填は頼んだぞ!」
俺は新たな武器、メガ・アーバレストを持ち上げる。
うむ、少々横に広く張り出しているが、いい感じだ。
「徹底的に行くぜ、ドグラマガー!」
そう吠えると、俺は再び、モンスターの懐へと飛び込んで行った。




