「必勝を期して、勝つ!」
日が昇りきると同時に、戦争は始まった。
超大型モンスター、壊天魔獣ドグラマガーが急激に進行速度を上げたのだ。
恐らく、全長は一km超、頭の位置までだけでも、百メートルはある。近いところから見ると、本当に動く山としか思えない。
足らしきものは見えず、どうやらカタツムリやナメクジのように、腹の底全体を波打たせながら突き進む。
真っ赤な岩に覆われた隙間から、黒く輝く目玉が四つ飛び出している。
そして、口に当たる部分は蠢き、声にならぬ叫び声を上げ続けているようだ。
「あいつはね、人間が作った建物を食べるの。ダリアが言うには、岩山や石を食べて生きていたモンスターだった可能性があるんだって。でも、いつしか人間が作った建物の味を覚えた」
「グルメなモンスターなんだな」
「迷惑なグルメだけどねっ。あー、私も早く出て行きたい! もう、そこまであいつが来てるのに!!」
落ちつかなげに、シェレラが頭をばりばり掻き毟る。
彼女の兜は、前髪を留める鉢金みたいな作りをしているから、耳や髪の毛は外に出ていてこうしてわしゃわしゃできるのだ。
おっ、尻尾が逆立ってる。イライラしてるな。
「まあ待てよシェレラ。でかいから近く見えるけど、まだ結構離れてるんだろ? まずは罠を使って向こうのワンダラーたちが仕掛けるぜ」
「おうよ!!」
俺たちに掛けられる声。
馬のいななきがした。
六本足の馬が、それぞれ一台ずつのアーバレストを引っ張っていくところだった。
本来なら固定するための大型弩弓だが、下に台車と車輪、地面に固定するための杭がついている。
それにあれは……鎖か?
「足止めから、こいつで攻撃だ! まあ任せておけって。お前らの出番は無いからな!」
ワンダラーが俺たちにそう告げる。
「頼もしいな! 頼むぜ!」
「私の出番取っておいてよ!」
彼らは俺とシェレラに手を振ると、真っ直ぐにドグラマガーめがけて突っ込んでいく。
突然、凄まじい金切り声が上がった。
ドグラマガーの巨体が、わずかに傾ぐ。
「あれが罠か! 落とし穴だったか」
並の大型モンスターなら、数十匹まとめて落ちるような落とし穴が作られていたのだ。
上に木製の橋を何重にもかけて偽装するという、手の込みよう。
しかも、あの魔獣が人間の建造物を食べるなら、橋はきっとご馳走に見えたのだろう。
ドグラマガーの体の一部が、見事に落とし穴にはまってしまい、動けないようだ。
そこに、アーバレストが殺到した。
遠く離れたここからでも見えるほど、太い矢が山のようなモンスターに向けて放たれる。
都市国家コーフありったけの移動型アーバレストが、ドグラマガーを打ちのめした。
「矢尻はシュバルガウスの鱗だからな! 山だって砕け散るぜ! どうだ魔獣め!」
俺は思わずガッツポーズ。
砕かれた山の破片が、辺り一帯に飛び散っていく。
「ダメだよ、あれじゃ。ドグラマガーが背負ってる、山を砕いただけ! 何か出てくる!」
赤い山が崩れ、剥がれていく。
その下から、全く違う何かが姿を表し始めていた。
「ありゃあ……街か!? あいつ、山の下に街を隠してやがったのか!」
「食べた街が、あいつの背中に生えてきてるのかも! みんな、気をつけて!!」
シェレラの叫びは、遠すぎて届かないかもしれない。
彼女が何を感じ取ったのか、俺にもすぐ分かった。
ドグラマガーが背負う街に、幾つもの灯がともる。
そこから放たれるのは……。
クロスボウの弾だった……!
魔獣の周囲に、弾丸の雨が降り注ぐ。
「うそっ……! あいつ、あんな武器を持ってたっての……!? 私たちの国じゃ、あそこまで引き出すことができなかった……! ううー!! 今すぐあそこまで行って戦いたい!!」
「俺だって同じだ。だけどな……戦場はこっちなんだ。ここに、めっちゃくちゃ罠を仕掛けて、アーバレスト仕掛けて、ここでなら勝てる!」
「……意外。ダンってひたすら突っ走るのかと思ってた……」
「我慢には慣れてるからな……! つうか、俺らの戦いは失敗が許されないだろ。必勝を期して勝つ……!!」
「うぐぐ……私も我慢する……!!」
じっと待機の俺たちである。
ワンダラーは恐らく、一瞬で壊滅したことだろう。
誰も、こんな攻撃が来るなんて予想してない。
だけど、見たぞ……!
あれなら、俺の鎧で多分防げる!
地面が鳴動を始める。
落とし穴周囲の地形を削り取り、破壊しながら、ドグラマガーが這い出そうとしているのである。
街を背負った巨大なモンスターが、四つの目玉をカッと見開く。
真っ黒に見えてたそいつは、まぶたの色だったらしい。
下から出て来た目玉の色は赤。
そして、ドグラマガーが甲高い叫び声を上げた。
空気が震える。
巨体が落とし穴を過ぎ、歩みを進めだす。
「出番が来たぜ」
「うん。みんなの仇を取らないとね」
足止めの時間は、大体十分くらいか。
だが、それで壊天魔獣の装甲を一枚剥ぎ取り、奴の奥の手を引き出した。
「よっしゃ、行くぜ!」
俺はシュバルガ・カノンを持ち上げると、そいつを肩に担いだ。
俺たちの背後で、城塞都市と化したコーフが変形を始める。
石壁が展開し、縦に何重にも突き出す大型アーバレスト。でか過ぎて、運搬もできなかった奴だ。
俺なら運べるのになあ……。
さらに、俺たちの両脇で投石機がスタンバイする。
迫る壊天魔獣。
迎え撃つ、都市国家コーフの最終防衛線、俺たち。
厄災竜との決戦の始まりである。




