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「動き出したぞ!」

 迎撃の準備にかけられた時間は、およそ三日間だった。

 山のように見えるそいつ……ドグラマガーは、着実にその速度を増しながら都市国家コーフに迫る。


 朝目覚めると、日の光が翳っていた。

 いや、既に都市間近まで迫ったあいつが、太陽を半ばまで遮っているのだ。

 既に街に残った人間は、兵士とワンダラーだけ。


 戦える人間総出で、あの厄災竜を倒そうというのだ。

 ──そう。

 食い止めよう、ではない。倒そう、だ。


「近づいてくると、尋常でなくでかいな。モンスターっつうか、本当に山そのものが動いてるみたいだ」


「ダリアが言ってたんだけどね、休眠中のドグラマガーに近づいて調査した人が言うには、体の表面は本当に山そのものなんだってさ。長い間眠っているうちに積もった土砂が、ドグラマガーの体から出る体液で固まって岩石になるんだって。だから、まともな攻撃はあれを貫けないとか」


 シェレラが俺の横に来ていた。

 俺たちは、城壁の上に寝袋を並べて泊り込んでいる。


「そのために、これ! 弩弓に特殊鋼の鏃をつけて、爆薬を入れてふっ飛ばす! ダン以外のみんなも戦える武器なんだよね」


 なんとか完成した弩弓、メガ・アーバレストに寄りかかるシェレラ。

 上機嫌らしく、尻尾がぴこぴこしていた。

 いや、そろそろ二ヶ月近くなる付き合いで、俺は彼女の細かい所作を見逃さなくなっているぞ。


「緊張してるだろ。足が震えてる」


「あー、バレた? うん、認めたくないけど、やっぱり緊張するよね。だってあれ、前に私たち獣人王国が国を挙げて戦って、手も足も出なかった奴だもん。多分、あっちにダンとカリーナがいたら結果が違ってたのかな?」


「分からんな。だが、今は俺もいるし、カリーナが設計したメガ・アーバレストもある。ついでに俺用のデカブツもな。都市にはモンスター研究者たちがいるし、最新のデータはダリアが教えてくれる」


「うん。今回は絶対に勝とうね」


「もちろんだ!」


 俺が親指を立てて見せると、シェレラは肩の力が取れたようだ。

 笑いながら、サムズアップを返してきた。


「私だって戦えるんだから。シュバルガウスの素材で出来たこの弓なら、場所さえ選べばドグラマガーにだって突き刺さる! ダンだけにいい格好はさせないよ!」


「期待してるぜ! そら、朝飯がやって来たぞ」


 城壁の下から、炊き出しの煙が上がっていた。

 城壁に詰めた人々のための食事が、手押し車に載せて運ばれてくる。

 こいつが、戦い前の最後の飯になる。


 俺は不思議と、そう確信していた。






「動き出したぞ!」


「速い!! 明らかに昨日よりも速度が上がってる!」


 見張り塔から叫び声が降って来る。

 警戒を知らせる鐘が打ち鳴らされ、都市国家全体に緊張が走った。

 いよいよ、戦いが始まるのだ。


「むしろこの規模は……戦争だな」


 俺は呟いた。


 ずらりと城壁に並んだメガ・アーバレスト。

 さらに、この数日の突貫工事で拡張された壁は、向かってくるドグラマガーを迎え入れるように、外に向かって広く展開している。

 土と岩を固めて積み上げただけのものだが、そこにもアーバレストは設置されていた。


 さらに、コーフの鍛冶屋やモンスター学者たちが、総力を結集して作り上げた対厄災竜用の罠。

 落とし穴ばかりではない、それらがそこここに張り巡らされている。


「ダン、私たちも持ち場に行こう!」


「ああ!」


 シェレラは軽快に壁の上を走り、拡張された防壁へと飛び移って行った。

 俺は壁と壁の間に渡された橋を、どしどしと走る。


 俺とシェレラの体を包むのは、シュバルガウスの素材を用いた、いわば竜人装備。

 漆黒の鎧がなんともカッコいい。


「おう、ようやく来たか英雄さんよ!」


 最前線にあたる防壁で、ワンダラー達が出迎えてくれる。


「やっこさん、明らかにコーフを目指してるぜ。親の仇を狙うみたいな勢いで突っ込んできやがる!」


「頼むぜ、ダン。こちとら、こんなピーキーなクロスボウを守って死ぬのはごめんだからな!」


 そこに置かれていたのは、俺専用のハンディクロスボウだ。

 というか、一見するとメガ・アーバレストよりも一回りでかい。

 そして大型爆弾三発分の火力を使って、一発の弾を吐き出す力を持っている。


 ぶっ放すのは、全体がシュバルガウス素材で作られた特殊弾。

 だが、異様に重いらしく、大型爆弾を使っても射程はほんの数メートルだとか。


「明らかに欠陥装備だ。どうやっても使いようがねえ。……お前以外はな」


 ベテランワンダラーが、俺の背中を叩いた。


「まあなあ……。これの射程まで近づけば、俺でも流石に当たるなあ……」


 複雑な気持ちで、俺はそいつを見つめる。

 シュバルガ・カノンと名づけられたそいつは、物も言わず、刺々しい威容を陽光に照り輝かせていた。

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