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「これはダンの正当な評価!」

 都市国家コーフが、猛スピードで改修されていく。

 城壁は裏側から補強され、上には大型の弩弓を据え付ける。

 城外には大型の落とし穴が幾つも作られ、やがて来るであろう、大型モンスターの動きを止める役割を期待されている。


「なんだって、弩弓の土台にこんな太い鎖をつけるんだ?」


「さあなあ。例の天才鍛冶師殿の指示だとよ」


「天才の考えることは分からねえなあ……。しっかり土台を固定してるってのに、さらに鎖だなんて……」


 カリーナが何か企んでいるらしい。

 俺は弩弓の工事を見回りながら、ふとしたことに気付く。


 これ、俺がちょうど取り回ししやすい位置に取っ手がついてるじゃないか。

 なるほど。

 いざとなれば、城壁に設置された弩弓が俺のクロスボウになるってわけか!


「なーるほど、よくできてるなあ」


「何がよくできてるの?」


 手近な弩弓の上に登っていたシェレラが降りてくる。

 どうやら、ここからでもはっきり視認できるようになったドグラマガーを見ていたらしい。


 壊天魔獣はゆっくりと、こちらに向かって突き進んでくる。


「あれは本調子じゃないわねえ。いよいよ本気になったら、あの倍くらいの早さになるの」


「そうかあ……。それを考えると、あと何日も余裕はなさそうだよな。……ていうか、ドグラマガーは何を目的にしてこっちに来るんだろうな」


 シェレラは腕組みして難しい顔をした。

 ちょっと黙って、何事か考え込んでいる様子だ。


「あのね」


 ようやく口を開いた。


「あいつは、国を喰うの」


「国を?」


「そう。人が集まっている所にどんどんやって来て、その国を滅ぼしては次に行く。一度現れたら、また百年くらい動かなくなるんでしょ?」


「そうダリアが言ってたなあ。そうか、あいつは何を喰うというよりは、人が集まる場所を壊すことが存在意義のモンスターなんだな。まさに災厄だな」


 ドグラマガーの伝承はあちこちに残ってるらしい。

 それだけ昔から、都市国家を滅ぼして回っていた厄災級モンスターなのだ。

 だが、それほど昔から存在するのに、誰もあいつを退治しようとしなかったのか……?


「多分ね、倒せなかったのよ。決定的な武器がないもの。もしかしたら、世界のどこかにはあのモンスターを倒せるような神の祝福を持った人がいるのかもしれない。だけど、これまでずっと、ドグラマガーはそんな人に遭遇しなかった。……あくまで、今まではだけど」


 シェレラの狐耳が、ピーンっと立った。

 彼女は得意げな笑みを浮かべつつ、俺の胸をつんつん突く。


「ダンなら勝てる。絶対!」


「おう!」


 俺もドーンと胸を叩いてみせた。



 シェレラと二人で、コーフ一帯を見回っていく。

 落とし穴は露骨に落とし穴と分かる作りで、しかも人が何百人乗っても底が抜けない作りをしていた。

 土の上に設置された、鉄の橋みたいな感じだろうか。


 あれ、ドグラマガーが乗っかったらへし折れて、落下する作りなんだろうな。

 落下すると言っても、前足が穴に突っ込んで動きが鈍る程度だろうが。


「すげえ金と手間が掛かった時間稼ぎだなあ……」


「お前から見れば、これも時間稼ぎにしか見えないか」


 気付くとギルドマスターがいる。

 彼の腰にぶら下がっている剣がいつもと違うような。


「これか? 私の現役時代に使っていた武器だ。これもまた、私が狩った厄災竜の素材を使って作られている。だが……これではあの厄災竜には少々相性が悪かろう」


「まあ、でかいからな、あれ」


「決めてはお前になることだろう。今、弩弓に設置する矢を作成している。これはドグラマガーの攻撃用として作られてはいるが……実際の所、お前専用の弾になることだろう」


「何もかも、俺が中心になるように作られてるのか?」


「そう言う事だ。他のモンスターならまだしも、あれが相手となれば、まともに戦えるものはほぼいない。お前がこの時代、今になってワンダラーとして独り立ちしたことは、めぐり合わせだったのかも知れんな」


「そんなもんかねえ」


「ほらあ」


 また、シェレラが得意げな顔になって俺を突いた。

 最初は彼女が俺を持ち上げまくってる気がしていたのだが、段々周囲の評価が彼女の考えと一致し始めている。

 妙な気分だなあ。


 何もかも上手く行かなかった時期が一転して、何もかもどんどん上手くいくようになっている。


「ダンはね、平和だときっとあんまりパッとしない人なのよ。だけど、こういう緊急事態になればなるほど、力を発揮する。だから、これはダンの正当な評価!」


「そうなのか……! っていうか、俺、世の中が物騒なことにならないと力を活かせないって訳か……? なんか迷惑なやつだな、俺って……!」


「そんなこと無いよ! ダンがいなくちゃ、あいつは……ドグラマガーは倒せないんだから。だから、きっと神様がこの時のことを考えて、ダンに今の力をくれたの」


「そうか……!」


 なんとなくそんな気になってきたぞ。


「ほらほら、ダン! こっちは城壁まるごとに杭を取り付けて、爆弾千発を使って打ち出すんだって! こっちは地の底深く打ち込んだ土台から伸びたチェーンを、専用の弩弓で撃ち出してドグラマガーを絡め取るって」


「ほえー……! よく考えつくなあ……!」


 都市国家の人間が、総出で町を改造していく。

 そこは既に、ドグラマガーとの戦いの舞台になりつつあった。

 都市国家の人々は避難を開始していて、シンシュの都市国家へ向かっているらしい。


 シンシュとしても、次は自分達が狙われるかも知れないということで、こちらに職人を送り込んで支援してくれている。


「どれくらいで到着するんだろうな」


「多分、あと二日くらい……? そろそろ加速する。獣人王国を食いつぶしたときも、あいつはそうだったから……!」


 シェレラは燃える目線を、少しずつ近づく厄災の竜へ向ける。

 赤い、動く山。

 ドグラマガーとの戦いはもうすぐだ。

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