「もちろん……ダンが鍵だからね……!」
コーフはちょっとしたお祭り騒ぎだった。
俺たちが竜人をぶっ倒したからだが、ここ最近の懸事が払拭され、街の人はみんな晴れやかな表情をしていた。
「やー、呆れたよー。ダン、あの高さから落ちてよく生きてたねえ」
「シュバルガウスがクッションになったからな!」
「明らかにあいつ硬そうなのにねえ」
大歓声が出迎えられる中、俺とシェレラでそんな話をしているわけだ。
どうやら、俺たちの戦いを遠くから見ていた者がいて、一足早くコーフに報告したらしい。
「やったな、ダン!」
人混みを掻き分けて、小柄な影が飛び出してきた。
前髪で片目が隠れた、ミステリアスな美人……つまり、俺たちの装備を作ったカリーナだ。
「やっぱり私が作った装備は最高だな! 自分でもそのクロスボウと鎧はやり過ぎだろうと思ったけれど、ダンだから大丈夫だった! ダン最高!」
あっ、カリーナが飛びついてきたぞ。
俺は、首から彼女をぶら下げたまま歩くのである。
「カリーナもはしゃぐ時ははしゃぐのねー」
シェレラはニコニコ。微笑ましげに俺からぶら下がるカリーナを見つめている。
「おかえり、ダン!」
人混みの中から、また飛び出してくる細い影。
細いけれど胸はしっかりとある、ふんわり金髪の美女……つまり、受付嬢のエイラだ。
目を潤ませながら、俺に向かってくる足取りは変わらない。
「本当に心配したんだから、ダンのバカ! でも、ちゃんと竜人をやっつけちゃうなんて……! ううん、それよりも私、ダンが無事で戻ってきてくれたことが嬉しいわ……! ダン!」
あっ、エイラまで飛びついてきた。
俺は、首からエイラもぶら下げて歩くのである。
「なんだか二人だけずるいぞ」
シェレラも羨ましくなったらしい。
「えいっ」
俺の後ろに飛びついた。
ということで、美女三人をぶらんぶらんぶら下げながら歩く俺なのだが、なんだコレ。
俺たちの勝利を祝福する群衆だったが、それが微笑ましいものを見つめるような空気に包まれつつある。
「お兄が凄いことになってる……」
流石に、妹のダリアは飛びついてこなかった。
メガネの奥から、生暖かい視線をこちらに向けてくる。
「おう、ダリア! 情報、役に立ったぞ。っていうか、あの情報が無かったら結構やばかったかもしれん。シュバルガウスって強いのなー」
「そりゃそうだよ。だってあれ、上位竜って呼ばれる、まだ生態も何も分かってないモンスターの一頭だもん。そもそも、ちゃんと繁殖するのか、生態が存在するのかどうかも怪しかったんだよ。それが、今、お兄の活躍のお陰で色々なことが分かってきたわけ」
「ほう、分かってきたか」
「お兄は分かってないよね」
「うむ」
俺は重々しく頷いた。
俺が動くと、ぶら下がっている女子達がいちいちブランブラーンと揺れる。
これ、カリーナは多分酔っ払ってるし、エイラは感極まって正気では無いし、シェレラはさっきから楽しそうにケラケラ笑っているし大変な状況だ。
「ここから先は私が話そう」
うちの親父とお袋の間から現れたのは、背筋のピンと伸びた白髪の老人……ギルドマスターだ。
こうして真っ向から向き合うと、この人が尋常じゃない覇気みたいなのを纏っているのが分かるな。
さっすが、ランク676……!
「ダン、シェレラ。お前たちがシュバルガウスを打倒したことで、上位竜の貴重なまるごとのサンプルが手に入ることになった。恐らく、上位竜とは我らが知るモンスターとは違う存在なのだろう。ひょっとすると、名を知られた上位竜の全てが竜人が化けた姿なのかも知れんのだ」
「へえ……!? っていうか今まで、上位竜ってのもよく知らなかったんだが」
「お前が知っておくべきことは、自分の力が上位竜に対抗しうる貴重な戦力であるということだけだ。そして、意思を持って悪意と被害を撒き散らすモンスター、上位竜に対し、存在そのものが災害となる、厄災竜が存在する。獣人王国を滅ぼした壊天魔獣、ドグラマガーをを含むカテゴリーだ」
「あれって厄災竜だったのねえ……。道理で、何をやっても通じないはずだわ……!」
ギルドマスターはシェレラの言葉を聞き、深く頷いた。
そして、高らかに手を打ち鳴らす。
「さあ、竜人の撃破を祝うのも良いが、状況はそれどころではない。この都市国家付近には、かの竜人以上の敵である厄災竜が存在しているのだ。これより、コーフは、国家を上げての戦闘態勢に入る。敵は、厄災竜にして壊天魔獣の名を持つ、ドグラマガー。一つの山脈が動くと言われるほどの規模を持つ強大なモンスターだ。勝てる、勝てないではない。やらねばならんのだ。エイラ、説明を」
「あ、は、はい!」
俺にぶら下がっていたエイラが我に返った。
ぴょんっと飛び降りると、コホン、と咳払いをする。
「壊天魔獣ドグラマガーが、再び動き出したとの報告が入っています。恐らく、シュバルガウスが動き出した事が、かの厄災竜の注意を惹いたいうのが、モンスター研究所の見解です」
ダリアが得意げにクイクイっとメガネを動かした。
この妹、モンスター研究者の一人だったなあ、そう言えば。
「お話は引き継ぐね。シェレラの話だと攻撃が通じなかったということだけれど、今はかの上位竜、シュバルガウスの素材がまるまる一体分あるわ! これをカリーナと、鍛冶師の皆さんに加工してもらって、対ドグラマガー用の武器とします!」
ダリアの宣言に、周囲に集まったワンダラー達が、おおおおお、とどよめく。
国家挙げてモンスターと戦うなんてこと、数百年に一度あるかないかだ。
「任せといて! ワンダラーの装備だけじゃない。固定型の弩弓砲台やトラップ、色々用意しなきゃいけないね……!」
カリーナが燃えている。
まさに、一世一代の大仕事なのである。
最後にシェレラがストンと地面に降り立ち、尻尾をぴーんと立てた。。
「ほんっと────にっ、嬉しい!! みんな、ドグラマガーと戦ってくれるんだね? みんなの力で、あの憎いモンスターと戦える! 嬉しいよ! お願い、みんなの力を借して! そして、みんなであいつをやっつけよう!!」
彼女の言葉に、周囲のワンダラーたちも乗せられ、おおーっ! とその気になる。
基本、ワンダラーをやる連中なんて、お祭り事に弱いのだ。
「もちろん……ダンが鍵だからね……! ダン以外に、誰があいつにトドメをぶっ込むのって! 今もそう思ってるから」
「おう! なんか、ようやく自分の戦い方が分かってきたところだ。任せておけ!」
俺はドーンと胸を叩いたのだった。
こうして、都市国家コーフは臨戦態勢に入った。
動き出した壊天魔獣ドグラマガー。
急ピッチで進められる、都市国家の改修作業。
これから、前代未聞のどでかい戦いが始まるのだ。




