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「必ずそこまで行ってやるからよ!」

 降りてきたと思ったら、始まったのは今まで以上の猛攻と来た。

 奴さん、相当怒ってやがる。


 こちらに向かって岩場の壁や床を崩し、巨大な瓦礫を撃ち出してくる。

 そいつを防げば、今度はジャンプからの黒い雨の連打だ。


 シェレラが距離を取ろうとすると、距離を詰めてきて尻尾で打ち据えようとする。


「やばいやばいやばい! あの大きさで、なんでこんな速いの!」


 シェレラが悲鳴をあげながら、すんでのところでシュバルガウスの攻撃を回避し、立ち上がりながら射撃を加える。

 新装備のグルルドーンの弓は強力で、そんな牽制の射撃でもモンスターの強固な鱗に突き刺さった。

 シュバルガウスは激しく喉を鳴らしながら、シェレラを睨みつける。


「おい! お前の相手はこっちにもいるぜ!」


 俺は奴の注意を引きつけるため、クロスボウをぶっ放した。

 当然の如く外れていく。


「あー」


「ダン! 距離詰めて詰めて!」


「おう、そうだった!」


 俺はクロスボウを担ぐと、背中に向けてぶっ放した。

 とんでもない反動が背中に生まれる。

 普段なら、力づくで堪えているのだが、今回はこれに身を任せる。


 俺の体が舞い上がり、猛烈な速度でシュバルガウスに向けて吹っ飛んでいく。


「あの装備、確かにダン以外には使いこなせないんだよね。他の人が使ったら、何をやっても身体がバラバラになっちゃうもの」


 シェレラの軽口と共に、俺の動きをサポートするように、頭上から降り注ぐ矢がモンスターの動きを邪魔する。

 お陰で俺は、最短でシュバルガウスへと到達した。


『何だっ、その動きは……!! まるでお前はモンスターのような……!?』


「違いないかも知れんな!」


 俺は腕を伸ばし、奴の鱗を鷲掴みにした。

 飛びついた俺を振り落とそうと、敵は猛烈に暴れる。


 見た感じ、剥離させて黒い雨にできる鱗は限られているようだ。

 だが、剥がれない鱗を掴んだ以上、簡単には離れないぞ!

 背負ったクロスボウを片手で反転させて、ゼロ距離でシュバルガウスに突きつける。


「持ってけ、貫通弾だ!!」


 さきほど込めた弾丸が、砲へ送り込まれる。

 でかいクロスボウは、複数種の弾丸を撃ち分ける事ができる。とんでもない武器だ。


 凄まじい爆発音がした。


『オオオォォォォォッ!?』


 シュバルガウスが絶叫した。

 真っ黒な血が飛び散る。


 この弾丸、モンスターの深いところまで突き刺さったな!

 グルルドーンクラスの重装甲モンスターの鱗を加工した弾だ。


 かなりの重装甲までぶち抜いて、体内まで貫通する。

 肩に突き込まれるクロスボウの反動を、いつもどおり腕力で相殺。

 今度は得物を奴の傷口深く叩き込みながら、片手でポーチを探った。


「もう一発の貫通弾で……頭に叩き込みゃ勝てる!」


『させるかっ!!』


 大きく首を伸ばし、俺に噛み付こうとするシュバルガウス。

 そこへ、放たれた矢が連続して突き刺さる。


『ぐううっ、おのれェっ!?』


 憎々しげに辺りを見回すモンスターの視界を、シェレラが猛スピードで走っていく。

 常に移動し続けながら、無視できない射撃を連発してシュバルガウスの体力を奪っていくのだ。

 しかも、彼女の攻撃が当たる当たる。


 俺の射撃も、あの半分でも当たればなあ……。

 いやいや、人のことを羨むのはやめだ。

 俺には俺にしか出来ないことがある。


 それがこの、相手へ組み付きながらの射撃だ!

 この位置じゃ、モンスターの頭は遠い。

 なら、よじ登るだけだな!


「行くぜ!!」


 俺は奴の鱗に足を掛け、片手でその先を握りしめ、登っていく。


『お前はっ! 離れろーっ!! 何なのだお前は! どうして俺と殴り合って、まだこうして生きている!』


「いやあ、今日は本気で、クロスボウ使いでよかったと思ったぜ! ぴょんぴょん飛び回るお前にゃ、殴る武器じゃ当てられそうにないもんな!」


 ご機嫌で、答えになっていない答えを返しながら、シュバルガウスの身体を登攀していく。


『ええい!! 何だお前は! 言葉が通じぬ!』


 モンスターは怒り任せに咆哮を上げると、俺をぶら下げたまま飛び上がった。

 大きく広げた翼が風をはらむ。

 いや、こいつ、違う。


 翼が風を産んでいるのだ。

 だから、翼を広げただけで羽ばたかずに飛び上がれる。どういう構造だ!?


 しかし飛んだのは好都合だったな!

 空の上なら、叩きつけられる岩壁も無い。

 ということは、安心してこいつにしがみついていられるという事だ!!


『離れろ! 離れろォーッ!!』


 空中を激しく旋回しながら、俺を振り落とそうと暴れるシュバルガウス。

 ハハハ、多少空でバタバタ暴れたくらいで、俺が落ちると思うか?

 おっと、このタイミングだ!


 ちょうど、奴の巨体が空中で反転した頃合い。

 俺は手を離し、シュバルガウスの背中を滑り降りた。

 目指すはモンスターの頭!


『落ちろっ……!』


「お前ごと落ちてやるよ!」


 具足に包まれた踵を、奴の鱗に叩きつける。

 そのショックで、仕込まれた爪が展開され、シュバルガウスの背中に打ち込まれた。


 位置は的確。

 俺はクロスボウを振り回し、眼前に迫ったモンスターの頭に目掛けて叩きつけた。

 盾状に展開した装甲が、奴にぶち当たり轟音を立てた。


『むおぉっ!?』


「終わりだ、シュバルガウス!! 俺たちは、もっと先に行かせてもらう!」


 おそらく、上空数百メートル。

 俺は引き金を引いた。


 放たれる貫通弾。

 シュバルガウスの重厚な頭部を抜けて、弾は奴の奥深くに叩き込まれた。


『オォッ……!! お、お前は……! ダンッ、お前は俺、をっ……!!』


 憎悪に満ちて俺を睨む、シュバルガウスの黄金の瞳。

 それが、ゆっくりと濁っていく。


 翼が揚力を失い、巨体の落下が始まった。

 うおっ、こいつはやばい。

 上手く着地しないと、こいつと一緒に地面へ叩きつけられてしまうな。


 俺はこいつに身体を固定しながら、クロスボウに拡散弾を装填。

 空に向けてぶっ放しながら、落下する砲口をコントロールだ。

 ええと……こんなもんか?


 俺が上になるように、位置を変えて……。

 ……と、俺は何者かの視線を感じた。


 ここは、地上から遥か高く聳え立つ岩山。しかも、その上空だ。

 そこで感じる視線ってなんだ?

 後れ毛がピリピリする。


 俺はふと、振り返っていた。

 そして、見た。

 目が合った。


 砲口は、コーフの北方。

 より岩山が険しくなっていく位置に、それはいた。

 赤い、炎のような色合いの山。


 いや、そいつは山じゃなかった。

 あれはとんでもなくでかいモンスターだ……!


『ルルルルルッ……』


 空気を揺さぶるような、低く喉を鳴らす音が聞こえた。

 あいつとは凄まじく距離があるはずだが、それでも喉を鳴らす音が聞こえるのか。


 ……なるほど、あれが……壊天魔獣ドグラマガー!

 俺とシェレラが倒すべき、標的だ。


 こりゃあ、面白い。


「待ってやがれ、ドグラマガー! 必ずそこまで行ってやるからよ!」


 届かないと知りながらも、俺はクロスボウを奴へ向けた。

 これは、挑戦の意味を込めた号砲だ。


 俺の射撃が高らかに、空へと響き渡った。

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