「こいつを踏み台にして先に行くんだろ!」
姿を現した竜人は、俺たちの目の前で見る見る姿を変えていく。
漆黒の巨体、空を覆うほどの翼、長い尻尾に輝く金色の眼。
「こいつが、シュバルガウスってモンスターか!」
『ほう、力だけと侮っていたが、しっかりと俺の事を調べてきたか。いかにも。俺はシュバルガウスタイプの生体兵器。お前たちが言うところの竜人だ。どれ、下等竜を軽くあしらったお前の力を見せてみろ』
竜人改め、シュバルガウスは高らかに咆哮を上げた。
巨体が俺たちに向かって突き進んでくる。
「そっちから近寄ってくれるなら何よりだ! 行くぞぉ!!」
「あっ、私は遊撃で行くね!」
シェレラはそう告げると、サッと俺から離れていった。
図らずもタイマンになってしまったなあ。
俺が大型クロスボウを構え、シュバルガウスを迎え撃つ。
ガンガンと、装填してある上級の通常弾をぶっ放す。
相手がでかいだけあって、俺でも当たる! 当たるぞ!
「ぬうっ!!」
シュバルガウスは体勢を低くした。
翼を縮め、頭を低く構えて突っ込んでくる。
一気に当てられる面積が減ったぞ!
当然、俺の弾が当たらなくなる。
「ああっ! 高級通常弾が! もったいない!!」
『抜かせぇっ!!』
そこに、シュバルガウスの体当たりが来た。
今まで相手をしてきた、メガパープルやグルルドーンとはものが違う。
俺とこいつじゃ、どれだけのウエイト差があるんだ!?
俺は堪えきれずに、吹っ飛ばされた。
くるくると宙を舞う。
『ガアッ!!』
そこに襲い掛かる、モンスターの太い鞭のような尻尾。
こいつで俺は、上空から地面まで一気に叩き落された。
全身が岩場を砕き、地面にめり込む。
「うおお、びっくりした!」
しかし流石新型装備!
なんともないぜ!!
「それはダンがタフなだけじゃないかなあ……。その装備つけてても、私だったらもうぺちゃんこになってるよ」
「そうか?」
どこからか聞えるシェレラの声に応じつつ、俺はクロスボウを構える。
装填したのは炸裂弾。
これを、埋まった地面目掛けてぶっ放す。
すると、弾丸は発射された瞬間に地面に炸裂し、爆発を起こした。
その爆風で俺が弾き出される。
一瞬遅れて、俺がいた場所にシュバルガウスが前足を振り下ろした。
「間一髪だ! だが、頭の上は取ったぜ! おらあっ!!」
俺は空中で、射撃の反動を無視しつつ得物を振り回した。
クロスボウの金属板部分が、モンスターの頭にぶち当たる。
すごい音がした。
『ゴオオアッ!?』
殴った反動で俺もぶっ飛ぶ。
だが、これはカリーナ特製の俺専用装備なのだ。
「でえい!」
俺は脚に仕掛けられたギミックを発動させた。
すると、膝に仕込まれた使い捨てクロスボウが起動し、炸裂弾を放つ。
俺はこれを使って、空中で姿勢を変えた。
「そおいっ!」
再びシュバルガウスに襲い掛かる俺。
迎え撃つように翼が振り回されてきたので、これにしがみつくことにした。
『ええいっ、離れろ!! なんだお前は!? どうしてあれを食らってピンピンしている!?』
「人よりちょっと頑丈なんだよ! おらおら!」
手にしたクロスボウを振り回し、当たるを幸いにモンスターの翼や背中をぶん殴る。
シュバルガウスは俺を振り落とそうとするのだが、するとシェレラが見えないところから、ガンガンと矢を放ってくる。
しかも、螺旋を描いて、このモンスターの分厚いうろこに突き刺さる矢だ。
「貫通タイプの矢か! やるなシェレラ!」
『ぬうおおお! うっとしい! お前たち、俺がこれまで殺してきた人間どもと明らかに違うぞ!』
モンスターは俺ごと、岩壁に体当たりをした。
俺は翼と岩に挟まれる形になる。
これはすごい衝撃だぞ!
しかし流石新型装備!
なんともないぜ!
それでも、こうやって暴れていると、弾丸を詰め込んだウエストポーチが先にダメになってしまいそうだ。
俺はいそいそとポーチを腹側に回した。
ついでに、貫通弾をひとつ装填しておく。
『ならばこうだ!!』
しがみついて離れない俺に業を煮やしたらしい。
シュバルガウスはなんと、翼の一部を剥落させ、俺を無理やり振り落としたのだ。
「なんと! 肉を切らせてなんとやらか!」
地面をごろごろ転がりながら、俺もこれにはびっくり。
その間にも、シェレラの貫通射撃は続く。
モンスターはこれを嫌がり、翼を大きく広げると羽ばたいた。
「ダン! 飛ぶよー!」
「噂の飛行モードか!!」
シュバルガウスは、俺たちを遥か上空から見下ろす状態だ。
そして、一瞬ヤツの口が笑みの形に歪んだように見えた。
「来るよ!!」
シェレラの声を聞き、俺は防御態勢に入る。
クロスボウを掲げ、むき出しになった顔を守るのだ。
次の瞬間、空から黒い雨が降り注いだ。
シュバルガウスの鱗だ。
こいつは、自分の鱗を砕き、地上にいるものを貫く黒い雨を降らせる力を持っているのだ。
鎧が全身で、ガリガリとモンスターの鱗と擦れ合う音を立てた。
「痛い痛い痛い痛い!! やばいやばい!! うひー!!」
シェレラが黒い雨を掻い潜りながら走ってくる。
あちこち出血しているようだが、この状況であの程度の怪我はなかなか凄いんじゃないか。
「ホッ……。ダンまで辿り着いたよー。あの黒い雨、本当に戦場一帯を攻撃してくるのね……!」
俺を盾に使いながら、黒い雨を凌ぐシェレラ。
「でも……ダリアの情報通り。対策はばっちりだね」
「ああ。この鎧に後は顔を隠せば、大した攻撃じゃない」
ガリガリと鎧の表面が削られている音がするが、俺の予想では、そろそろこの雨は止む。
「普通のパーティならこれで全滅してるねえ。ふう、一息つこ」
「シェレラ、休んでる暇はない。来るぞ! 俺たちは、こいつを踏み台にして先に行くんだろ!」
「そうだった! こんなモンスター、ドグラマガーの前座だよね!」
おお、シェレラの声がでかい。
これはどうやら、シュバルガウスまで届いたらしい。
奴さん、物凄い表情で俺たちを見下ろし、次いで猛スピードで落下してきた。
モンスターの巨体が着地すると、岩盤が砕け散る。
揺らぐ大地。
『俺を前座と言ったか!? 人間風情が!』
「何よ! あんた、まだ視界に収まるサイズのモンスターでしょ! ドグラマガーはもっとでっかいのよ! それをやっつけるんだからね!」
『この人げ……いや、獣人めえっ!!』
言い直したな。
しかし、シェレラの無意識の挑発があったお陰で、奴が降りてきてくれた。
これから第二ラウンドの開始だな!




