『ここで俺は待っていた』
竜人が言ったのは、俺への挑戦状であろう。
俺も、かの悪名高い怪物、竜人に目をつけられるほどビッグになったのかーと思うと、気分が良くなってくる。
「よーしシェレラ! 前祝いだ! 今日は大いに飲もうじゃないか!」
「おー! これで竜人を片付けたら、次はいよいよ……」
「ドグラマガーだな! それも竜人の素材ですげえ武器を作って、やっつける!!」
「きたー!」
酒も飲んでないのに、二人で大盛り上がりだ。
ギルドの中は、いよいよ本格的になって来た竜人の脅威に怯え、静まり返っている。
だが、どうして静まる必要があるだろう。
やっつければいいのだ!
俺とシェレラは必要な消耗品の買い付けを行った。
俺は、ひたすら弾丸。
「何を買えばいいんだろう……」
いざ、クロスボウの弾を買おうとして、俺は途方に暮れた。
よく考えたら、今まで通常弾しか使ったことがない。しかも一番安いやつだ。
しかし、今、俺の手元には結構な額の金がある。
「通常弾のいいの買ったらどうかな。あと炸裂弾」
「……炸裂弾、とは」
「その名の通り、撃つと炸裂して広範囲を攻撃する弾。あとは、分厚い装甲を貫く貫通弾とか」
「貫通弾! そんなのもあるのか」
「……ねえダン。あなた本当にクロスボウ使いを目指してたのよね?」
あまりに俺に弾の知識が無いので、シェレラから疑いの視線が飛んだ。
「し、仕方ないだろう。俺はついこの間まで、練習用クロスボウしか触ることを許されてなかったんだ。仕事ができないから経済的な理由で」
「そっか! 最近の大暴れしてるダンしか記憶にないから、ダンが全然仕事できてなかったワンダラーだってこと忘れてたよ!」
「うっ! 久々に突き刺さる物言い!」
身体は大きいがハートはガラスの俺なのである。
強化ガラスとか言うな。
俺は店主に進められるままに、弾丸をストックしておく大型のホルダーを購入した。
結構な値段がするが、ウェストポーチサイズのそれに大量の弾丸を携行できるのだから、今後の戦闘力向上に影響することだろう。
「ダン、そんなリュックサックみたいなの腰に付けてるのに全然違和感ないねえ」
「リュックサック? ハハハ、こんなサイズがリュックなわけないだろう」
「ダンのリュックって、私が二人くらい入りそうなリュックだものねえ」
シェレラは、大型の矢筒。複数の筒を組み合わせた形をしている。
簡単な仕掛けが付いていて、腰のあたりに伸びた紐を使って、それぞれの矢が収められた筒が回転し、取り出しやすくなっている。
さらに、フック付きロープなどを購入だ。
「あんたら、こうやって見ると、とてもこの間まで駆け出しだったワンダラーだとは思えないねえ。そいつはね、最近中央の方から流れてきた新型の装備さ」
店主が自慢げに語る。
「中央から見りゃ、シルバーキャプターレベルのワンダラーでも中堅もいいところ。中には、うちのギルドマスターに匹敵するランクの化物もゴロゴロいるって話だぜ」
「へえー。それは凄いな! 想像もつかねえ」
「神の祝福持ちも何人もいるからな。だが、ダン君とシェレラちゃんはあっちに行っても、案外活躍できるかもな!」
嬉しいことを言ってくれるなあ。
俺はその気になった。
そして、この気分がいいまま、翌日の朝に俺たちは出発したのである。
「竜人は前座だからねー。サクサク片付けないと」
と口にしたシェレラに、ギルドの連中がみんな絶句していたのは傑作だった。
だが、ギルドマスターだけは薄っすらと笑っていた。
「そうだな。私が現役なら、君たちと同じ事を口にするだろう。この都市国家に留まる器で無いものが、竜人を恐れるものではない。君たちが本物ならば、この壁を必ずや乗り越える事ができるだろう」
案外、あのじいさんも若い頃はヤンチャしていたのかも知れない。
エイラは胃の痛そうな顔をしているし、カリーナは「私の新作の威力を試して来い!」なんて言って親指を立てていた。
うちの家族なんか、こぞって応援にやって来たくらいだ。
「お兄! 情報は少ないけど、竜人は黒い竜になったんだって。目撃した人から詳しく聞いたら、多分、あれはシュバルガウス。弱点は、頭を死ぬほど殴ると死ぬよ!」
「有用な情報だな!!」
「ダンにしか役立たない情報だねえ」
生暖かく微笑むシェレラの前で、モンスター学者である妹、ダリアからシュバルガウスなるモンスターの情報を受け取る。
短時間なら空を飛び、鞭のような強靭な尻尾は岩をも砕き……それからとんでもない武器を持ってるじゃないか。
「おう、役に立ったぜダリア! こいつでやらせてもらうぜ!」
かくして、俺たちは竜人の目撃情報を追い、様々な狩場を巡ることになった。
まずはグルルドーンを狩った狩場。
「いないねえ」
「いないなあ。シェレラ、変な匂いとかしない?」
「森の中は匂いが強すぎてねー」
彼女は鼻をくんくんさせた。
そして、チラッと俺を見る。
「でも、ダンの匂いはよく分かるよ?」
「お、おう」
次に、シルバーキャプターが向かったという森林地帯。
竜人にへし折られたと思しき木々が散らばっていて、回収しきれなかったシルバーキャプターの装備を発見した。
「ここでやられたんだなあ」
「残ってるの、モンスターが暴れた跡だけだねえ。全然抵抗できてなかったみたい。絶望しちゃったとか?」
「一発殴り返せなかったのは残念だねえ」
「その分も俺が殴ってやるさ」
次に向かったのは、中堅ワンダラーたちがやられたという岩山。
流石にそろそろ出てきてくれないかねえ。
……と思ったら。
「いた」
「いたね、あれだよね」
岩山は、石でできた舞台が、幾つも鎖でつなぎ合わされた特殊な環境だ。
その、最も奥まった場所に、奴はいた。
黒フードにマント。
衣装の隙間から、漆黒の尻尾がはみ出している。
『やっと来たか。ここで俺は待っていた』
竜人はフードの闇の中、笑みの形を作る。
『下等竜とは言え、俺の手下を一蹴した力を見せてもらおうか、ダン……!!』
「ちょっと、私もいるんだけど!!」
いよいよ、竜人との直接対決が幕を開ける。




