「なんだこのハンディクロスボウ!?」
ばかすかと、クロスボウをぶっ放す。
今日も今日とて、射撃練習なのである。
シェレラの訓練はスパルタだが、実に理にかなっている。
どう構えるか、どう狙うか。
自分が必中を期すことができる距離はどこなのか。
「ダンは構えは我流、狙いはでたらめ。それじゃあ、当たるものも当たらないわ! でも……こんな構えだからこそ至近距離からの攻撃に即応できるんだよねー」
シェレラが悩ましげにつぶやく。
「つまり俺はどうすればいいんだ」
「そのままでいいんじゃないかなー」
「ええーっ!! い、いやだーっ! だってクロスボウが当たらないんだぞ!? 俺は遠くから素早く、ハンディクロスボウでモンスターを射抜くカッコいいクロスボウ使いを目指しているんだ!!」
「えっ、だってダン、いつもヘヴィクロスボウをぶら下げて歩いてるじゃない。しかも半分鈍器でしょ、あれ」
「片手で持てるからハンディクロスボウなんだよ!」
シェレラは何を言っているのだ。
百歩譲って、俺のクロスボウがカリーナの魔改造で鈍器化していることは認めよう。
だが、ヘヴィは地面に設置して敵を狙い撃つものだ。
俺みたいに、ぶんぶん振り回してモンスターを殴ったり、攻撃を受け止めたりするものではない。
つまり、このクロスボウはヘヴィでないなら、消去法的にハンディクロスボウだと言えるのだ。
完璧な理論だ。
「じゃあ、私も百歩譲ってそれでいいや」
「それでってなんだろう……」
腑に落ちない俺である。
だが、シェレラに懇切丁寧な指導をされても、相変わらず弾が当たらない。
2mから内側に、弾が入らないのである。
これは……俺の才能の限界というやつだろうか。
「ある意味ここまで外せるのは天才!!」
「それは嬉しくないぞシェレラ!」
「でも、だからこそ接近戦を挑まないといけないわけじゃない? ダンって大型モンスターと真っ向から殴りあえるんだから、この命中しなさこそが神の祝福の一つだよ!」
「ほ、褒められてる……?」
ちょっと混乱する俺。
シェレラは目をキラキラさせて、尻尾をパタパタさせているから、間違いなくあれは本心から言っている。
褒めてるつもりだ。
「あ、ありがとう」
複雑な気持ちでお礼を言った。
「どういたしまして! あっ、カリーナが工房から出てくるよ?」
鍛冶場にずっと籠もりきりだったカリーナ。
山程のグルルドーン素材と、希少石を使って、俺とシェレラ専用の装備を作っていたところだ。
今、扉が開き、カリーナの小柄な身体がふらふらしながら出現した。
「うい~、お、終わったぁ」
そう言うなり、彼女は床にばたりと突っ伏し、ぐうぐうと眠り始めた。
徹夜で装備を作り続けていたのだ。
それにしたって、並の鍛冶師や一昼夜で二人分の装備一式なんて作れるわけがない。
「やはり天才……!」
シェレラの言葉に、俺は頷く。
そして、二人揃って胸を高鳴らせながら、鍛冶場に足を踏み入れるのである。
そこには……巨大な岩と金属を溶け合わせたような塊があった。
「なっ……なんだこのハンディクロスボウ!?」
そう、そいつには砲口がついていて、弾を入れる場所があった。
握りとトリガーもついている。
多分、ハンディクロスボウだ。
ただし、でかさがシェレラの身の丈ほどある。
岩と金属が溶け合ったような外装は、やたらとごつくて左右に張り出し、これだけ嵩張るなら盾としても鈍器としても有用だろう。
「すっごいクロスボウだねえ……。特大のヘヴィクロスボウくらいあるよ、それ」
「ああ。まさかこんなハンディクロスボウを作ってくれるとはな」
俺は新たな得物をひょいっと持ち上げた。
心地よい重量感。
これ一本で、シェレラ三人分くらいの重さがあるな。
「見てみて、ダン! 私はこれ!」
シェレラが構えたのは、岩を思わせる重厚な握りと、弧を描く美しい金属の本体が同居した弓だった。
「これ、貫通型だね。あえて拡散は捨てたかー。竜人対策ようの弓ね! 早く射ってみたーい!」
「俺もだ!」
さらに、兜に篭手、鎧に具足と、装備一式も完成している。
おざなりに床に転がされている辺り、完成させること第一であったカリーナの作業ぶりが伺えるというものだ。
二人でカチャカチャと装備を身につけると、面白いように装備後の姿が違う。
シェレラの鎧は、彼女の動きを邪魔しないように、要所だけを守るように配置されている。
肩当ては小さめ、胸当ても可能な限り、尖った部分がない。
弓を射る際に引っかかる部分は無いだろう。
対して、俺。
でかい肩当て。でかい兜。ごつい鎧。篭手にも明らかに握りの邪魔になりそうな、外付けメリケンサックがついている。
うーん……。俺は射手なのだが……!!
「うわーっ、似合うよダン! それって絶対、前衛でモンスター殴り倒すのに向いてる!」
「そ、そうか? 似合うならまあいいか! 前衛ってところが引っ掛かるが。シェレラもいいじゃないか! そうだな、その、可愛いぞ」
「えっ、可愛い!?」
シェレラが満面に笑みを浮かべた。
尻尾がブンブン振られているから、とても喜んでいる事がわかる。
二人でフル装備になり、工房から出てくると、ギルドに集まったワンダラーたちの注目が集まることになった。
「すげえ装備だ……」
「あいつ、バカでかいヘヴィクロスボウを片手で持ってやがる……」
「なんだあの鎧。城壁着て歩いてるようなもんじゃねえか」
「シェレラの装備は可愛いな」
「あの弓、貫通型ね。形もお洒落だし、よく似合ってる!」
「弓のために作られた装備か……。理に適った作りをしている!」
……俺とシェレラで、みんなの装備に対する感想が全然違うんだけど。
「ダンの装備はあれだよね。モンスターを威嚇する意図がある気がする! だからみんな威圧されてるんだよ!」
シェレラはいつでもポジティブだなあ。
でも、そう言われるとそんな気になってくるな。
俺は調子に乗って、がおー、なんて言いながらポーズを決めてみた。
ワンダラーたち、一斉に身構えかけたね。
そんなに俺の装備は見た目が怖いのか。
そうこうしていると、エイラが小走りにやって来た。
何やら、外から報告を受け取ったらしい。
「みんな、聞いて! 事態が大きく動いたわ!」
「大きく動いたと言うと」
俺がヌッと出ていくと、エイラは「ひゃぁー」と悲鳴を上げて腰を抜かしかけた。
「な、なんだ、ダンなの……。すっごい装備ね……」
「カリーナが一晩でやってくれた」
「すごい……すごく、モンスターっぽい……って、それどころじゃないの! いや、その装備も凄いからそれどころなんだけど!」
「エイラ落ち着いて!」
シェレラに両肩をさすられて、エイラはハッと我に返った。
そして、何度か深呼吸する。
意を決したように、顔を上げた。
「大変なの。シルバーキャプターが全滅したわ。相手は間違いなく、竜人。その後、中堅パーティのカッパービルを一人を残して全滅させて、メッセージを預けたの」
エイラが振り返る。
そこには、真っ青な顔をした槍使いの女がいた。
「りゅ、竜人が……ダンを出せって、そう、言ってた……」
俺をご指名というわけか。




